クルーズへの招待状

飛鳥Ⅱクルーズを再開  リニューアルした客船で秋の新宮・熊野へ

新型コロナウイルスの影響で運航を停止していた飛鳥Ⅱが、いよいよ運航を再開しました。新たな感染症対策やリニューアル後の新施設など、飛鳥Ⅱの旅はどのように変わったのでしょうか。

(トップ写真:横浜港の飛鳥Ⅱ、改装後の船体 撮影はすべて上田英夫)

■連載「クルーズへの招待状」は、クルーズ旅の魅力や楽しみ方をクルーズライターの上田寿美子さんがご紹介します。

事前にPCR検査を受け乗船 飛鳥Ⅱの感染症対策

新型コロナウイルスの影響で、300日以上にわたり、クルーズ運航を停止していた飛鳥Ⅱが11月2日からクルーズを再開しました。そこで、11月14日から16日まで、横浜港発着で和歌山県の新宮港を訪ねる「秋の熊野ウィークエンドクルーズ」に乗船しました。

飛鳥Ⅱの運航会社である郵船クルーズの坂本深社長によれば「クルーズ再開に際し、考えうる最高レベルの感染症対策を行っています」とのこと。まず、乗船前のPCR検査などで、水際対策を徹底し、万が一船内で発生した場合に対応できるよう3台のPCR検査機(スマートアンプ法)を備え、検査技師も乗船。このほか陰圧化できる隔離客室も20室用意するなど、船内でクラスターを出さないよう、発症後の対策に多くの力を注いでいるそうです。

実際に乗船するまでの感染症対策の行程は11月6日に唾液(だえき)で判定するPCR検査キットが自宅に届き、8日に唾液を採取し返送。10日に乗船可能な「低リスク」の判定が出て一安心し、荷物の準備を始めました。14日朝は自宅で検温し、健康質問票を記入。横浜港大さん橋国際客船ターミナルでは、検温、本人確認(運転免許証など)、健康質問票提出などを経て乗船手続きが完了。

乗船証(部屋の鍵、会計の時などに必要な個人を識別するカード)をもらい乗船口で手指の消毒とサーマルカメラでの検温を行い船に乗り込みました。今までよりも乗船するまでの手続きは格段に多くなりましたが、Withコロナの現在、スクリーニングを行い、乗客に安心感を持ってもらうためには必要なことなのだと納得しました。(飛鳥Ⅱ感染症対策に関する詳細はhttps://www.asukacruise.co.jp/coronavirus_information/を参照ください)

リニューアルでブックラウンジや露天風呂も新設

実は飛鳥Ⅱは2020年1月から約45日かけてシンガポールのドックで大改装を行いました。今回のクルーズは、リニューアルした飛鳥Ⅱを体験できる絶好のチャンスでもあります。乗船すると、エントランスホールのアスカプラザに到着。正面には新しく設置された大型LEDスクリーン「アスカビジョン」が乗船歓迎の画面を映し出していました。このほか、寄港地関連の動画、世界の美しい風景、アスカプラザのライブ映像なども映し出すことができ、従来のエントランスホールから一段と華やかな情報取得のホールに変身していました。

アスカビジョン

大型LEDスクリーン「アスカビジョン」で明るくなったエントランスホール

ブックラウンジe-Squareも新設されました。明るくしゃれた室内に本やパソコンを置き、コーヒーと共に楽しめるモダンなラウンジです。私もハーブティーを注文し、出航前の20分は読書でほっと一息。以前はパソコンに用がない時は訪れなかったコンピュータープラザが、気軽にくつろげる洋上のネット&ブックカフェに生まれ変わっていました。

ブックラウンジ

ブックラウンジe-Squareでモダンで知的なティータイムを

ところで、感染症対策の一環として、劇場やレストランなどパブリックルームに入るときには、必ず手指を消毒し、サーマルカメラに自分の乗船証をかざしながら自分の顔を映して検温することになっています。この機械は検温と乗客の位置情報を記録できるもので、船内には20台設置されています。

リニューアルしたリドカフェ&リドガーデンでは、乗客が19時45分まで軽食をとれるリドダイナーを開催。乗船直後から、無料のできたてハンバーガーやパスタで小腹を満たすことができます。

ハンバーガー

リドカフェ&リドガーデンで海を見ながら出来立てのハンバーガーを味わう

17時、横浜港出港。セールアウェーという出航を祝うイベントにも変化がありました。以前の紙テープ投げとバンド演奏ではなく、密を避けるためシャボン玉の演出に変わっていたのです。バブルマシンからシャボン玉が無数に舞い上がる中、夕暮れの港を離れていくのは、とても幻想的。さらに、飛鳥Ⅱの赤松憲光船長が希望したノルウェーの曲”Ut mot havet”が大さん橋から流れ、ドラマチックな出港シーンとなりました。これまで多数の港から船出しましたが、船長がリクエストした曲を流すという体験はありませんでした。これも飛鳥Ⅱと、その母港・横浜港の素敵なコラボレーションと言えるでしょう。

