楽園ビーチ探訪

サルの楽園、南伊豆・波勝崎 民泊の別荘から眺める大海原

ここ数年、サイトを介して個人同士が行うシェアリングやマッチングなど、新しいサービスが暮らしの中に入ってきています。旅行においては、2018年に新法で話題になった「民泊」が、お部屋や家をシェアし、貸し手と借り手をマッチングさせる点で、人と人をつなぐ新しいサービスといえるでしょう。静岡県南伊豆町の波勝崎(はがちざき)で、生まれて初めて民泊を体験しました。
(トップ写真:南伊豆へ行こうと思ったきっかけとなったIzu Cliff House。初めての民泊体験©Michika Mochizuki,Model:Mika Furuya)

連載「楽園ビーチ探訪」は、リゾートやカルチャー、エコなどを切り口に、国内外の海にフォーカスした読み物や情報を発信するビーチライターの古関千恵子さんが訪れた、世界各地の美しいビーチや、海のある街や島を紹介いたします。

3面ガラス張りの別荘をサイトで発見

たまたまネットで見つけた国立公園内に立つ「Izu Cliff House(伊豆クリフハウス)」が、ホテルや旅館ではなく、一般の方が貸し出している別荘だったのです。海に面した山間の中腹に立つ、3面がガラス張りのモダニズム建築に滞在してみたくなったのです。

ホスト(貸し手)さんと対面することのないサイト上のやりとり、はじめてだったので最初は不安でした。けれど、サイトユーザーからの評価の高いホストさんは、評判どおりに説明も、過ごし方の提案も親切丁寧。サービス業に時折みられる型にはまったものを感じさせない心づかいに、うれしくなってしまいます。

サル300頭 「波勝崎苑」が「波勝崎モンキーベイ」として復活

手配を整え、さて当日。宿泊先へ向かう前に、少々寄り道をして、波勝崎へ回ってみることにしました。そこは300頭のサルが自由に暮らしているビーチで、子供の頃に一度訪れたことがある場所です。

現在は「波勝崎モンキーベイ」として看板を掲げていますが、その前身は1957年に開業した「南伊豆 波勝崎苑」。地元に暮らす肥田与平さんが仕事で山に入るうちにサルに興味をもち、波勝崎苑で飼育担当として働くことに。試行錯誤を重ねつつサルと向き合い、25年間も来園者にサルの生態を面白おかしく説明し、人気を博していたそうです。

サルの背後には三角錐(すい) の岩が連なる

サルの背後には、かつてのマグマの通り道が地上に現れた「火山の根」である三角錐(すい) の岩が連なる

けれど、時代は変わり、波勝崎苑の施設も老朽化し、来園者も減少。2019年9月には休園となってしまいました。

檻(おり)に入っていないとはいえ、60年あまりも人の手から餌を与えられ続けたサルたち。閉園となれば、食べ物を得る術が断たれ、近隣の農作物を荒らすことになり、愛されていた存在が害獣となってしまいます。そして300頭の中には赤ちゃんザルが多く、飢え死にしてしまうかもしれません。

そこで南伊豆町が声をかけたのが、半島の反対側・河津町の老朽化したテーマパークを「体感型動物園iZoo」として復活させた園長の白輪剛史さんです。波勝崎へ視察に訪れた白輪さんは、東京からこんな近くに美しい自然があること、サルたちが群れで暮らしていることを知り、それが世間的には知られていないことに驚いたそう。「G8に参加している先進国でサルが自然分布しているのは日本だけ。インバウンドのツーリズムにおいても大きな魅力になる」と波勝崎のポテンシャルの高さを感じたのです。

白輪さんは再生のためには、まずサルたちに関心をもってもらおうと、クラウドファンディングを行うことにしました。「ニホンザル300匹を救え! 南伊豆 モンキーベイ誕生プロジェクト!」と題し、ネットを通して波勝崎苑の窮状を伝え、資金集めの声をかけたのです。2020年4月16日から70日間の募集期間で、665人から、目標の1千万円を大きく上回る約1200万円もの善意が寄せられました。こうして一度は休園したものの、2020年5月に「波勝崎モンキーベイ」として再オープンすることができました。

険しい坂道を降り、サルがたわむれる美しい入り江へ

赤ちゃんサルが通年、見られます©Michika Mochizuki

赤ちゃんサルが通年、見られます。ひとつの群れに120~130頭が属する、大きなものは珍しいといいます©Michika Mochizuki

波勝崎モンキーベイは、駐車場から両サイドに山が迫る険しい坂道を下りて、小さな入り江を目指します。道の脇では人を気にすることなく、サルたちが毛繕いや昼寝をしています。

浜まで下りると、小屋があり、人間はその中からサルたちに餌をあげるシステム。餌やり時はちょっとしたバトルタイム。さっきまでのんびりと横になっていたサルも加わって、競い合って欲しがります。野性を感じる瞬間です。

来場者は小屋の中から餌をあげます

来場者は小屋の中から餌をあげます。サルたちの生活圏にお邪魔する気分です

波勝崎は伊豆半島ジオパークにも含まれ、入り江としての美しさも見どころです。かつてのマグマの通り道が地上に現れた「火山の根」と呼ばれる三角錐(すい)の岩の連なりや、地熱で高温になった熱水により黄白色に変色した岩壁など、地球の歩みがそこここに見てとれます。流木がころがる小石の浜に、遊ぶサルたち。波勝崎ならではの風景でしょう。

柱状節理の巨岩

火山活動のなごり、柱状節理の巨岩が道路脇に

視界に人工物なし ウッドデッキからの眺めに酔う

Izu Cliff Houseから見下ろす大海原©Michika Mochizuki

Izu Cliff Houseから見下ろす大海原。地中海のようでもあり、どこにいるのか、わからなくなります©Michika Mochizuki

さて、お目当てのIzu Cliff Houseに到着。ウッドデッキからの海の眺望は人工物が視界に入らないせいか、日本にいることを忘れてしまいそう。ホストの提案でアレンジした、テラスでのマッサージやオーガニックなお弁当のケータリングも、正解でした。

ビーガン料理のケータリング

ホストさんから提案を受け、オーダーしたビーガン料理のケータリング。種から育てた、すべて手作り

サイトを介した民泊体験と、クラウドファンディングによって救われたサルたちの入り江。昨今、人間関係が希薄になっているというけれど、今どきのシステムが人と人をしっかり結び、新しいつながりを生んでいるのを実感します。

【取材協力】
Airbnb
https://www.airbnb.jp/

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PROFILE

古関千恵子

ビーチライター。リゾートやカルチャー、エコなどを切り口に、国内外の海にフォーカスした読み物や情報を発信する。ダイビング雑誌の編集者を経てフリーとなり、“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”を繰り返すこと四半世紀以上。『世界のビーチ BEST100』(ダイヤモンド・ビッグ社)の企画・執筆、『奇跡のリゾート 星のや 竹富島』(河出書房新社)の共著のほか、ファッション誌(『Safari』『ELLE Japon』など)やウェブサイトに寄稿。ブログも配信中。

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