海の見える駅 徒歩0分の絶景

ホームから見下ろす相模灘と湯けむり 静岡県の伊豆北川駅と伊豆熱川駅

伊豆半島を南北に走る「伊豆急」こと伊豆急行。相模灘に沿って走るため、海の見える駅も数多い。ただ、それ以上に現地で驚いたのは、だいたいどの駅前にも温泉旅館があること。調べてみると、静岡県の源泉数は全国3位。そのうちの97%にあたる2千以上の源泉が、伊豆半島に存在するのだという。

■連載「海の見える駅 徒歩0分の絶景」は、アマチュア写真家の村松拓さんが、海のそばにある駅で撮った写真を紹介しながら、そこで出会ったこと、感じたことをつづります。

そんな温泉天国・伊豆半島の中でも、とりわけ温泉街と海を一望できるのが、静岡県東伊豆町にある伊豆北川(ほっかわ)駅と伊豆熱川(あたがわ)駅だ。これら2駅はとなり合っているのだが、実際に訪れてみると、まったく異なる趣だった。

秘境感漂う絶景の無人駅、伊豆北川駅

伊豆北川駅を訪れたのは、2016年5月。ブルーの列車を降りるやいなや、足元からはるかかなたまで海が広がった。初夏の日差しが真上から降り注ぎ、列車の色にも負けない、深い青を放っていた。

ホームから見下ろす相模灘と湯けむり 静岡県の伊豆北川駅と伊豆熱川駅

列車を降りたのは自分ひとり。周りを見渡すと、駅の大半は森に囲まれている。海が見えなければ、山間の駅と言っても違和感がないほど。駅のすぐ裏を国道が通るが、森のおかげで、車の気配もほとんど感じない。無人駅ということもあり、ちょっとした秘境に来た気分だ。

ホームから見下ろす相模灘と湯けむり 静岡県の伊豆北川駅と伊豆熱川駅

伊豆北川駅の入口。駅前には一軒の店も住宅も見当たらない

ただ、伊豆北川駅は北川温泉の最寄り駅でもある。ホームから改めて海のほうを見下ろせば、切り立った崖と海岸との間のわずかな土地に、旅館やホテルがひしめき合うのが見える。温泉街の生活感と、駅の静けさとのギャップが面白い。温泉街への道のりは、駅前の急坂を歩いておよそ500メートルだが、道中にも飲食店や土産物店は見当たらなかった。

ホームから見下ろす相模灘と湯けむり 静岡県の伊豆北川駅と伊豆熱川駅

ホームから見下ろす北川温泉の温泉街。北川温泉は、波打ち際にある公共の露天風呂「黒根岩風呂」で有名

ちなみに、温泉に隣接した北川港では、定置網漁が盛ん。この日も定置網漁船とおぼしき白い船が小さな湾に2隻浮かんでおり、青々とした海の中で、ひときわ爽やかなアクセントになっていた。

伊豆北川駅から見下ろす、海の絶景。そこには、温泉街、北川港、定置網漁船という、北川温泉の魅力が詰まっている。

湯けむりが包む温泉街の駅、伊豆熱川駅

伊豆熱川駅は、伊豆有数の温泉街・熱川温泉の玄関口。ひっそりとした無人駅の伊豆北川駅とは対照的に、東京から直通する特急「サフィール踊り子」「踊り子」も停車する有人駅だ。

訪れたのは、2013年2月のある平日。時刻は午後5時ごろ。海の見える駅の旅では珍しく、十数人もの乗客とともに下車した。ぱっと見る限り、これから宿に向かうであろう観光客と、家路につく地元住民が半々といったところだ。

列車を見送ると、熱川の温泉街と相模灘が眼下に広がった。

ホームから見下ろす相模灘と湯けむり 静岡県の伊豆北川駅と伊豆熱川駅

穏やかな海を背景に立ち並ぶ、大小さまざまな宿。その間から湯けむりが力強く立ち昇っては、いつの間にか空へと消えていく。すでに日の入りを迎え、辺りは夕日のオレンジ色から、淡いピンク色に移ろい始めている。およそ30キロメートル先にある伊豆大島もぼんやりとかすんで、海と空に溶け込んでいた。

ホームから見下ろす相模灘と湯けむり 静岡県の伊豆北川駅と伊豆熱川駅

ちなみに、湯けむりの正体はおよそ100℃という高温の源泉。それが街のいたるところで自噴している。伊豆熱川駅の目と鼻の先でも、湯気の柱がもくもくと立ち昇る。道路沿いの排水溝からもうっすらと湯気が立ち、見ているだけでもなんだか温かい。

ホームから見下ろす相模灘と湯けむり 静岡県の伊豆北川駅と伊豆熱川駅

ホームの目と鼻の先にある、源泉やぐら。勢いよく立ち昇る湯気は、なかなかの迫力

どこを向いても、温泉ばかり。伊豆熱川駅は、ホームにいながらにして、温泉とともにある熱川の日常を感じられる駅だった。

ホームから見下ろす相模灘と湯けむり 静岡県の伊豆北川駅と伊豆熱川駅

夕暮れの伊豆熱川駅。駅が湯けむりに包まれているよう。駅前には足湯もある

いよいよ日も暮れて、体が冷え始める。ひとっ風呂浴びたい気持ちをぐっとこらえて、予定通り、鈍行列車で家路についた。

東海道新幹線熱海駅からJR伊東線・伊豆急行で約1時間(伊豆北川駅)、約65分(伊豆熱川駅)。

伊豆急行
https://www.izukyu.co.jp/

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BOOK

ホームから見下ろす相模灘と湯けむり 静岡県の伊豆北川駅と伊豆熱川駅
海の見える駅
海の見える駅を巡る村松拓さんの旅をまとめたガイドブックです。これまでに訪問した約300駅の中から70カ所を選び、駅の写真、簡単な説明とともに紹介しています。
雷鳥社
定価:1500円(税別)

PROFILE

村松拓

アマチュア写真家
1991年1月生まれ。川崎市出身。
2004年の夏休み、初めての一人旅で見た常磐線の車窓が忘れられず、2005年に末続駅(福島県いわき市)を訪問。それから海の見える駅の旅を始め、これまでに約300駅を取材。2006年にWebサイト「海の見える駅」を開設。現在は東京・新橋で会社員として働く傍ら、余暇で旅を続ける。著書に『海の見える駅』(雷鳥社・2017年)。

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