あの街の素顔

阿蘇山はやっぱりど迫力! 鉄道や道路も熊本地震から復旧 

みなさんは2016年に起きた熊本地震を覚えておられるでしょうか。最大震度7を記録し、熊本県や大分県など九州各地にたいへん大きな被害をもたらしました。あれから4年半。被災地の一つである熊本県の阿蘇では、復興への歩みが確かなものになってきました。不通になっていた鉄道や道路がようやく復旧。観光しやすい環境が整ってきたのです。ならば、「阿蘇の今」を見に行こう――。私は旅立ちました。火山、大草原などの雄大な風景に、豊かな郷土料理……。あらためて阿蘇の魅力を発見する旅になりました。
(文・写真、宮﨑健二)

熊本地震の爪痕をミュージアムに

JR熊本駅から乗りこんだのは観光列車の「特急 あそぼーい!」。

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「特急 あそぼーい!」の先頭車両の前部は、景色が広角で楽しめるパノラマシートになっています

豊肥線を走ること1時間余り。赤水駅に着きました。その後は車で移動。車窓から見える景色はこんな感じです。

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阿蘇の風景。水が豊富なので稲作が盛んです

普通の田園風景に見えるかもしれませんが、阿蘇が独特なのは、ぐるり360度、このような風景に囲まれていることです。盆地ではありませんよ。火山活動が作った南北25キロ、東西18キロの巨大なカルデラの中に人々が住み、生活しているのです。

大きな声では言えませんが、私は子供の頃には親から「肝っ玉が小さい」と言われ、大人になってからは友人から「人間が小さい」と指摘されてきました。そんな私がこの巨大なカルデラの中に身を置くと、ますます小さくなっていく自分を感じます。このままでは、TOTOのウォシュレット一体型便器のCMに出てくる、トイレに潜む菌の兄弟、リトルベンとミクロベンくらいにまでなってしまいそうです。

と、くよくよ考えているうちに、南阿蘇村の旧東海大学阿蘇キャンパスに着きました。目に飛び込んできたのは、熊本地震で激しく損壊した校舎です。

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校舎の壊れた壁や柱。地震のすさまじさを実感します

熊本地震では私が住んでいる福岡市でも震度5弱を記録しました。大きな揺れに見舞われた当時の恐ろしさをあらためて思い出しました。

校舎近くの地面にはこんな亀裂が。地表地震断層です。

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地震で生じた地表地震断層。保存、管理のためにフェンスで囲まれています

熊本県と南阿蘇村など8市町村は、各地に散らばる震災の爪痕を震災遺構として残して、めぐることができるようにする、熊本地震震災ミュージアムの整備を進めています。震災に学び、これからの防災に生かすためです。旧東海大学阿蘇キャンパスの震災遺構は2020年8月から無料で見学できるようになりました。

そして、地震で崩落した阿蘇大橋。今も残っていて、豊肥線の電車内から見えます。

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阿蘇大橋の崩落現場。峡谷にひっかかるような形で残っています

阿蘇大橋の崩落で阿蘇の主要道路である国道325号と国道57号は寸断されてしまいました。しかし、2020年10月、国道57号の北に「国道57号北側復旧ルート」という無料の自動車専用道路が開通。これに先立つ8月には、不通になっていた豊肥線の肥後大津~阿蘇間が復旧し、豊肥線も全線開通しました。復興や観光の大きな課題の一つだったアクセスが大きく改善したのです。また、阿蘇大橋も場所を変えて建設が進んでおり、2021年3月ごろに開通する予定です。

阿蘇の雄大な自然に現れたくまモン!

では、阿蘇の観光スポットを見ていきましょう。まずは、高森町にある高森殿(たかもりどん)の杉。見たことのない、すごい形状です。

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高森殿の杉。見ていると、自分の体もくねくね動かしたくなりました

この杉の木があるのは放牧地の杉林。近くでは、「あか牛」がのんびりと草を食べていました。草原の多い阿蘇では牛や馬の放牧がさかんです。

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あか牛は人が近づいても気にならない様子でした

同じ高森町にある「月廻(まわ)り公園」に移動しました。山々を眺めて一服していると、おおっ、突然、あの大人気キャラクターの姿が!

