海の見える駅 徒歩0分の絶景

初日の出が木造駅舎に映える 神奈川県・根府川駅

普段はひっそりとしているのに、元旦の早朝になると、ひときわにぎわう駅がある。神奈川県小田原市にある、根府川(ねぶかわ)駅。相模湾を望む高台のホームで、一様に海を向いて並ぶ人々が待ち望んでいるのは、初日の出だ。

■連載「海の見える駅 徒歩0分の絶景」は、アマチュア写真家の村松拓さんが、海のそばにある駅で撮った写真を紹介しながら、そこで出会ったこと、感じたことをつづります。

東海道線で数少ない無人駅

根府川駅は、小田原駅の二つとなりにある、JR東海道線の駅。東京からでも普通列車で1時間30分ほどの距離にあり、列車も1時間に上下合わせて5~8本はとまる。数字だけ並べると、東京近郊の普通の駅に思えるが、実は、旅情を感じさせる要素が多分にある駅だ。

まずは、ホームが標高約45メートルの崖上にあるという立地。フェンス越しに、相模湾の大パノラマが広がる。海は東側にあるため、日の出を見るにはもってこいの場所だ。

初日の出が木造駅舎に映える 神奈川県・根府川駅

ホームからの眺望は、東海道線でも屈指(2012年4月撮影)

さらに、1924(大正13)年に建てられた木造駅舎が、今も現役で残っている。瀟洒(しょうしゃ)なシルエットに加え、赤い屋根とパステルカラーの壁面が、海に負けない存在感を放つ。

初日の出が木造駅舎に映える 神奈川県・根府川駅

桜と、海と、木造駅舎(2012年4月撮影)

ちなみに、根府川駅の1日あたりの平均乗車人員は639人(2008年度)。神奈川県内の東海道線の駅ではダントツで少ない。東海道線では数少ない無人駅の一つであることも、非日常感を助長してくれるのだ。

木造駅舎と初日の出を求めて

そんな根府川駅を訪れたのは、2009年の元旦のこと。当時17歳の私は、この日まで初日の出を目にしたことがなかった。しかし、根府川駅が日の出のビュースポットだと知ってからは、せっかくならここで初日の出デビューを飾ろうと、ひそかに企んでいた。

当時住んでいた川崎市の自宅から、一睡もせずに終夜運転の列車を乗り継いで、到着したのは午前6時半過ぎ。空はもう明るみ始めていた。

根府川駅には、2006年のある昼どきにも訪れたが、当時、列車から一度に降りていたのはせいぜい数人。しかし、この日はドアから数十人は流れ出す。列車を降りた人が、改札口とは反対の、景色の開けたホームの端へと向かっていく様子は、明らかに普段とは違う。

初日の出が木造駅舎に映える 神奈川県・根府川駅

ホームで日の出を迎えてもよかったが、せっかくなので、木造駅舎と初日の出を同時に拝みたい。当時ロケハンという考えもなかった私は、その場の感覚に任せ、ひたすら高い場所へと向かうことにした。

ホームをつなぐ跨線橋(こせんきょう)を上り、細い通路をそのまま山のほうに歩くと、小さな木造駅舎にたどり着く。無人駅のため、扉のついた自動改札機はない。するりと改札を抜けて、ふと振り返れば、額縁に切り取られた朝焼けの相模湾が見えた。

初日の出が木造駅舎に映える 神奈川県・根府川駅

駅舎のレトロ感と相まって、ローカル線の駅にしか思えない。ちなみに「関東の駅百選」にも選ばれている

レトロな空間で一休みしたい気持ちを抑え、そのまま外へ。駅前には、JAと郵便局、それに商店がいくつかあるが、どこも真っ暗だ。ただ、この日は日の出を見に車で訪れる人も多いようで、自家用車が何台もとまっていた。遠巻きにホームを見下ろすと、フェンスに沿って人がずらりと並んでいる。

初日の出が木造駅舎に映える 神奈川県・根府川駅

ちょうど同じ頃、根府川駅で日の出を迎える臨時列車「熱海初日の出号」も到着。いよいよ、という雰囲気だ。

日の出まであと10分。駅舎と海が見えるポイントを急いで探す。幸い、駅のそばに歩道橋を発見。渡りきった先の坂道からは期待通り、駅舎越しに相模湾が見えた。朝焼けの背景に浮かぶ、木造駅舎のシルエットと水平線。ここしかない、と思った。

初日の出が木造駅舎に映える 神奈川県・根府川駅

そして、午前6時51分。太陽が水平線の上にかかる厚い雲の上からひょっこりと顔を出した。初めて体感する、初日の出のまぶしさ。絶えず変わり続ける、鮮やかな空の色。買ったばかりの一眼レフのファインダー越しに、思わず目を細めつつ、夢中でシャッターを切った。

日が昇る速さを知ったのも、このときだ。30分も経てば、朝焼けは青空へと変わる。ホームにいた人も早々に帰っていったようで、気づけば、駅前に人の姿はない。

初日の出が木造駅舎に映える 神奈川県・根府川駅

ホームに戻ってみても、自分ひとり。列車がやってきても、ほとんど乗り降りはない。さっきまでのにぎわい、美しい日の出の一幕がまるで幻のように、根府川駅は普段の静けさを取り戻していた。

東海道新幹線小田原駅からJR東海道線で約8分。

JR東日本
https://www.jreast.co.jp/estation/station/info.aspx?StationCd=1198

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BOOK

初日の出が木造駅舎に映える 神奈川県・根府川駅
海の見える駅
海の見える駅を巡る村松拓さんの旅をまとめたガイドブックです。これまでに訪問した約300駅の中から70カ所を選び、駅の写真、簡単な説明とともに紹介しています。
雷鳥社
定価:1500円(税別)

PROFILE

村松拓

アマチュア写真家
1991年1月生まれ。川崎市出身。
2004年の夏休み、初めての一人旅で見た常磐線の車窓が忘れられず、2005年に末続駅(福島県いわき市)を訪問。それから海の見える駅の旅を始め、これまでに約300駅を取材。2006年にWebサイト「海の見える駅」を開設。現在は東京・新橋で会社員として働く傍ら、余暇で旅を続ける。著書に『海の見える駅』(雷鳥社・2017年)。

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