京都ゆるり休日さんぽ

秋の特別公開・紅葉の大徳寺塔頭と、洛北おすすめ店

戦国武将や茶の湯との関わりが深い、洛北の禅寺・大徳寺。地元の人々の散歩コースにもなっている境内には24もの塔頭寺院がありますが、その多くは通常非公開。特別公開の限られた期間だけ、山門の奥に秘められた美しい庭園や文化財を見ることができます。今回は、塔頭寺院の中でもとりわけ紅葉が美しい「黄梅院(おうばいいん)」と「興臨院」を訪ねました。散歩しながら境内を抜けたすぐ先に、おいしい食事やスイーツの店も待っています。(メイン写真=photolibrary〈https://www.photolibrary.jp/〉)

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙)

苔と紅葉に心奪われる、利休の庭——黄梅院

石畳、苔(こけ)、散りもみじが美しい前庭。撮影可能なのはこちらの庭のみ(画像=photolibrary)

石畳、苔、散りもみじが美しい前庭。撮影可能なのはこちらの庭のみ(画像=photolibrary

織田信長、豊臣秀吉、千利休ら、安土桃山時代の武将・文化人とゆかりのある黄梅院。表門をくぐると、石畳の両側を覆う苔のじゅうたんと散りもみじの鮮やかなコントラストに迎えられます。本堂と書院周りに広がる庭園は、千利休が62歳の時に作庭した「直中庭(じきちゅうてい)」。京都通や茶道をたしなむ人、庭園好きなどにもファンの多い名庭です。

千利休作庭「直中庭」。一面が苔で覆われた池泉回遊式庭園で、随所に利休ゆかりの人々の品が置かれている(画像=京都春秋)

千利休作庭「直中庭」。一面が苔で覆われた池泉回遊式庭園で、随所に利休ゆかりの人々の品が置かれている(画像=京都春秋)

豊臣秀吉の馬印「瓢簞(ひょうたん)」をかたどった空池を手前に、大徳寺二世・徹翁(てっとう)和尚が比叡山より持ち帰ったと伝わる不動三尊石を正面に配した池泉回遊式で、池の左には、秀吉の忠臣・加藤清正伝承の朝鮮灯籠(とうろう)がたたずむ。時の武将と茶人との関係の深さを物語るかのような庭園です。一面が苔で覆われたみずみずしい光景は、ぐるりと囲む回廊のどこから見ても美しく、利休の愛した侘(わ)びと自然の気配とが息づいているよう。秋の公開時期には木々が錦に色づき、ここでも苔の緑との美しい対比を描きます。

本堂と庫裏(くり)の間にある坪庭「閑坐庭(方丈東庭)」。こちらは現代に作庭された(画像=京都春秋)

本堂と庫裏(くり)の間にある坪庭「閑坐庭(方丈東庭)」。こちらは現代に作庭された(画像=京都春秋)

一方、本堂前庭の「破頭庭」、庫裏から本堂の裏庭である「作仏庭」、坪庭「閑坐庭」などは、枯山水で表現された簡素な庭園。一面の苔の緑から白川砂の白へ、野趣をたたえた風景からシンプルな構成美へと、見る人の心を誘います。桃山時代の水墨画の名手・雲谷等顔(うんこく・とうがん)の障壁画や、現存する禅宗寺院の中では日本最古に属する庫裏(くり)など、当時の文化を伝える貴重な手がかりも見逃せません。

大徳寺黄梅院特別公開
https://kyotoshunju.com/temple/daitokuji-oubaiin/
12月6日まで
京都市北区紫野大徳寺町83-1
075-231-7015(京都春秋)
10:00〜16:00(受け付け終了)
大人800円

紅葉が彩る建築美 戦国武将の静かな菩提寺——興臨院

本堂をぐるりと囲む縁側を歩いて、庭園を鑑賞できる(画像=photolibrary)

本堂をぐるりと囲む縁側を歩いて、庭園を鑑賞できる(画像=photolibrary

「昭和の小堀遠州」とうたわれた作庭家・中根金作が復元した方丈庭園や、室町〜桃山期や禅寺特有の建築様式を鑑賞できるのが興臨院。能登の大名・畠山義総(よしふさ)が創建し、秀吉の五大老の一人・前田利家に受け継がれ菩提(ぼだい)寺となった、歴代戦国武将ゆかりの寺です。

本堂は屋根が低く、落ち着きのある安土桃山建築のたたずまい。中根金作が復元した方丈庭園をのぞむ(画像=京都春秋)

本堂は屋根が低く、落ち着きのある安土桃山建築のたたずまい。中根金作が復元した方丈庭園をのぞむ(画像=京都春秋)

