永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(92)古い建物に吹き込む新たな命 永瀬正敏が撮った台北

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は、台湾の歴史的な建物を撮ったカット。クリエーティブスペースとして生まれ変わった古い建物と、背後にある建設中の最新建築を一枚に収めた、永瀬さんの心に去来した思いとは?

(92)古い建物に吹き込む新たな命 永瀬正敏が撮った台北

©Masatoshi Nagase

ここは台北の「松山文創園区」。
ギャラリーやイベントスペース、カフェ、レストラン、ミュージアムショップなどが立ち並ぶ、
芸術・クリエーティブスポットだ。

元々たばこ工場だった場所で、
1937年に設立され、60年ほどの時を経て1998年に閉鎖された。
その後数年たち市の史跡に指定された後、
古い建物を利用し、それに新たな命を吹き込む「文化創意」=「文創」によって、
生まれ変わったそうだ。

台北にはもう一つ「華山1914文化創意産業園区」という同じようなクリエーティブスポットがあるが、
こちらは酒工場の跡地をリノベーションして開園したとのこと。
どちらの文創園区も素晴らしい。
当時の建物、機械、什器(じゅうき)などをそのまま生かしつつ、
現代、未来をも感じさせる新しいアート空間に仕上げている。

これらは有名無名のクリエーターたちに表現の発表の場として広く活用されていて、
僕も両方の場所で、ありがたいことに写真展を開催させていただいた。
前衛的な美術展はもちろん、大人から子供まで楽しめる企画展まで、
幅広く、国籍を超えた個展が開催されている。
僕が何度か訪れた時も、日本の「ONE PIECE」展が開かれていたり、
骨組みだけの巨大なゴジラ像が中庭に展示されていたりして、
多くの人でにぎわっていた。

「歴史ある古い建物」をいかにして残すか?
前回紹介した遺跡とはまた違う、歴史を後世に残す取り組みが台湾では進んでいる。
日本でも近年、古民家を利用しカフェを開いたり、
廃校や工場を美術館やアトリエにしたりするところも増えている。
僕も自分のスタジオやギャラリーをいつかそのような場所で持ってみたい。

写真の中では歴史を継続した場所の裏に、建設中の台北ドームの骨組みが写っている。
古いものと新しいものの融合。
さまざまな問題はあるだろうが、ただ古い物を壊して新しいものを作り上げるだけでなく、
歴史を後世に伝えるべく知恵を絞り、また新しいものとして残していくことも重要ではないか。

歴史ある場所にこの日もたくさんの人が訪れていた。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作にオダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」 、大森立嗣監督「星の子」など。 写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2021年1月16日から3月21日まで、愛知県の「高浜市やきものの里かわら美術館」で写真展が開催される。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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