京都ゆるり休日さんぽ

甘く幸せな「アート」 見て味わい、物語を知る「RAU」のデザート

アートやオブジェのように、眺めては心潤い、口に運んでさらに満たされる。そんな美しいケーキに出会えるのが、今回訪ねたパティスリー「RAU(ラウ)」とそのカフェ「RAU (cafe)」(四条河原町)です。両店があるのは、「楽しくて心地よい」を入り口に、自然環境や生産者にコミットしたライフスタイルを提案する複合施設「GOOD NATURE STATION」のそれぞれ1階と3階。12月の大人のご褒美にふさわしいこのひと皿にも、パティシエの情熱と自然への敬意が詰まっていました。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

オブジェのようなケーキに、アシェット・デセールの楽しみをつめこんで

テイクアウト専門のパティスリー「RAU」。「GOOD NATURE STATION」の上層階にあるホテル「GOOD NATURE HOTEL KYOTO」宿泊客が手土産を求めたり、オーガニックやフェアトレードの食材が並ぶ1Fマーケットとあわせて立ち寄ったりする人も

テイクアウト専門のパティスリー「RAU」。「GOOD NATURE STATION」の上層階にあるホテル「GOOD NATURE HOTEL KYOTO」宿泊客が手土産を求めたり、オーガニックやフェアトレードの食材が並ぶ1Fマーケットとあわせて立ち寄ったりする人も

ガラスの破片がちりばめられたセメントのカウンターに、オブジェのように並ぶ「RAU」のスイーツ。360度、好きな角度から眺めながら気になるスイーツを選ぶプロセスは、まるでアートに出会うギャラリーのようです。店と客、作る人と食べる人を図らずも隔てていたガラスのショーケースをなくし、作り手と味わう人との距離をぐっと縮めたディスプレーが、「RAU」流のおもてなし。1Fのパティスリーではテイクアウトのスイーツを購入できるほか、3Fのカフェでゆったりとくつろぎながらデザートを味わうこともできます。

「Bin 赤」(1485円・税込み)。先端にはエディブルフラワー(食用花)をあしらって

「Bin 赤」(1485円・税込み)。先端にはエディブルフラワー(食用花)をあしらって

たおやかな円錐(えんすい)形のフォルムのデザート「Bin」は、その名の通り花瓶をモチーフにしたムースケーキ。「RAU」を手がける2人のシェフパティシエのうちの一人・松下裕介さんが、素材を選び、型を作るところからデザインしたスペシャリテです。東京・神楽坂でアシェット・デセール(皿に盛り付けたデザート)を楽しむパティスリーを営んでいた松下さんが考案したのが「“持ち歩ける”アシェット・デセール」。皿に絵を描くようにソースやトッピングでデコレーションするアシェット・デセールは、テイクアウトには向かず、誰かに贈ったり、自宅に持ち帰ったりはできません。

「Bin 赤」の断面。アールグレイのムースに野いちごやローズマリーの風味を忍ばせている

「Bin 赤」の断面。アールグレイのムースに野いちごやローズマリーの風味を忍ばせている

そこで、松下さんが出した答えは、スイーツの形をうつわのように造形し、その中に、さまざまな香りや食感を閉じ込めるというもの。凜(りん)とした姿にそっとナイフを入れると、中はいくつかの「部屋」に分かれ、それぞれ異なるフレーバーが詰め込まれています。美しいフォルムの中に、思いがけないサプライズと多層的な味わい。テイクアウトでその感動をシェアすることもできる。新しいデセールの楽しみかたに気付かされます。

生産地から食べる人へ つながるカカオの物語

もう一つ、「RAU」のスイーツを語るうえで欠かせないのが、「Bean to Bar」で作るチョコレート。松下さんとともにシェフを務めるショコラティエール・高木幸世さんが自ら生産地へ赴き、小さいカカオ農園を訪ねて、原材料の輸入から加工まで一貫して行っています。さまざまな生産地の中から高木さんが選んだのは、火山地帯が多く土壌にミネラルが豊富な点が日本と共通しているコスタリカ産のカカオ。クリアで洗練された味に魅了されただけでなく、生産地の先住民族・ブリブリ族の人々から教わったカカオの物語や収穫の風景、カカオの研究に携わる人々への思いが重なり、ショコラへと仕上げる高木さんの腕にも熱がこもりました。

都会的ながらもナチュラルな雰囲気の内装。あちこちに置かれたグリーンが心地よい

都会的ながらもナチュラルな雰囲気の内装。あちこちに置かれたグリーンが心地よい

「自然の産物なので、その時々の気候や諸条件で品質にゆらぎが出ます。でも、それをなんとかするのが私たちの仕事。製造や加工の技術とパティシエの感性で、必ずおいしくする、という気持ちでいます。それが生産者を支えることにも、食べる人にカカオのおいしさを知っていただくことにもつながります」。高木さんはそう話します。

ボンボンショコラ「Iro-Iro」(3粒1,210円〜)。全11種類のうちその日のラインナップから選べる。写真は上から「Lemon“レモンを丸ごと”」「Shiro“カカオパルプ”」「Midori“バラを食べる”」

ボンボンショコラ「Iro-Iro」(3粒1,210円〜)。全11種類のうちその日のラインナップから選べる。写真は上から「Lemon“レモンを丸ごと”」「Shiro“カカオパルプ”」「Midori“バラを食べる”」

「RAU」のボンボンショコラのひし形は、コスタリカのブリブリ族にとって「循環」の象徴。自然との共生やサステイナブルな食を理念とする「GOOD NATURE STATION」にもぴったりの形でした。中心線の色がフレーバーを表し、和菓子における菓銘のように、それぞれにコスタリカの情景や素材の力を思い起こさせるような名前が付けられています。

1Fパティスリーでも並ぶ焼き菓子は、カフェでもイートイン可能

1Fパティスリーでも並ぶ焼き菓子は、カフェでもイートイン可能

「何味、という到達点を目指すのではなく、伝えたい風景やイメージがあって、それを表現するために素材や香りを組み立てていきます。チョコレートとしてのアイデンティティーも大切にしながら。『ここでしか食べられないもの』を作っていきたいんです」

アシェット・デセールから着想したケーキは全7種類。ほかカフェ限定や土日祝日限定のスイーツも並ぶ

アシェット・デセールから着想したケーキは全7種類。ほかカフェ限定や土日祝日限定のスイーツも並ぶ

ケーキやチョコレートが、美しい衣装をまとい、プレートに盛り付けられるまでの間には、自然の恵みとさまざまな人の手が関わっています。その物語を知り、アートのように目で楽しみ、味わって余韻にひたる……。五感を開き、想像力を高め、作り手を思うデザートは、自分へのご褒美でありながら、食の循環を担う小さな一歩です。

RAU
https://goodnaturestation.com/shop/rau/
RAU(cafe)
https://goodnaturestation.com/restaurant/rau_cafe/

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BOOK

甘く幸せな「アート」 見て味わい、物語を知る「RAU」のデザート

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が2019年6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。


PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。

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自然からいただく色を追い求めて 植物染め「染司よしおか」

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