可愛い! 「世界でもっとも小さい」町 クロアチアの旅 (3) フム
文: 相原恭子(文・写真)

ツアーの行き先としてはメジャーでないけれど足を運べばとりこになる街を、ヨーロッパを知り尽くした作家・写真家の相原恭子さんが訪ねる「魅せられて 必見のヨーロッパ」。2018年秋に訪れたクロアチアの旅、今回はイストラ半島の内陸部にある「世界一小さい町」フムを訪ねました。
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城壁に着いた、秋の日の午後
プーラを車で出発して、イストラ半島の内陸部を走り、フムまで約80キロのドライブ。1時間余りで到着しました。
イストラ半島はアドリア海沿岸地方と、トリュフで知られるモトブン周辺などの山間部があり、起伏に富んだ風景が楽しめます。
フムが属するブゼト市もトリュフの産地として知られています。

(左)城壁に建つ高さ25mの塔、(右)周囲はのどかな丘陵地帯
フムに到着。町を取り巻く壁に建つ塔の前に車をとめました。この町が文書に最初に登場するのは1102年。この壁はベネチア人やトルコ人の侵攻から町を守るために建てられました。パンパスグラスの白銀の穂が、傾きかけた日に照らされて秋らしい美しい午後です。

塔を眺めながら町の中へ歩きます

童話に出てきそうな可愛らしい路地
フムは人口30人。2013年には人口が18人だったそうです。世界一小さい町とされています。

石の壁にベコニアが映える美しい窓が
聖母被昇天教会と、聖ヒエロニムス教会

(左)聖母被昇天教会と鐘楼、(右)聖母被昇天教会の祭壇
聖母被昇天教会は、すでに13世紀に教会が建てられていた場所に、19世紀初頭に建てられたバロック様式の教会です。

聖ヒエロニムス教会と墓地
こちらは、聖ヒエロニムス教会の、公園のような明るい雰囲気の墓地。周囲の丘陵地帯を見晴らせる場所にある墓標を見ながら、この小さな町に生きて、この地に眠る人たちの生涯はどんなだったろうかと思いをはせました。

聖ヒエロニムス教会のカギを持った女性
見学できる時間ではなかったのですが、運良く、教会の鍵を持った女性が現れました!
墓地の管理を交替でしている人だそうです。「私は一個人ですし、たまたま居合わせただけなので」と、お名前はお聞きできませんでした。

聖ヒエロニムス教会の内部
ひっそりとしています。
12世紀に建てられたロマネスク様式の教会です。フレスコ画が描かれているのが見て取れます。これらのフレスコ画は12世紀後半から13世紀初頭にかけて描かれたとされます。

祭壇に向かって左側の壁画です
キリストの「十字架降架」が描かれています。図像、衣のヒダなどが、どこかビザンチン時代を思わせます。歴史的にみても、この地域がビザンチン帝国に属していた時期がありました。
確かに、クロアチア語、英語、イタリア語、ドイツ語で書かれた教会の外の立て札には、ビザンチン様式の画法の影響が強いと書かれています。しかし、近年はベネチアやザルツブルクの画家とのつながりも指摘されています。

細い路地
路地を歩いていると、愛らしい小さな店が。中へ入ってみると、野草などを使った蒸留酒が店内にたくさん並んでいます。

(左)店員のメリタさん、(右)ビスカのボトル
何の約束もなく、ただ通りすがりに店へ入った私に「フムの名物といえば、ビスカですよ」と話しかけてくれたのは店員のメリタさん。親切にも、早速テイスティングさせてくださいました。薬効がありそうな味わいです。その香りに、何だか胸がスッキリするような気がします。
メリタさんは、「ビスカはブランデーの一種で、今も約2000年前からのレシピで作られています。薬草が使われており、動脈硬化や血圧を安定させる効果があるとされています」と説明してくれました。
説明を聞いていると、ビスカが「飲む薬」のように思えてきます。でも、アルコール度数が37.5%と高いので、気を付けないといけません。
フムは最近、世界一小さい町としてだけでなく、ビスカの町としても知られるようになりました。

町の立て札「HUM」
なぜかこの町に愛着を感じて、後ろ髪を引かれる思いでフムを後にしました。
今回はたった半日の滞在でしたが、次回はぜひ数日滞在したいものです。
私のクロアチアの旅は、さらにフムから沿岸地方へと南下しながら続きます。
■クロアチア・ハートフルセンター
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■Croatian National Tourist Board
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