永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶
(85)灼熱の太陽と真っ黒な看板 永瀬正敏が撮ったカタール
文: 永瀬正敏
国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は、本連載初登場のカタール。この一枚に込められた永瀬さんの思いとは。

©Masatoshi Nagase
どの国でも、最初に目にするのは車窓からの風景。
空港に降り立ち、移動の車や列車の窓から見える景色を体感すると、
異国の街に降り立ったんだという実感が湧く。
僕は空港からの移動車に乗り込んだ瞬間、いつもまずカメラを取り出す。
そして流れ行く景色を目に焼き付けて、ある時からカメラをその風景に向ける。
これから起こりうるさまざまな出来事に大きな期待と少しの不安を抱えながら、
目にする景色が、旅の始まりを告げている。
その瞬間をカメラに収めておきたい、いつもそう思うのだ。
移動のスピードに負け、使い物にならない写真も中にはある。
でもそれも含めて、その国での初めての高揚感が写り込んでいる気がする。
この作品もそんな一枚。
カタールのドーハへ初めて伺った時のものだ。
アラビア語の看板が目に留まり、シャッターを切った。
遠くには「ラクダに注意」?の標識。
真夏には気温が50℃近くにもなる灼熱(しゃくねつ)の太陽にさらされた、
乾いた大地の中にそびえ立つ真っ黒な看板、
このコントラストがこの旅の始まりを出迎えてくれた。
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