あの街の素顔

オオカミやマンモスの絶景? 麦焼酎発祥の地 壱岐の旅(上)

一般的な観光地とは違って、島には独特の自然や景観、時間、文化がありますよね。島旅が大好きな私は今回、長崎県の壱岐(いき)を訪ねました。九州と対馬の間に位置し、南北約17キロ、東西約15キロというコンパクトサイズの島です。私には地味な印象があったのですが、行ってみたら、あれま、びっくり。長い年月を経てできた自然の絶景や、弥生時代の遺跡、神々が宿るたくさんの神社など、見どころがたくさんありました。存在感がキラリと光る壱岐を2回に分けてご紹介します。
(文・写真、宮﨑健二)

博多港から1時間 古代「一支国」の島

高速船ヴィーナスで福岡市の博多港を出発してから約1時間後、壱岐の芦辺港に着きました。

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芦辺港に着いたヴィーナス。平日でしたが、多くの乗客がここで降りました

壱岐の歴史上の大きな特色は、中国の史書に書かれた「倭国」(日本)の中の国、一支国(いきこく)があったことです。そこで、一支国博物館を訪ねました。


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壱岐の歴史について知ることができる一支国博物館。観覧料は大人が税込み410円です

リアルなジオラマと人面石

博物館では、弥生時代の一支国の様子をジオラマで再現しています。

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一支国のジオラマ。人々の生活がいきいきと再現されています

人々の表情が豊かで実にリアルですね。これには理由があります。ジオラマには弥生人が165体あるのですが、このうち45体は島の人の実際の顔をモデルにしているのです。壱岐の人たちは身近に感じるでしょうね。
展示品を見ていると、あれれ、後ろから誰かに呼びかけられたような気がしました。振り向くと、うひゃあ、こんな不気味な顔が。ムンクの「叫び」ではありませんよ。弥生時代に人の顔を模してつくられた人面石。そのレプリカです。

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実物そっくりに作られた人面石のレプリカ。実物は特別な展覧会などの時に展示されるそうです

人面魚、人面犬などがこれまで世間を騒がせてきました。しかし、この人面石の歴史にはかないません。大きさは縦10.2センチ、横7.4センチ。掌サイズですね。目の部分は彫られ、口の部分は貫通しています。とても貴重なもので、国指定重要文化財になっています。最初は不気味でしたが、慣れてくるとなんだかユーモラスに見えてきました。壱岐では人面石クッキーが土産品として販売されていて、キャラクターとして確立しています。

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人面石クッキー。食べるのをためらってしまいました

この人面石が見つかったのが原の辻(はるのつじ)遺跡。一支国の中心地だったとされており、国の特別史跡に指定されています。博物館の4階の展望室に上がってみました。ここからは総合的、俯瞰(ふかん)的に原の辻遺跡を見ることができます。

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煙が上がっている場所の手前が原の辻遺跡です

原の辻遺跡は公園として整備されていて、竪穴住居などが再現されています。無料で見学ができます。
遺跡の周辺には刈り取りの終わった田んぼが広がっています。壱岐はこのように平地が多く、全体的に平らな島です。
では、どんな景色を見ることができるのでしょうか。島の北部、勝本港から観光船に乗りました。勝本港の沖合に浮かぶ辰ノ島の景観を見ることができるのです。

オオカミ岩、マンモス岩……奇岩がずらり

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辰ノ島をめざす観光船。料金は大人が税込み1500円。問い合わせ、予約の窓口は勝本町漁業協同組合観光案内所です

まず見えたのは、オオカミ岩です。


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海に突き出ているのがオオカミ岩です。ヒゲが生えているように見えますね

そして、海の宮殿と呼ばれる景観も。たしかに宮殿の柱を思わせる景色です。


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海の宮殿。古代ギリシャの建物の柱みたいです

次はマンモス岩です。


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マンモス岩。横からマンモスを見たような形です

と、ここまでは、海が静かでゆったりとした遊覧だったのですが、島の北側に出ると様子は一変。波が高くなり、波しぶきが襲いかかってきました。船は傾き、上下、左右、前後に体が揺れまくり。デンジャラスゾーンに私は放り込まれたのです。デッキの手すりにつかまって体を支えながら、降り注ぐ波しぶきを振り払い、船内放送の説明に耳を傾けつつノートにメモをとり、カメラのシャッターを切る……。なんという忙しさ。手がいくつあっても足りません。猫の手はどこに? 千手観音さん、助けて!
最後はふらふらになってしまいましたが、次々に現れるダイナミックな辰ノ島の絶景を楽しむことができました。

