クルーズへの招待状

約8カ月ぶりに再開したにっぽん丸で行く蒲郡・香嵐渓への船旅

今回は大改装後の「にっぽん丸」で愛知県の蒲郡へ。渡航先で美しい紅葉や、伝統あるホテルの食事を堪能。さらに船内では、感染症対策を踏まえた新しい形のエンターテインメントが待っていました。

(トップ写真:にっぽん丸のデッキ 撮影はすべて上田英夫)

■連載「クルーズへの招待状」は、クルーズ旅の魅力や楽しみ方をクルーズライターの上田寿美子さんがご紹介します。

3本柱の感染症対策で再びクルーズを開始

2020年2月から大改装を行ったにっぽん丸は、その後、新型コロナウイルスの影響を受け、約8カ月にわたりクルーズ運航を中止していました。しかしその間に、国土交通省の「クルーズの安全・安心確保に係る検討・中間とりまとめ」や日本外航客船協会と日本港湾協会の感染予防対策のガイドラインに準拠した「にっぽん丸・新型コロナウイルス感染症予防対策マネジメントマニュアル」を作成し、日本海事協会の認証を受け、11月に一般募集型のクルーズを再開しました。

そこで、11月24日から2泊3日の「にっぽん丸秋の絶景クルーズ~香嵐渓(こうらんけい)~」に乗船し、改装後のにっぽん丸で行く紅葉をめでる船旅と、その感染症対策を体験してきました。

クルーズ再開に当たり、にっぽん丸が打ち出した感染症対策の基本理念は、
・「感染者が乗船するリスクを抑える」(持ち込まない)
・「船内で感染者が発生するリスクを抑える」(うつさない)
・「乗船客や乗組員への感染拡大リスクを抑える」(広げない)
の3本柱。まず、乗船前のPCR検査、乗船当日の検温、健康質問票の提出、本人確認のための運転免許証の提示などを行い、私も約1年ぶりに、にっぽん丸に乗船しました。

船上では、毎日の検温、各パブリックルーム利用の際の手指消毒、乗船証のQRコードを利用した行動追跡などの対策が取られていました。
(新型コロナウイルス感染症への取り組み【にっぽん丸 公式サイト】https://www.nipponmaru.jp )

畳のリビングつき客室や新しいスイートルーム誕生

ところで、2020年2月から約50日かけた大改装では、新コンセプトの客室が3種類計5部屋も誕生しました。その一つは4階の前方にできた「コンセプトルーム」です。畳のリビングも備えた客室は最大6名まで利用できるので、親子三世代などのファミリー旅行にも使い勝手がよさそうです。

コンセプトルーム

家族三世代におすすめのコンセプトルーム

そして5階前方にあったバー「ネプチューン」は、「オーシャンビュースイート」に生まれ変わりました。前方に大きく開いた窓は昔の面影のまま、窓際のソファや、落ち着いた調度品がスイートらしいデザインになっています。以前は、バーテンダーがシェーカーを振る音と共にバーの客たちが楽しんだ船の前方に広がる景色を、今度は、ベッドに寝ころびながら独り占めできるようになったのです。

オーシャンビュースイート

オーシャンビュースイートで海を見ながら朝食を

その隣にできたビスタスイートは、従来のデラックスルームを2部屋合併してできた新スイートルームで、広々としたリビングスペースや、海を眺める特等席のベランダ、カラフルなライトが鮮やかなバブルバスなど、ぜいたくなくつろぎの時間が過ごせます。

ビスタスイート

デラックスルームを二つ合併し新しいビスタスイート誕生

そして、にっぽん丸のスイート客室の大きな特徴は、日本のクルーズ船で唯一のバトラー(執事)サービスがあること。部屋に入ればウェルカムシャンパーニュとカナッペのサービス、朝食から夜食まで対応してくれるルームサービスなど、至れり尽くせりです。以前はスイート客が夕食のために部屋を出るとバトラーからレストランに連絡がいくと聞いていましたが、確認すると「いいえ、今はバトラーが、レストランでお待ちしています」という答えに、さらに進化したバトラーサービスを知りました。今回の改装でスイート客室を増やしたにっぽん丸の新しい魅力と言えるでしょう。

バトラーサービス

日本のクルーズ船で唯一のバトラーサービス

船上で落語やバータイムを楽しみ ゆったりとした時の流れにやすらぐ

船内に、自由度の高いスペースが増えたことも、斬新でした。たとえば、かつてゲームコーナーがあったドルフィンホールの後方は、新たに椅子や本を置き、後方の海景色を眺めたり、読書をしたりするのにも最適な場所になりました。

