永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(80) 今度は堂々とした立ち姿、そして…… 永瀬正敏が撮った台湾

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。前回に続き、台湾の台北市で出会ったギター少女です。今度は堂々とした立ち姿で写真に収まっています。そして後日……。

(80) 今度は堂々とした立ち姿、そして…… 永瀬正敏が撮った台湾

©Masatoshi Nagase

前回紹介した、台北駅の前で出会ったギター少女。

ステージを終え駆け寄ってくれた。
そして、ステージから僕らの姿を見つけたこと、ライブを見てくれたことのお礼を伝えてくれた。

実は彼女たちはステージに立つ前、現代のテクノロジーを使って少し僕のことをリサーチしてくれたそうだ。
情報解禁前だったので台湾映画の撮影中だったことは知らないようだったが、
僕が決して怪しい者ではないことは分かってくれた。

それよりも何よりもステージをやりきった、その充実感が表情に出ていた。
他の出演者の爆音にも負けず、彼女はギター1本の弾き語りで立派にステージを務めた。

「さっきの場所でもう一度写真を撮らせてくれない?」

僕はお願いした。今度は「いいよ」とすぐに返事をくれた。
あの堂々とした感じが撮りたくて、ギターを抱えビル群をバックに立ち姿を撮影した。
小さな彼女がとても大きく感じた。

後日、台湾で写真展をやらせていただいた際、サイン会を開催した。
その列の中に彼女の姿があった。
「私、ギターの……」
覚えているかどうか、不安そうに声をかけてくれた。
「おぉ! もちろん覚えてるよ! わざわざありがとう! 写真飾らせてもらってるよ!」
彼女はハニカミながらうなずいた。
写真を撮らせていただいた方にこうして作品を見てもらえるのは最高の気分だ。

あの日撮影を終えた後、彼女はステージで使っていたピックを僕にプレゼントしてくれた。
「将来、お宝になるよ」。ほほえみながらそう言って。
そのピックは思い出とともに今も大切にしている。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に常盤司郎監督「最初の晩餐」、オダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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