海の見える駅 徒歩0分の絶景

大迫力の桜島と災害の記憶 鹿児島県・竜ケ水駅

鹿児島のシンボル、桜島。今でも噴火を続け、鹿児島市街からでもしばしば見える山体の勇姿とその噴煙は、圧巻の迫力だ。そんな桜島をホームから眺められるのが、竜ケ水(りゅうがみず)駅。桜島の手前には、足元から青い鹿児島湾が広がる。

■連載「海の見える駅 徒歩0分の絶景」は、アマチュア写真家の村松拓さんが、海のそばにある駅で撮った写真を紹介しながら、そこで出会ったこと、感じたことをつづります。

鹿児島市街からたった10分あまり

竜ケ水駅を訪れたのは、2013年2月。九州新幹線の終点である鹿児島中央駅から、2両編成の真新しい電車に乗り込んだ。宮崎方面へと向かう車内は、若者を中心ににぎわい、席が埋まるほど。ピカピカの車体と相まって、ローカル線の風情はそれほど強く感じられない。

隣の鹿児島駅を過ぎてしばらくすると、いきなり右側の車窓いっぱいに、海が広がった。錦江(きんこう)湾こと鹿児島湾だ。そして目線の先には、広い裾野がどしりと構える桜島。直前まで見ていた、市街地の生活感あふれる風景がうそのように、視界が青い。いきなりのサプライズに気分も高まる。

鹿児島中央駅を出てわずか10分ちょっと。開放的な車窓を保ったまま、列車は竜ケ水駅へと滑り込んだ。

大迫力の桜島と災害の記憶 鹿児島県・竜ケ水駅

ほかには誰も降りることなく、列車は去っていった。となれば、誰の目を気にすることもなく、海と桜島を楽しもうじゃないか。

竜ケ水駅は無人駅で、海側と山側に合わせて二つのホームがある。駅と海の間には、交通量の多い国道10号とガソリンスタンドがあるものの、駅のほうが一段高い場所にあり、視界は良好。海を背にしたベンチが風景のアクセントになり、一気に郷愁をかき立てる。

大迫力の桜島と災害の記憶 鹿児島県・竜ケ水駅

二つのホームを結ぶ跨線橋(こせんきょう)に上れば、景色はさらに近く見える。

桜島では、山がまるで呼吸をしているかのように、噴煙が立ち昇る。鹿児島湾では、カンパチやブリの養殖いかだが、あちこちに浮かんでいる。よく見れば、いかだから釣り糸を垂らす人もちらほらいる。鹿児島ならではの自然の営みと、生活の営み。竜ケ水駅では、駅にいながらにして、それらをひと目で満喫することができる場所だった。

大迫力の桜島と災害の記憶 鹿児島県・竜ケ水駅

美しい景色の隣に災害の記憶

一方で、駅舎のある山側に目をやると、様相はだいぶ異なる。高さ約300メートルにも達する急な崖が迫り、広い道路や商店もなければ、住宅も数えるほどしかない。まるで人の気配を感じないのだ。

大迫力の桜島と災害の記憶 鹿児島県・竜ケ水駅

跨線橋から宮崎方面を望む。線路の左手に見えるのが、吉野台地の崖。台地の上には住宅街や畑が広がる

これは1993(平成5)年8月、周辺が土石流で甚大な被害を受けたことに関係する。竜ケ水駅も当時、列車ともども土石流に巻き込まれた(乗務員の機転により、約330人の乗客が直前に列車から脱出していた)。竜ケ水駅は翌月に復旧したものの、多くの周辺住民は移転。その結果、近年の1日あたりの乗降客数はわずか数人と、鹿児島市内にあるJRの駅では群を抜いて少なくなってしまった。

訪れた当時も、竜ケ水駅を出た正面には「土石流危険渓流」の看板が掲げられていた。

大迫力の桜島と災害の記憶 鹿児島県・竜ケ水駅

駅を出ていきなり「土石流危険渓流」の看板。頭上に咲く梅の華やかさとは対照的に、一瞬どきっとするような言葉が書かれている

利用客の少なさからか、現在では普通列車でさえ半数近くが通過する。そして、周辺の駅では利用できる交通系ICカード(JR九州ではSUGOCA)も利用できない。鹿児島中央駅からたった2駅でありながら、まるで「飛び地」のように例外的な扱いをされている状況だ。

大迫力の桜島と災害の記憶 鹿児島県・竜ケ水駅

竜ケ水駅の出入り口には「ICカードをご利用になれません」という看板がある。もし竜ケ水駅を訪れるなら、あらかじめきっぷを買う必要がある

なお、海側のホームには、この災害からの復旧を記念して建てられた記念碑がある。実際に前にすると、背景の桜島にも勝るとも劣らない存在感を放っていた。実はこの記念碑、土石流に含まれていた石から造られており、重さは碑文石で5トン、台石で9トンにものぼる。

大迫力の桜島と災害の記憶 鹿児島県・竜ケ水駅

「竜ケ水災害復旧記念碑」。災害の約半年後に建てられたようだ

そこに刻まれていたのは、土石流の被害と復旧までの経緯、そして地元の人々の思い。石そのもののリアリティと相まって、胸に迫るものがあった。

空を見上げれば、雲ひとつない快晴。こうしてのんびりと景色を楽しめる幸せをかみしめながら、帰りの列車に乗り込んだ。

九州新幹線鹿児島中央駅からJR日豊線普通列車で約12分。

JR九州
https://www.jrkyushu.co.jp/railway/station/1191939_1601.html

>> 連載一覧へ

BOOK

大迫力の桜島と災害の記憶 鹿児島県・竜ケ水駅
海の見える駅
海の見える駅を巡る村松拓さんの旅をまとめたガイドブックです。これまでに訪問した約300駅の中から70カ所を選び、駅の写真、簡単な説明とともに紹介しています。
雷鳥社
定価:1500円(税別)

PROFILE

村松拓

アマチュア写真家
1991年1月生まれ。川崎市出身。
2004年の夏休み、初めての一人旅で見た常磐線の車窓が忘れられず、2005年に末続駅(福島県いわき市)を訪問。それから海の見える駅の旅を始め、これまでに約300駅を取材。2006年にWebサイト「海の見える駅」を開設。現在は東京・新橋で会社員として働く傍ら、余暇で旅を続ける。著書に『海の見える駅』(雷鳥社・2017年)。

唯一無二の旅情、果てなき落日のグラデーション 青森県・驫木駅

一覧へ戻る

初日の出が木造駅舎に映える 神奈川県・根府川駅

RECOMMENDおすすめの記事