「自転車のまち」土浦から筑波山、霞ケ浦をポタリング旅

コロナ禍で野外やアウトドアへの需要が高まるなか、いまの季節にちょうど良いのが、目的地を特に定めることなく観光感覚で自転車を走らせる「ポタリング」。 都心から電車で約1時間。東に霞ケ浦、西に筑波山がそびえる自然豊かな土浦かいわいは、江戸時代には宿場町、水陸の要衝として発展した歴史的建物や景観が今も往時をしのばせる。そんな土浦を中心に、霞ケ浦と筑波山をめぐることができるのが「つくば霞ケ浦りんりんロード」だ。首都圏からも近く、公共交通機関を利用して手ぶらで気軽に楽しめるというので、常磐線に飛び乗りその魅力を探りに行ってきた。
(文・写真:鈴木博美)
ナショナルサイクルルートとは?
つくば霞ケ浦りんりんロードは、全長約180km、旧筑波鉄道の廃線敷と霞ケ浦を周回する湖岸道路を合わせたコースで、国土交通省が定める「ナショナルサイクルルート」にも指定されている。ナショナルサイクルルートは、2019年、自転車活用推進法に基づくサイクルツーリズムの推進策の一環として、国が「つくば霞ケ浦りんりんロード」(茨城県)、「ビワイチ」(滋賀県)、「しまなみ海道サイクリングロード」(広島県、愛媛県)の3ルートを指定している。
ナショナルサイクルルート
https://www.mlit.go.jp/road/bicycleuse/good-cycle-japan/national_cycle_route/index.html
土浦駅から始まる日帰りポタリング旅
JR土浦駅ホームに到着すると、さっそく待合室や壁にサイクリングにまつわる装飾を発見。改札には「ようこそ”サイクリングのまち土浦”へ」と書かれた大きな看板が掲げられ、期待感が高まる。駅直結の「プレイアトレ土浦」には、レンタサイクルをはじめ、シャワー、ロッカー、自転車メンテナンス、自転車を持ち込める部屋のある「星野リゾートBEB5土浦」まで、サイクリストのニーズを満たす、国内最大級のサイクリング特化施設となっている。
レンタサイクルは土浦駅、または最寄りに複数ある。営業時間や料金がそれぞれ異なるので、自分に合ったショップを選ぶといい。
・レンタサイクルスポット ル・サイク土浦店
https://lecyc.jp・りんりんスクエア土浦
https://www.ringringroad.com/square/・ハローサイクリング
https://www.hellocycling.jp・土浦まちかど蔵「大徳」
http://www.tsuchiura-kankou.jp/cycling/
りんりんロードを走り、小田城を目指す
土浦駅を出発して10分ほどで市街地を抜け、りんりんロードの案内板に従って推奨ルートへ。信号にも邪魔されずに平坦(へいたん)でどこまでも続く真っすぐな道がとても走りやすい。実はこの道は1918年から1987年、大正から昭和にかけて走っていた筑波鉄道の廃線敷を活用している。ルート上では以前の駅舎ホームが休憩所となっている。線路跡を走っていると思うとノスタルジックな風景に見えてくる。
復元された戦国時代の小田城跡を歴史散歩
駅から1時間半ほど走り、鎌倉時代から戦国時代にかけて常陸国南部を支配した小田氏の居城跡に到着。堀と土塁に囲まれた本丸空間内に池などが復元されている。小田城跡歴史ひろば案内所では、小田氏と小田城跡について詳しく知ることができる。
小田城跡歴史ひろば案内所
住所:つくば市小田2532-2
電話:029-867-4070
開所時間:9:00~16:30 休:毎週月曜日、祝日の翌日、年末年始(12月28日~1月4日)
※遺構復元広場は常時開放
入館料:無料
最大勾配25%超の激坂「つくば道」で心が折れる
廃線敷を離れ、筑波山参拝の門前町として栄えた北条から「つくば道」へ入る。ここは筑波山神社まで1里(約4km)の起点となる。徳川三代将軍・家光の時代に筑波山神社への道として開設された由緒ある道に並ぶ土蔵造りの立派な家並み、江戸時代の面影を感じさせる景観は「日本の道百選」にも選ばれている。
真正面にそびえる筑波山に向かって道は急坂になる。息が切れ、ペダルも重い。見上げれば、まだまだ続く壁のような道に打ちのめされ、自転車を押しながら一の鳥居前に到着。参拝用駐車場に自転車を止めて、山門まで1kmほど歩く。
最大斜度が25%を超える道沿いには段々の美しい白壁や1939(昭和14)年に建てられた旧筑波山郵便局など、フォトジェニックなスポットが点在する。
