永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(86) ラクダは嵐の前の静けさ? 永瀬正敏が撮ったカタール

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。前回に続きカタールを撮ったこの一枚は、ほのぼのとしたラクダの写真ですが、実は「嵐の前の静けさ」を撮ったものでした。

(86) ラクダは嵐の前の静けさ? 永瀬正敏が撮ったカタール

©Masatoshi Nagase

砂漠とラクダ。

あまりにもティピカルなイメージ。でも、撮ってしまった……(笑)。

カタール・ドーハにて開催された「Ajyal Youth film festival」に、
河瀨直美監督の作品「あん」がノミネートされ、出演した僕も招待していただいた。

海外の国際映画祭ではゲストをもてなすためにさまざまなイベントやツアーが企画されている。
この時のドーハでは「砂漠ツアー(デザートサファリ)」というのもあった。
僕は普段はこういう企画にあまり参加せず、
コーディネーターさんにお願いして、さまざまな場所へ写真を撮りに行くのが常なのだが、
この時は違った。

ご一緒させていただいた共演者の樹木希林さんが、前日このツアーに参加されて、
「永瀬くん、行ってみたらいいわよ。うふふ、ちょっと面白いわよ」とおっしゃったので、
ではぜひに!と参加してみたのだ。

このツアーは、楽しむ……どころではなかった!
有名遊園地の絶叫アトラクションが子供じみて見えるぐらい、半端ではなかった!
砂漠を四輪駆動車でひたすらぶっ飛ばし、
崖のような超急勾配を転倒すれすれの猛スピードで駆け下り、
そのままタイヤを空回ししながら猛スピードで駆け上がる。
その繰り返しを何度も何度も……。生きた心地がしなかった。

「ふふふ、すごかったでしょ!」
ツアーから戻った僕に、希林さんはちゃめっ気たっぷりにそうおっしゃった。
一時期、国内外の映画祭や特別上映イベントでずっとご一緒させていただいた希林さんは日々好奇心いっぱいで、
さまざまなことを率先して楽しんで過ごされていたような気がする。あの時期は……。
その姿はまるで少女みたいで、大先輩に僕が言うのも失礼かもしれないが、
とても可愛らしくチャーミングだった。

この作品は「嵐の前の静けさ」的な一枚。過酷なツアーが待ち受けていたのは、この後だ。

しかし、希林さんは本当にすごいなぁ。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作にオダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」 、大森立嗣監督「星の子」など。 写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2021年1月16日から3月21日まで、愛知県の「高浜市やきものの里かわら美術館」で写真展が開催される。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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