一方、今も昔もにっぽん丸で人気があるのは、プールサイドにあるリドテラスです。海を見ながら、ゴディバのチョコレートドリンク・ショコリキサーや、ハンバーガーなどのスナックを無料で食べられる魅力的な場所になっています。

ショコリキサーとハンバーガー

リドテラスで人気のショコリキサーとハンバーガー

エンターテインメントの方法も、少し変化がありました。例えば、1日目の夜、ラウンジ「海」で上演された三遊亭萬窓(まんそう)師匠による落語は、座席数を減らし、高座の前に大きなアクリル板を置いて感染症対策。船の上のゆったりとしたスペースで、古典落語「厩(うまや)火事」を楽しみました。

三遊亭萬窓

三遊亭萬窓師匠の「厩火事」。古典落語を船上で楽しむ

そして、1日目の締めくくりは新しい「ホライズンバー」へ。かつて畳敷きの和室「吉野」があった場所が、どっしりとしたバーカウンターを構えた大人のバーに変身していました。併設するラウンジ席も、夜になるとキャンドルライトがともり、おしゃれな雰囲気。バーは変わっても、変わらぬ丁寧な造りのカクテルに、安心しながらにっぽん丸の粋な夜が更けてゆきました。

ホライズンバー

ホライズンバーのラウンジ席。キャンドルライトがムーディー

紅葉の名所香嵐渓 そして 伝統ある蒲郡クラシックホテルへ

11月24日に横浜港を出発し、11月25日、愛知県の蒲郡港に到着。にっぽん丸では、寄港地での上陸前には検温が必須です。岸壁には、蒲郡市の鈴木寿明市長はじめ、関係者が出迎え、歓迎式典が行われました。

今回は、船のオプショナルツアーから「香嵐渓と蒲郡クラシックホテル」を選び、まず、香嵐渓へ向かって出発しました。愛知県豊田市にある香嵐渓は、矢作川支流巴川沿いの渓谷で、東海随一の紅葉の名所として知られています。1634(寛永11)年、香積寺(こうじゃくじ)十一世の三栄和尚が経を唱えながら植樹したことが始まりと言われ、秋には約4000本の紅葉が色づき、渓谷を錦に彩ることで人気を集めています。

地図を頼りに、赤い欄干の待月橋を渡り、つり橋である香嵐橋を目指しました。ヤマモミジ、コハウチワカエデなど香嵐渓には11種ほどの紅葉があるそうですが、鮮やかな黄色、五色のグラデーションなど色とりどりの紅葉の道は歩くだけでも気分爽快。途中、ベンチに座り、対岸を見ると、山の紅葉と、ふもとの草ぶき屋根の茶屋が情緒を醸し、さらに進んで、つり橋を渡りながら、せせらぎに映る逆さ紅葉の写し絵に見とれました。

香嵐渓

紅葉の名所・香嵐渓

秋の紅葉狩りを楽しんだ後は、蒲郡に戻り、由緒ある蒲郡クラシックホテルでランチタイムとなりました。第1回国際観光ホテルに指定された蒲郡ホテルを前身とする蒲郡クラシックホテルは、華麗な城郭風建築の外観と、アールデコ様式を用いた内装が格調高く、九つのホテルで結成された「日本クラシックホテルの会」加盟ホテルの一つです。

蒲郡クラシックホテル

伝統ある蒲郡クラシックホテル。外観は城郭風様式

伝統を感じさせるメインダイニングで、アミューズブーシュ、鶏肉のテリーヌ、かぼちゃとジャガイモのスープ、そしてメインの黒むつとイトヨリダイのヴァンブランソースと続くコースを楽しみましたが、料理もサービスも正統派。特に、スープをテーブルでよそうチューリンサービスは、とても久しぶりで、まだ子供だった頃、父からテーブルマナーを教わりながら、かしこまって座っていた昭和30年代のホテルサービスがよみがえりました。丘に立つこのホテルは三河湾の眺望も美しく、食後には、屋外テラスから、天然記念物の竹島と、蒲郡港にたたずむにっぽん丸の織り成す絶景も堪能しました。

にっぽん丸

蒲郡クラシックホテルのテラスからにっぽん丸を望む

岸壁に戻ると、地元の名産品を売る物産展がありましたが、実は出展者も、検温、健康質問票の提出を行い、互いに、もちこまない、広げないよう感染症対策を行っていたそうです。