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熊本県営業部長兼しあわせ部長のくまモン。根子岳をバックに元気よくジャンプしてくれました

実は阿蘇を取材するためにやって来た私たち一行のために、熊本県が対面の場を設けてくださったのです。

くまモンは、熊本県出身の正代の幕内優勝と大関昇進を祝ってしこを踏んだり、寝転んでのセクシーポーズや軽快なダンスを次々に披露したりしてくれました。その旺盛なサービス精神に、私はほとほと感心してしまいました。

ところが、くまモンは驚くべき行動に出たのです。なんと、油断している私から取材ノートとボールペンを強奪。私は思わず「なんばするとね!」。すると、くまモンはサインをしてノートとボールペンを返してくれました。そうだったのか。ありがとう、くまモン。このサインは私だけの宝物です。墓場まで持っていきますよ。でも、&TRAVELの読者のみなさんにだけはこっそりお見せしましょうね。

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くまモンのサイン……。というか、落書き?

くまモンに別れを告げて、阿蘇市の阿蘇神社に行きました。見事な楼門(ろうもん)です。

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阿蘇神社の正面からの眺めですが……

見つめているうちに、私は首をかしげました。なにかおかしいぞ……そうです、この楼門はフェンスに描かれた絵なのでした。楼門は熊本地震で損壊。今はこのフェンスの向こう側で復旧工事が進められています。

阿蘇神社の門前町には、飲食店や土産店が並んでいます。湧き水が豊富なこの地域では、店や民家が水飲み場を表に出して自由に使えるようにしています。水基(みずき)と呼ばれていて、この水基をめぐる散策が楽しめます。

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水基の一つ。飲んでみると、実においしい水でした

仏様のような阿蘇五岳と、空に浮くボール

さあ、旅は2日目を迎えました。午前6時に目覚めると、阿蘇市内のホテルの部屋から阿蘇五岳(ごがく)が見えました。根子岳、高岳、中岳、烏帽子(えぼし)岳、杵島(きしま)岳で五岳。そう、5Gです。阿蘇五岳が並んで見える景色は涅槃(ねはん)像と呼ばれています。写真左端のぎざぎざした根子岳を頭、隣の高岳を胸、というふうに見立てると仏様があおむけに寝ている姿に見える、というわけです。

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朝焼けの中の涅槃像。中央から上がっている煙は中岳の噴煙です。雲海も見えました

ホテルを出発して、阿蘇市のふれあい水辺公園に行くと、熱気球が浮かんでいました。

熱気球、下から見るか? 横から見るか? まずは下から。

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下から見た熱気球。ボールみたいですね

でも、やっぱり、横から、でしょ。

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青空と山々を背景に浮かぶ熱気球。鮮やかな色がさらに映えてとてもきれいです

私も乗ってみました。驚くほど静かに速くスーッと上がっていきます。

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熱気球は約40メートルの高さまで上昇。下を見ると、人がこんなに小さく見えました

ついさきほどホテルから見た阿蘇五岳の涅槃像も見えました。絶景です。

こうしたアクティビティーはほかにもあります。阿蘇市の田子山に行きました。ここには「そらふねの桟橋」という展望スポットがあります。

ここからの景色は幻想的でした。

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そらふねの桟橋からは雲海が見えました。でも、地元の人によると、もっとすごい雲海が出ることもあるそうです

アザトカワイイ? いえアザミです

さらにもう一つ。米塚(こめづか)の溶岩トンネル探検を体験しました。米塚は約3000年前にできた火山です。


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米塚の斜面は緑に覆われていてなだらか。見ていると、ほっこりします

米塚周辺には火山活動で流れた溶岩が作りだしたトンネルがあります。その一つに入ってみました。足元にはけっこう大きな石がごろごろ。上からは水がポトポトと滴り落ちてきます。火山活動が作り出した自然の造形を体感しました。

