楽園ビーチ探訪

沖縄の原風景とおもてなし 琉球・尚円王ゆかりの伊是名島

沖縄本島の北、東シナ海に浮かぶ伊是名島。沖縄本島周辺の島なので、行きやすいかと思いきや、アクセスのハードルが高めのツウ好みな島です。
(トップ写真:海ギタラと陸<アギ>ギタラ。海と陸で対のように尖った巨岩が並んでいます ©いぜな観光協会)

連載「楽園ビーチ探訪」は、リゾートやカルチャー、エコなどを切り口に、国内外の海にフォーカスした読み物や情報を発信するビーチライターの古関千恵子さんが訪れた、世界各地の美しいビーチや、海のある街や島を紹介いたします。

フェリーに大きく描かれた尚円王は島の英雄

伊是名島へ渡るフェリーが発着する運天港があるのは、沖縄本島の北部・今帰仁村。那覇から運天港まで車で約2時間かかります。那覇空港と運天港を結ぶ「やんばる急行バス」ならば、約2時間45分。運天港からさらに、「フェリーいぜな尚円(しょうえん) 」で約55分、海の旅が続きます。

このフェリーに大きく描かれている、空に向かって指差す人は、400年余の長期安定政権を築いた琉球王朝第二尚氏の始祖、尚円王が島から旅立つ時をイメージした姿。農民から天下人まで登り詰めた、伊是名島ゆかりの英雄です。

仲田港と本島の運天港を1日2往復するフェリーいぜな尚円©いぜな島観光協会

仲田港と本島の運天港を1日2往復するフェリーいぜな尚円。島のヒーロー、尚円王が描かれています©いぜな島観光協会

幼少時代に松金(まちがに)、やがて金丸(かなまる)と呼ばれた尚円王は、勤勉かつ美男子。島の女たちの憧れの的でした。そんな松金が伊是名島を出なくてはならなくなったのは、男たちの妬みがきっかけでした。

ある年、干ばつであちこちの水田が枯れた時も、金丸の田だけ、高地にあるにもかかわらず、水をなみなみとたたえていました。これを見た男たちは、よその田から水を盗んできたに違いないと、怒り心頭、金丸に危害を加える計画を練りました。危険が迫っていることを察した金丸は、伊是名島を後にし、やがて首里に舞台を移して、出世の階段を上っていくことになります。

どうして、金丸の田だけ水が豊富だったのか。地元のおばあさんは「そりゃあ器量よしだからさ、金丸を思って、女たちが水を持っていったんだよー」。赤瓦の家の縁側で聞く尚円王の話は、歴史というよりも、茶飲み話のようです。

那覇空港から約4時間、のどかな風景と多彩な顔持つビーチ

那覇空港から片道約4時間の遠路はるばる訪れた伊是名島は、1周約16キロメートル、人口は1400人足らず。五つの集落があり、サンゴを積み上げた塀や赤瓦の民家、フクギ並木など、のどかな沖縄の原風景が広がっています。

集落にはフクギ並木やデイゴの巨木など、沖縄ならではの木々が©いぜな島観光協会

集落にはフクギ並木やデイゴの巨木など、沖縄ならではの木々が ©いぜな島観光協会

国指定重要文化財の銘苅家住宅©いぜな島観光協会

国指定重要文化財の銘苅家住宅は、尚円王の叔父の家系の家。別邸は入場無料 ©いぜな島観光協会

フェリーに描かれた尚円王は、尚円王御庭公園に設置された、若き日の金丸の銅像がモデル。これは、同じく伊是名島出身のアーティスト、名嘉睦稔さん(通称ボクネンさん)の作品です。ボクネンさんといえば、版画作品が有名。茂みの合間から覗く輝く海や、鮮やかなオレンジ色のアダンの実など、彼の作品になった数々の光景を、伊是名島のあちこちに見ることができます。

仲田港と伊是名の集落。仲田港の沖には屋那覇島©いぜな島観光協会

仲田港と伊是名の集落。仲田港の沖には屋那覇島が浮かんでいます©いぜな島観光協会

尚円王御庭公園に立つ、大志を抱いて島を出ていく金丸(尚円王)の銅像

尚円王御庭公園に立つ、大志を抱いて島を出ていく金丸(尚円王)の銅像

島の南東にある二見ケ浦海岸は、「日本の渚(なぎさ)百選」にも選ばれている景勝地。円錐形の岩山・伊是名城跡のふもとのビーチから海ギタラまでの海岸一帯を指し、地元では「マッテラの浜」とも呼ばれています。伊是名城跡の岩山、サンゴの欠片が点在する砂浜、干潮時に潮だまりになる岩場、岩に囲まれ隠れた入り江など、いろんな表情のあるビーチです。

11~14世紀に築かれた伊是名城跡

11~14世紀に築かれた伊是名城跡。陸側は岩でがっちりと組み、もう一方は海。難攻不落の城塞と言われたそうです

二見ヶ浦海岸の海©いぜな島観光協会

いろんな青が混ざり合った、二見ケ浦海岸の海 ©いぜな島観光協会

少し西に回った海ギタラ・陸(アギ)ギタラは、海と陸とで向き合うようにそびえる、2つの尖った岩塊。「ギタラ」とは海人(うみんちゅ)の言葉で「切り立つ岩」。この岩はかつて海底に沈殿した地層が隆起したチャートで、沖縄でよく見かける琉球石灰岩とは異なります。

沖縄の原風景とおもてなし 琉球・尚円王ゆかりの伊是名島

巨岩がごろごろと転がり、琉球石灰岩とは異なるビーチの雰囲気

毒性高いハブは不在、隆起と沈降の影響か

ちなみに、伊是名島には毒性の高いハブが生息していません。その理由のひとつに考えられているのが、地形の変動。琉球列島は太古の昔に何度も隆起と沈降を繰り返し、標高の高くない島では、ハブが洗い流されてしまったのでは、と。原因はわかりませんが、夜も安心して出歩けるのは、ネオンのない満天の星空が広がる島ではうれしいことです。

もうひとつ、島の南西の伊是名ビーチも、美しい白砂のロングビーチ。沖に屋那覇島などの島々を望む、遠浅の海が広がっています。キャンプもできる、天然の海水浴場です。

島特有のおもてなし「イヒャジューテー」

伊是名島を散策中、いくつかの民家の縁側にお茶の準備がしてあるのを、見かけました。これは「イヒャジューテー」という島民特有のおもてなし。たとえ留守にしていても、縁側で休んでいってくださいな、という心づかいがこめられているそうです。

あるおばあさんによると、相手に「何を飲む?」と聞くのは失礼なことだとか。自分がおいしいと思うものをあげるのだ、と。おかげで、おばあさんが大好きな砂糖たっぷりのコーヒーを、幾度となくごちそうになりました。もてなすことが何よりもうれしい島の人々の気持ちにほっこりする島です。

【取材協力】
いぜな島観光協会
https://www.izena-kanko.jp/

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PROFILE

古関千恵子

ビーチライター。リゾートやカルチャー、エコなどを切り口に、国内外の海にフォーカスした読み物や情報を発信する。ダイビング雑誌の編集者を経てフリーとなり、“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”を繰り返すこと四半世紀以上。『世界のビーチ BEST100』(ダイヤモンド・ビッグ社)の企画・執筆、『奇跡のリゾート 星のや 竹富島』(河出書房新社)の共著のほか、ファッション誌(『Safari』『ELLE Japon』など)やウェブサイトに寄稿。ブログも配信中。

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