シャボン玉

斬新かつ幻想的なシャボン玉のセールアウェー

夕食は、感染症対策のため指定席の2回制。同卓を囲めるのは同じ客室の人のみで、テーブル間をパーティションで仕切り、メニューはQRコードで読み取るシステムが採用されていました。

初日は洋食の6皿コースディナー。テーブルにつくとナプキンの横に、フィリピン人の担当ウェーター・モンさんが書いてくれた歓迎のメッセージが添えられていました。日本酒「天狗舞(てんぐまい)」のゼリーを載せたパテ・ド・カンパーニュ、ゆず香るソースをかけたアワビのポワレ、マデイラワインとわさびソースを添えた黒毛和牛グリエなど、随所にフランス料理と日本船の融合を感じました。

メッセージ

担当ウェーターから手書きの歓迎メッセージ

料理

洋と和の融合。天狗舞(てんぐまい)のゼリーを載せたパテ・ド・カンパーニュ

船の夜は多彩なエンターテインメントも待っています。飛鳥Ⅱには専属のシンガーとダンサーが乗っていて、オリジナルのプロダクションショー「フォーシーズン」を上演。四季の美しさを歌と踊りで表現しました。さらに、飛鳥Ⅱ専属マジシャンTAKUYAによる「クラシカルマジックシアター」では、奇術の名作や、昭和時代の演目も披露し、懐かしさを感じるマジックショーを楽しみました。

ショー

飛鳥Ⅱオリジナルのプロダクションショー「フォーシーズン」を指定席で観覧

そして今夜の締めくくりは「海を走る露天風呂体験」です。グランドスパは、展望大浴場として以前から人気がありましたが、今回の改装で新しく露天風呂が併設されたのです。潮騒を聞きながら、露天風呂に肩までつかり、夜空を見上げれば、降るような星空。あまりの気持ちよさに、翌朝も露天風呂に入りに行くと、打って変わって昇る朝日と移り行く島影が目の前に広がりました。時々刻々と風景の変わる極上の入浴タイムは、日本人の琴線に触れる心地良さ。今後、船内の人気スポットになる予感がしました。

露天風呂

露天風呂から海景色を望み潮風と遊ぶ(撮影は入港中。通常停泊・入港中は利用できません)

新宮港に到着、熊野古道へ

15日の午前9時、飛鳥Ⅱは新宮港に着岸しました。クルーズ再開後、初の客船として約1年ぶりに飛鳥Ⅱが来港するということで、田岡実千年・新宮市長も出迎えるほど、新宮港の岸壁は歓迎ムードでした。

ところで、飛鳥Ⅱは寄港地観光ツアーも、定期的に消毒を実施した大型バスで、定員の約半分の席数を指定席で使うなどの感染症対策を行っていました。ウイルスを持ち込まない、広げないということは、訪問地にとっても、乗客にとっても大事なことです。また、よりプライベート感覚を重視できるよう、新宮では事前に予約できる貸し切りタクシープランも用意されていました。
 
そこで、タクシー4時間コースを申し込み、新宮から熊野古道の大門坂にむかいました。熊野古道とは熊野三山への参詣(さんけい)路で、日本三大古道の一つ。中でも熊野古道中辺路(なかへち)にある大門坂は、往年の熊野詣での面影を色濃く残す場所として知られ、那智山の聖地まで約600メートルの石畳が続きます。鳥居をくぐると赤い欄干の振ヶ瀬橋。この橋が俗世と聖地を分ける境と言い伝えられています。

古道の両側に立つ2本の杉の大木は夫婦杉。無言で石段を上がるにつれ、澄んだ空気と、杉並木に体が浄化されていく気分です。しばらくすると熊野九十九王子社の一つ多富気王子に到着しました。九十九王子とは熊野の神様の御子神がまつられているところで、参詣者の休憩所でもあったといわれています。

やがて、上のほうから平安時代の旅装束の女性が2人並んで石段を下りてくるのが見えました。それはまるでいにしえの熊野詣でにタイムスリップしたような不思議な光景でした。大門坂入り口の大門坂茶屋で平安貸衣装体験を行っているとは聞いていましたが、実際に布を垂らした市女笠(いちめがさ)をかぶり、草履と足袋で、でこぼこの石段を上り下りする2人の女性に感心してしまいました。

