京都ゆるり休日さんぽ

自然からいただく色を追い求めて 植物染め「染司よしおか」

夕焼け空のような茜(あかね)、暖かさを内に秘めた黄、濃淡で力強くも清らかにも印象を変える藍……。自然の微妙な色合いを繊細に映す日本の色は、奥ゆかしく、多様で、先人の豊かな感性に驚かされます。今回訪ねたのは、江戸時代から続く染屋「染司(そめのつかさ)よしおか」。大切な人へのギフトや、新年に向けて和小物が気になるこの時期、日本の植物から染めた色とりどりの品が並ぶ、祇園の店舗ののれんをくぐりました。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

古来から受け継がれる植物の色に魅せられて

カードケースやポーチ、コースターなど、暮らしに取り入れやすい植物染めのアイテムが並ぶ

カードケースやポーチ、コースターなど、暮らしに取り入れやすい植物染めのアイテムが並ぶ

江戸末期に創業し、現在6代目を数える「染司よしおか」。伏見に工房を持ち、奈良・東大寺で1260年以上続く伝統行事、修二会(しゅにえ)の「お水取り」の造り花をはじめ、のれんや和装小物などさまざまな品を天然の染料のみで染め上げています。骨董(こっとう)店が並ぶ祇園・新門前通に、一般客向けの店を構えたのは30年ほど前のこと。今年6月、装い新たにリニューアルオープンしました。

バッグ、帯締め、数寄屋袋など和装小物や茶道具もそろう

バッグ、帯締め、数寄屋袋など和装小物や茶道具もそろう

「小さいころから工房に出入りしていたので、植物染めはずっと身近にありました。大学時代は歴史を学んでいて古いものを見るのも好きでしたから、昔ながらの手法で染める工房の雰囲気も、とても好きでしたね。2人の姉がそれぞれ別の仕事に打ち込んでいたので、自然と自分が継ぐことを意識するようになりました。うちより長く続く(伝統)行事に、穴を空けるわけにはいきませんから」

6代目・吉岡更紗さん。伏見の工房での染色作業から、店頭での販売、インスタレーションまで活動は多岐にわたる

6代目・吉岡更紗さん。伏見の工房での染色作業から、店頭での販売、インスタレーションまで活動は多岐にわたる

そう話すのは、6代目・吉岡更紗(さらさ)さん。昨年秋に逝去した父・吉岡幸雄(さちお)氏が大成した「よしおか」流の植物染めを受け継ぎ、毎年行われる寺社の行事はもちろん、近年はイベントのインスタレーションやロビーのディスプレーなど、多方面に発表の場を広げています。明治時代にヨーロッパから化学染料が伝わると、一時は「よしおか」も安定して大量に染められる化学染色を導入。しかし、更紗さんの祖父と父の代で再び、天然染料のみを使った染色に回帰しました。

ピンク一つとっても様々な色相が。同じ染料でも濃淡で全く違う印象に染まる

ピンク一つとっても様々な色相が。同じ染料でも濃淡で全く違う印象に染まる

「単純に『昔の色の方がきれいや』って気づいたんだそうです。徐々に化学染料をなくしていって、父の代で完全にやめました。『自然の植物から抽出された色には、暖かさや命の源を感じさせる深みがある』というのが、生前の父が残した言葉です」

自然の営みに歩幅を合わせ、色をいただく

染料の一例。右上から、矢車の実、蓼藍(タデアイ)の葉、刈安(イネ科の多年草)。それぞれ黒、藍、黄に染まる

染料の一例。右上から、矢車の実、蓼藍(タデアイ)の葉、刈安(イネ科の多年草)。それぞれ黒、藍、黄に染まる

紅花、藍の葉、矢車の実など、染料となる原材料は自然に育まれた植物。オレンジや緑など、一種類の染料で出せない色は二色を染め重ねて表現します。同じ植物でも産地やその年の気候によって色の出方が違うので、大切なのは素材との対話。「素材と向き合い、温度などを管理するという意味では、料理に似ているようにも思います」と更紗さんは言います。

程よい弾力が心地よい座布団(9500円・税別)。同系色をグラデーションで使うと、染めの濃淡を楽しみつつ空間にも統一感が出る。クッションもあり

程よい弾力が心地よい座布団(9500円・税別)。同系色をグラデーションで使うと、染めの濃淡を楽しみつつ空間にも統一感が出る。クッションもあり

店に並ぶ品々は、植物染めを身近に感じてもらえるよう、インテリアや食卓まわりの雑貨、ポーチやマスクなど日常使いできるアイテムばかり。柔らかな発色でどこか親しみを覚えるのは、自然からいただいた色だからでしょうか。暮らしの中に、持ち物の一つに、穏やかな明かりをともすようなぬくもりが宿ります。

三角形の小銭入れは、アクセサリー、薬入れなどマルチに使える(1個800円・税別)

三角形の小銭入れは、アクセサリー、薬入れなどマルチに使える(1個800円・税別)

抗菌作用があるとされる五倍子で下染めし、ハゼ、藍を染め重ねたマスク。ハゼや藍にも抗菌作用があると言われている(2000円・税別)。クラッチバッグにもなる数寄屋袋(8000円・税別)、カードケース(各800円・税別)など

抗菌作用があるとされる五倍子で下染めし、ハゼ、藍を染め重ねたマスク。ハゼや藍にも抗菌作用があると言われている(2000円・税別)。クラッチバッグにもなる数寄屋袋(8000円・税別)、カードケース(各800円・税別)など

「植物染めの仕事をしていると、自然の営みを肌で感じます。染料の収穫時期には産地で収穫を手伝ったり、寺社の行事で季節の巡りを確認したり……。自然の歩みに合わせて、色をいただいていますが、植物の色には透明感があります。色と色の組み合わせにハッとさせられることもあり、飽きることがありません」

繊細で透明感ある発色が人気のシルクのストール。中でも紫は、幸雄氏が生涯追い求めた色

繊細で透明感ある発色が人気のシルクのストール。中でも紫は、幸雄氏が生涯追い求めた色

2021年1月5日からは、岡崎の細見美術館で「日本の色—吉岡幸雄の仕事と蒐集(しゅうしゅう)—」と題した回顧展が開催されます。古今東西の美術工芸を研究し、伝統の色を追い求めた幸雄氏の仕事を振り返りつつ、現代の「よしおか」の色彩へと通じる植物染めの系譜。それらを俯瞰(ふかん)してみれば、自然の色、日本の色が、現代の私たちの美意識と地続きになっていることに気付かされるかもしれません。朝焼けや木漏れ日の美しさに飽きることがないのと同じように、時代を経ても変わらず「美しい」と思える色に、どうぞ出会ってみてください。

骨董店や茶道具の店などが並ぶ新門前通に店を構える。隣の和骨董の観山堂と合わせて訪ねるのもおすすめ

骨董店や茶道具の店などが並ぶ新門前通に店を構える。隣の和骨董の「観山堂」と合わせて訪ねるのもおすすめ

染司よしおか
https://www.textiles-yoshioka.com/

*2021年1月5日(火)〜4月11(日)吉岡幸雄追悼特別展「日本の色 ―吉岡幸雄の仕事と蒐集―」(細見美術館

■「京都ゆるり休日さんぽ」のバックナンバーはこちら

BOOK

自然からいただく色を追い求めて 植物染め「染司よしおか」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が2019年6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。


PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。

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