筑波山神社でお参りをして山頂へ
筑波山そのものをご神体と仰ぐ筑波山神社は、長い歴史を有する古社。中腹の拝殿より山頂までが境内だ。筑波山は「男体山」と「女体山」の二峰から成る。その山容から男女二柱の祖神がまつられ、それぞれの頂上にはイザナギとイザナミがまつられている。夫婦の神様なので、縁結びや夫婦和合にご利益があるとも言われている。山頂へ向かう前に、まずは拝殿でごあいさつをしていこう。
日本百名山に数えられる筑波山だが、標高は低く比較的気軽に登山が楽しめる。数々の奇岩と杉の巨木の山道を歩くのは気持ちいい。しかし激坂で体力を使い果たしたため、境内の横から運行されているケーブルカーで楽して山頂へ。柔軟な対応で無理なく動くことも大切だ。
筑波山ケーブルカー
http://www.mt-tsukuba.com/
番外:ポタリングで寄りたいおいしいスポット
自転車をこげばおなかもすく。ということで、コース近くでおすすめの、おいしいスポットを紹介する。
■名物おやじの名作「鴨汁そば」
つくば道の急坂に立つ「そば心 ゐ田(いだ)」は、囲炉裏を囲む純和風の店内に静かに流れるジャズの音が心地よい。注文の後にお抹茶とお菓子が運ばれてきた。わざわざ坂を上ってきてくれたことへのねぎらいの気持ちだという。なんと品のある店だ。しかし、鴨(かも)汁そばが運ばれてくると同時に菜箸を持った店主が登場し、雰囲気は一変する。
「まずはそばだけよくかんで食べる。もっとかんで、もっとかんで」「次はそばつゆにつけて一口、お次は薬味を入れて一口」「次は鉄板で焼いたカモ肉にネギを巻き、そばつゆにゆっくりくぐらせて食べる」。勝手に肉に手をつけると指導の声が飛ぶ。最後は鉄板にそばとつゆを入れてじゅうじゅう焼いて食べる斬新な手法。締めのそば湯は、まるでポタージュのようなとろみ。薬味の生わさびを入れていただく。店主を含め何もかもが新感覚。終始付きっきりの指導は少々やかましいが、間違いなく絶品だ。
そば心 ゐ田
住所:つくば市筑波552-3
電話:029-850-8082
営業時間:11:00~18:00(木曜定休)
■つくば道の起点、北条のレトロカフェ「カフェ ポステン」
つくば道の入り口近く、レトロなたたずまいの「カフェ ポステン」は、昭和初期につくられ、郵便局として使われていた木造建築を改装したカフェ。昭和時代にタイムスリップした感覚でくつろぎながら、地元の食材を使ったランチプレートやホームメイドスイーツ、焼き菓子などが楽しめる。
カフェ ポステン
https://www.cafe-posten.com/
■つくば山麓に広がるワイナリー
北条の中心地からほど近い丘の中腹に一面のブドウ畑が広がっている。まるでヨーロッパに瞬間移動したようだ。「つくばワイナリー」は、自然に囲まれたブドウ畑と醸造所にショップが併設する。小規模ならではの、造り手の個性を表現したワインづくりが評判を集めている。
筑波山麓(さんろく)は海からの風、花崗岩(かこうがん)質が風化した土壌と関東ローム層に覆われた肥沃(ひよく)な土地で、果実の栽培に適し、気候的にブドウの産地である山梨県の甲府市にも劣らないとされている。
メルローと山ぶどうの交配品種「富士の夢」で造られた「ツクバ ルージュ プレミアム」 は、色濃くしっかりとしたコクがありながらもジューシーな果実味が口いっぱいに広がる逸品。買わない手はない。
総走行距離約50キロ、ゴールは霞ケ浦
霞ケ浦を見るため再びりんりんロードを一路土浦へ戻る。途中、土浦駅近くに露天、内湯、サウナを設備するスーパー銭湯を見つけた。ここをポタリングの締めくくりとしようか。予定を変更しながらもサイクリングを楽しむのがポタリングのよいところ。楽しみをエサに、湖までもう少しだけ走る。
夕日には少し早かったが、強い西日が湖と、遠くの白い帆をかけたヨットを明るく照らしていた。傷み傾いた木製の鳥居と小さなほこらが真っ青な湖に向かって立ち、湖を渡る風の音が感傷を誘う。合計50キロほどのポタリングだったが、つくば道を除けば平坦で走りやすい道だ。
自転車のスピードで景色を楽しみながら、通りすがりで見かけた土地の味や隠れた名所を発見する。それこそが小回りが利く自転車旅の面白さというものだろう。太ももとお尻が少々痛いが、銭湯でゆっくりもみほぐすとしよう。次はりんりんロードに桜が咲く頃に自転車を走らせてみたい。