女性たち

熊野古道ですれ違った平安衣装の女性たち

熊野三山の一社である熊野那智大社は、熊野夫須美大神(くまのふすみのおおかみ=イザナミノミコト)を主祭神とし、古来より「結びの宮」と称されたそうです。今回は、「本殿特別参拝と白玉石奉納」をすることができました。入り口でおはらいを受け、玉垣内へ入り、まず、白玉石を奉納し、五殿を参拝。

熊野那智大社

熊野信仰の聖地、熊野那智大社

境内には八咫烏(やたがらす)にまつわる烏石(からすいし)もありました。これは、熊野の神の使いとして神武天皇を大和まで道案内した八咫烏が、熊野に戻り石になって休息している姿と言われています。3本の足をもつ八咫烏は、今や日本サッカー協会のシンボルマークとしてもおなじみですが、サッカーファンには見逃せないスポットとも言えるでしょう。

烏石

八咫烏(やたがらす)が石になり羽を休めているといわれる烏石(からすいし)。熊野那智大社の境内にある

次に訪れた那智山青岸渡寺は、熊野那智大社に隣接する天台宗の寺院です。一千日の滝ごもり修行をした花山法皇が、988年に御幸され、この寺を第一番札所として西国三十三所観音霊場を巡礼しました。本堂の裏手にある三重塔は、那智の滝との調和が美しく、フォトスポットとしても人気があります。

三重塔

青岸渡寺の三重塔。後方に流れる那智の滝とのコントラストが美しい

そして、落差日本一の名瀑(めいばく)・那智の大滝へ。「一の滝」とも呼ばれ、滝そのものが熊野那智大社の別宮・飛瀧神社のご神体。秋晴れの下、高さ133メートルからほぼ垂直に流れ落ちる滝と紅葉との取り合わせは神々しいばかりでした。

那智の滝

秋晴れの下、豪快に流れ落ちる那智の滝。一の滝は日本一の落差を誇る

その後、新宮市へ戻り、今日の最後の訪問地・熊野速玉大社を参拝しました。神代のころ、熊野大神は、はじめに近くの神倉山の巨石ゴトビキ岩に降臨しました。その後、景行天皇58年に熊野大神は現在の熊野速玉大社の地に遷座し、新しい宮を造営したことから「新宮」と呼ばれるようになったと言われています。境内にある樹齢千年の御神木・ナギの大樹は国の天然記念物にも指定されています。

熊野速玉大社

熊野三山の一社である熊野速玉大社

今回の上陸時間は約4時間でしたが、熊野信仰の聖地に触れ、2004年にユネスコの世界文化遺産に登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産をいくつも見て回ることができました。

17時、新宮港出港の際には、熊野水軍太鼓による威勢の良いお見送り。さらに、岸壁に集まった地元の人たちの「さようなら! ありがとう! また来てね!」のコールに船上からも「さようなら! ありがとう! また来まーす!」と返し、久しぶりにクルーズならではの人情あふれる出港シーンに感動がよみがえりました。

熊野水軍太鼓

熊野水軍太鼓を打ち鳴らし盛大なお見送り

そして翌朝、飛鳥Ⅱは、秋の船旅を終え横浜港に戻ってきました。

長い中止期間を経て、再開した飛鳥Ⅱのクルーズは、このように念入りな感染症対策がなされていました。また、新宮港の受け入れも温かいものでした。やはり、船内のイベントの種類や、食事の形態には制限がありましたが、それを補うため、個々の乗客の名前を覚える、メッセージを書いた折り紙をくれるなど、今まで以上に細部にまで気を配るサービスに取り組んでいることも伝わってきました。

12月は1泊か2泊のクリスマスクルーズも予定されています。リニューアルした日本船籍最大の客船・飛鳥Ⅱは、きっと洋上に素敵なクリスマスワールドを描き上げることでしょう。

■このクルーズの問い合わせ先
・郵船クルーズ株式会社
https://www.asukacruise.co.jp/

PROFILE

上田寿美子

クルーズライター、クルーズジャーナリスト。日本旅行作家協会会員、日本外国特派員協会会員。クルーズ旅行の楽しさを伝え続けて32年。外国客船の命名式に日本を代表するジャーナリストとして招かれるなど、世界的に活動するクルーズライター。旅行会社等のクルーズ講演も行う。著書に「豪華客船はお気に召すまま」(情報センター出版局)、「世界のロマンチッククルーズ」(弘済出版社)、「ゼロからわかる豪華客船で行くクルーズの旅」(産業編集センター)、「上田寿美子のクルーズ!万才」(クルーズトラベラーカンパニー)など。2013年からクルーズ・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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