出港の時、岸壁では東三河地方に伝わる手筒花火で見送ってくれました。火薬を入れた筒を人間が腕に抱え火柱を上げるという珍しい花火で、噴き上がる炎がダイナミック。降り注ぐ火の粉をものともしない5人の男性の勇壮な姿に、船上からも拍手喝さいが送られました。

手筒花火

蒲郡港出港! 勇壮な手筒花火のお見送りに感動

色とりどりの秋の味覚と吉田兄弟の津軽三味線コンサート

蒲郡を後にしたにっぽん丸では、ウィズコロナ時代に生まれた催しもありました。その一つが「3分でできる手作りマスク」教室です。材料をもらい、VTRを見ながらマイマスクを作ると、替えのマスクとしても使える便利なイベントでした。

今日の夕食は、美味なる船の異名をとる、にっぽん丸の和食です。柿のごまあえなどを盛り込んだ前菜には、赤紅葉、菊花、柿の葉などをあしらい、皿の上に秋模様を演出。天然本マグロと愛媛産カンパチのお造りは、めでたい紅白の盛り合わせ。京鴨(かも)の山椒(さんしょう)焼きには、紅葉麩(ふ)やいちょう黄ニンジンを飾り、目にも鮮やか。さらに、イセエビの青碗(わん)蒸し、ブドウ、柿、梨などをあえた秋果あえと続き、煮物は旬を迎えたブリの潮煮。そして、栗とキノコのご飯に、落花生豆腐とこのわたのお椀。目でも舌でも秋の味覚を存分に味わいました。

前菜

にっぽん丸の和食。秋を感じる前菜

2日目の夜のハイライトは、吉田兄弟による津軽三味線コンサートです。ともに5歳から三味線を習った兄吉田良一郎さん、弟吉田健一さんは、兄弟奏者として、1999年アルバム「いぶき」でメジャーデビュー。2003年には全米デビューを果たすなど国際的に活躍する津軽三味線奏者が、にっぽん丸のステージにやってきました。テーマは「三味線だけの世界」。健一さん作曲の「AIYA」「百花繚乱(りょうらん)」や、民謡・津軽じょんがら節など約60分にわたり、力強く美しい音色とバチさばきを披露しました。

吉田兄弟

津軽三味線奏者・吉田兄弟コンサート。迫力ある演奏は、息もぴったり

そして、ラストナイトのフィナーレを飾ったのは、ウィズコロナ時代のディスコ「ソーシャルディスタンスディスコ」でした。専属バンド・アスール★プラ★プティ★のディスコミュージックに合わせ、踊る方法は二つ。「椅子に座って手だけで踊る」、または、「一定の間隔をあけて1人で立って踊る」のどちらかを選ぶのですが、生バンドの強烈なビートにいつのまにか青春時代がよみがえってきました。

色々な制約を受ける中で、再開したにっぽん丸のクルーズですが、今回初めてクルーズに乗ったというお客様の「こんな時にクルーズに乗る不安はあったけど、感染症対策がしっかりしていた上に、サービス、食事、イベントなどが素晴らしく、心身ともに癒やされました。絶対また乗りに来ます」という言葉に、こちらの心も明るくなりました。

確かにウィズコロナ時代のクルーズは、イベントの種類や数は減りましたが、その代わり、大海原を眺め、本を読み、料理を味わい、音楽を聴き、バーでくつろぐといった船旅ならではの、緩やかな時の流れに浸りやすくなりました。そして、再開したにっぽん丸は、久しぶりに、そんな船旅の原点を思い起こさせてくれたのでした。

■このクルーズに関する問い合わせ先
・商船三井客船株式会社
https://www.nipponmaru.jp

PROFILE

上田寿美子

クルーズライター、クルーズジャーナリスト。日本旅行作家協会会員、日本外国特派員協会会員。クルーズ旅行の楽しさを伝え続けて32年。外国客船の命名式に日本を代表するジャーナリストとして招かれるなど、世界的に活動するクルーズライター。旅行会社等のクルーズ講演も行う。著書に「豪華客船はお気に召すまま」(情報センター出版局)、「世界のロマンチッククルーズ」(弘済出版社)、「ゼロからわかる豪華客船で行くクルーズの旅」(産業編集センター)、「上田寿美子のクルーズ!万才」(クルーズトラベラーカンパニー)など。2013年からクルーズ・オブ・ザ・イヤー選考委員。

飛鳥Ⅱクルーズを再開  リニューアルした客船で秋の新宮・熊野へ

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「ホテル&クルーズ」という新たなスタイルで、楽しさ2倍の新春旅行

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