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溶岩トンネルの内部。ヘルメットをかぶって入りました

以上、紹介した熱気球体験、田子山散策、溶岩トンネル探検は早朝か午前中に開催されています。有料で予約が必要。田子山散策と溶岩トンネル探検は11月末までです。熱気球体験は阿蘇ネイチャーランド、田子山散策と溶岩トンネル探検は阿蘇温泉観光旅館協同組合が、それぞれ問い合わせと予約の窓口です。

米塚の近くの道ばたにはヤマアザミが咲いていました。日向坂46のヒット曲は「アザトカワイイ」ですが、阿蘇では「アザミカワイイ」です。

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紫のヤマアザミ。ススキに交じって風にゆらゆらと揺れていました

やっぱりど迫力! 中岳第一火口

さあ、全国3000万の火山ファン(筆者による推定)のみなさん、お待たせいたしました。いよいよ阿蘇観光の真打の登場です。中岳第一火口にやってまいりました。

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噴煙が上がる中岳第一火口。すごい迫力です

第一火口は直径600メートル、深さ130メートル。滝のような噴気の音が絶え間なく聞こえて、噴煙がもくもくと上がっています。

この日は噴火活動が穏やかでした。しかし、油断はできません。火口近くには、噴火で飛んできた噴石がありました。中岳では噴火活動の程度や風向きによって立ち入りが規制されることが少なくありません。

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大きな噴石。もし直撃されたら無事ではいられないでしょう

第一火口の近くにあったのは砂千里ケ浜。古い火口跡で、黒い砂浜が広がっています。火山がつくりだした異世界の景色です。

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黒一色の砂千里ケ浜。火星の地表の写真に似ているような……

圧巻! 草千里ケ浜

中岳を下ると、阿蘇の有名な景色がありました。草千里ケ浜。往年の漫才師の海原千里、歌手の大江千里、阪急電鉄の駅の北千里、南千里……千里にもいろいろありますが、この草千里こそは千里業界の頂点に立つ存在といえましょう。

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緑の草原が広がる草千里ケ浜。乗馬体験をしている人がいました

阿蘇の旅も終わりに近づいてきました。最後に、阿蘇で食べた郷土料理を紹介しましょう。

まず、田楽。高森町の「高森田楽の里」という店で食べました。イモ、ヤマメ、豆腐、ナスを目の前の炭火で焼き、特製のみそをつけてほおばりました。うまかあ! 山の幸のフルコースです。

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焼き加減は店の人が親切に教えてくれました。田楽定食は税込み1980円でした

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定食に付いていた、だご汁。素朴な味がたまりません

そして、草千里ケ浜のレストランで食べたのが、阿蘇高菜あか牛丼セット。あか牛の肉の下には、きざみ青高菜をまぜたごはんが。肉のやわらかさと高菜のシャキシャキした食感との組み合わせが絶妙でした。

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阿蘇高菜あか牛丼。セットで税込み1920円でした

今回の旅を通じて、阿蘇は数ある観光地の中でも別格だとあらためて感じました。活発な噴火活動が続く火口をこの目で見ることができる機会はなかなかありません。ほかにもダイナミックな景観が楽しめるし、アクティビティーも。もちろん温泉もありますよ。読者のみなさんももちろん同意していただけるでしょ? 「あ、そ」なんて軽く受け流さずに、深くうなずいてくださいね。「あー、そーだよね」と。

熊本地震震災ミュージアム
https://kumamotojishin-museum.com/

阿蘇ネイチャーランド
http://www.aso.ne.jp/~natureland/

阿蘇温泉観光旅館協同組合
http://onsen.aso.ne.jp/

高森田楽の里
https://dengakunosato.com/

PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、江澤香織、高松平藏、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 宮﨑健二

    旅ライター。1958年、福岡市生まれ。新聞社を退社後、主に九州の旅とアウエーでのサッカー観戦を楽しみに過ごす。共著書に「失われゆく仕事の図鑑」(グラフィック社)。

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