方丈庭園から右手に回り込むと、真っ赤に色づく紅葉に迎えられる(画像=photolibrary)

方丈庭園から右手に回り込むと、真っ赤に色づく紅葉に迎えられる(画像=photolibrary

近世の方丈建築よりも屋根の低い本堂は、建物全体に安定感と優美さをたたえた、桃山時代以降に特徴的な様式。そこから眺める方丈庭園は、白砂と石組みで蓬萊世界を表現した、スタンダードながら想像力をかきたてる景色です。また、表門から本堂へと続く参道は深紅に色づく紅葉が美しいスポット。禅宗寺院に特徴的な花頭窓からのぞく風景が、心をしんと落ち着かせます。

参道を進むと、「客待」の建屋の花頭窓から方丈庭園の緑がのぞく(画像=京都春秋)

参道を進むと、「客待」の建屋の花頭窓から方丈庭園の緑がのぞく(画像=京都春秋)

大徳寺興臨院特別公開
https://kyotoshunju.com/temple/daitokuji-kohrinin/
12月15日まで
京都市北区紫野大徳寺町80
075-231-7015(京都春秋)
10:00〜16:30(受け付け終了。11月30日以降は16:00受け付け終了)
大人600円

料亭が手がける蕎麦と、話題の焼き菓子店

禅宗や茶の湯にゆかりのある大徳寺だけに、周辺にはおいしい蕎麦(そば)店や和菓子店が点在します。大徳寺南東に店を構える「蕎麦と料理 五(いつつ)」は、大徳寺塔頭の一つ、真珠庵(あん)からくみ上げた井戸水で作る手打ち蕎麦の店。人気料亭「和久傳」が手がける蕎麦の店らしく、季節を繊細に表現した一品料理との組み合わせや、大徳寺納豆をはじめ7種の穀物をぎっしりと詰め込んだここだけのお菓子「七宝」も絶品です。

「手打ち蕎麦(冷)」(1000円・税別)。まずは塩、その後わさびやつゆで味わう。提供時期によって蕎麦の産地が変わり、その違いを味わうのもおもしろい(撮影:津久井珠美)

「手打ち蕎麦(冷)」(1000円・税別)。まずは塩、その後わさびやつゆで味わう。提供時期によって蕎麦の産地が変わり、その違いを味わうのもおもしろい(撮影:津久井珠美)

蕎麦と料理 五(いつつ)
https://www.wakuden.jp/ryotei/itsutsu/
(過去記事はこちら

大徳寺の裏手に2018年秋オープンした「歩粉(ほこ)」は、レシピ本などを数多く手がける店主・磯谷仁美さんの焼き菓子の店。かつて、東京・恵比寿で伝説的な人気を集めていた同店が京都で再スタートしたと聞きつけ、全国からファンが訪れます。素材の風味を生かし、季節の果実や香りを巧みに織り込み作られる焼き菓子は、一度食べたら忘れられなくなるほど滋味豊か。スコーン、季節のパウンドケーキ、豆乳くずもちなど、食感や風味の異なるお菓子が並ぶセットは、ゆったりと味わうぜいたくなティータイムです。

現在は、1皿にお菓子を盛り合わせた「デザートSセット」(1900円・税別)のみの提供。写真は2皿からなる「デザートフルセット」の1皿目だが、Sセットの場合は奥のエッグクラッカーサンドがパウンドケーキになる。予約がベター(撮影:津久井珠美)

現在は、1皿にお菓子を盛り合わせた「デザートSセット」(1900円・税別)のみの提供。写真は2皿からなる「デザートフルセット」の1皿目だが、Sセットの場合は奥のエッグクラッカーサンドがパウンドケーキになる。予約がベター(撮影:津久井珠美)

歩粉(ほこ)
https://www.hocoweb.com
(過去記事はこちら

*現在、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、不定期・予約制営業。営業日はHPの「News」欄で要確認。空席があれば当日入店可能だが、予約がベター

大徳寺周辺は、嵐山や東山といった観光名所に比べると静かで、密を避けゆったりと散策できるエリア。南は西陣織の町屋が残る西陣地区、北は良質な個人店が多い紫竹地区があり、暮らしに根ざした街の姿を知ることができます。自分のペースで、自分の感性の向くままに旅すると、京都がもっと身近で親しみ深く感じられるはずです。

■「京都ゆるり休日さんぽ」のバックナンバーはこちら

BOOK

秋の特別公開・紅葉の大徳寺塔頭と、洛北おすすめ店

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が2019年6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。


PROFILE

大橋知沙

編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

禅寺アートと紅葉色づく「建仁寺」 秋の祇園そぞろ歩き

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