壱岐本島の景勝地もご紹介しましょうね。人面石があるのですから、猿の顔だってあります。猿岩です。


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猿の横顔に見える猿岩。高さは約45メートルあるそうです

気高さがあふれていますね。人面石に分けてあげたいくらいです。
続いて訪ねたのは土台石。


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海岸の近くにある土台石。地層の断面がはっきり見えます

地層が隆起して断崖になったもので、近くで見ると、板チョコが何層も重なっているように見えます。土台石の名は、壱岐で最も古い地層とされていることに由来しています。

引き潮の時だけ行かれる神社

さて、壱岐は神社の島としても知られています。神社庁に登録されている神社は長崎県全体で1260社ですが、壱岐だけで1割以上にあたる150社を数えます。地元の人によると、小さな祠(ほこら)なども含めると1000くらいはあるそうです。

では、代表的な神社をいくつかご紹介しましょう。まず、海の島にある神社です。下の写真を見て「けっこう大きな島じゃないの? 大島?」と言う人がいるかもしれません。でも、そんなことを口走ったら、お笑いコンビ、アンジャッシュのうち、テレビで今、活躍しているほうの人が黙っていませんよ。「コジマだよ!」って。そう、小島神社といいます。干潮の時だけ神社に通じる道が現れて歩いて行くことができる神社です。


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小島神社。満潮が迫っていたので、大急ぎで鳥居まで行きました

ここで疑問がわきます。潮が満ちて道が消え、お参りできない時はどうするのか、と。でも、ご心配なく。壱岐本島の海岸にこんな小さな鳥居が設けられていました。

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海岸側にある小さな鳥居。かわいいですね

神社に行けない時にはここでお参りをするそうです。これなら満潮を気にすることなく、毎日お参りできますね。木村拓哉ならこう言うに違いありません。「やっちゃえ、日参」

次に、ご紹介するのは住吉神社。ここでは、国指定重要無形民俗文化財の壱岐神楽を鑑賞することができました。

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笛と太鼓に合わせて舞う壱岐神楽。神職の人だけが舞うのが特色です

室町時代初期にはすでに奉納されていたという文献が残っているそうです。想像した以上にきびきびとした舞です。お盆を両手に載せたまま、落とさないように舞う曲芸的な舞もあり、とても見ごたえがありました。毎年10~11月には毎日のように島のどこかで神楽が舞われているとのことです。
壱岐神楽についての問い合わせの窓口は壱岐市観光連盟です。

そして、ユニークな神社に足を運びました。男嶽(おんだけ)神社です。ここには、石猿がずらり。


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境内に並んでいる石猿。数の多さに圧倒されます

男嶽神社は猿田彦命(さるたひこのみこと)をまつっていることから、願い事がかなった人たちが昔から石猿を奉納してきたそうです。確認されているだけで約260体も。このほか農耕関係の人から奉納された石牛も境内に並んでいました。
男嶽神社の境内には2019年、おみやカフェがオープンしました。

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伝統ある男嶽神社の境内に設けられた、おみやカフェ。ポップなメニューが店の前に出ています

ここで飲んだのが、神社エール。しゃれてますね。

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人気メニューの神社エール。おみやカフェの真ん中には囲炉裏が設けられています

こうした壱岐の神社は最近、注目されています。御朱印帳を持って島内の神社をめぐる女子旅も盛んです。

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壱岐の神社の御朱印を集めている方が御朱印帳を広げて見せてくれました

麦焼酎発祥の地 七つの蔵元が

さて、神社や神事といえば、お酒がつきものですよね。壱岐は麦焼酎発祥の地とされ、七つの焼酎酒蔵があります。その一つ、1900年創業の「壱岐の華(はな)」を訪ねました。

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「壱岐の華」本社。酒蔵らしい雰囲気にあふれています

原料は大麦。麹(こうじ)に麦ではなく米を使っているのが壱岐焼酎の特色です。平地が多く、米づくりが盛んな壱岐ならではの焼酎づくりですね。

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大きなタンクが並ぶ発酵室。ここでもろみができます

試飲させていただきました。ほんのりした甘さが口の中に広がっていきます、とても飲みやすい焼酎です。

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壱岐の華でつくられている麦焼酎。社名と同じ「壱岐の華」の900ミリリットル瓶は、併設の店舗では税込み980円で販売されています

「壱岐の華」本社は、予約をすれば無料で見学をさせてもらうことができます。

大自然の中に身を浸し、神々の宿る神社で心を清め、歴史のある麦焼酎を味わった壱岐の島旅。私は人生の疲れがたまりにたまっていたのですが、身も心もすっかりリフレッシュしました。元気が出てきましたよ。壱岐でいきいき。最近の日経平均株価のように、私の中で壱岐の魅力はバブル後最高値を記録しました。

壱岐の旅はまだまだ続きます。近く公開する後編では、イルカパークなどの観光施設や地元グルメをご紹介する予定です。どうぞお楽しみに。

【問い合わせ先】

一支国博物館

勝本町漁業協同組合観光案内所

壱岐市観光連盟

壱岐の華

PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、江澤香織、高松平藏、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 宮﨑健二

    旅ライター。1958年、福岡市生まれ。朝日新聞社入社後、主に学芸部、文化部で記者として働き、2016年に退社。その後はアウェイでのサッカー観戦と温泉の旅に明け暮れる。

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