京都ゆるり休日さんぽ

名もなき物の小さな声に耳をすませ 週一度だけ開く店「古い道具」

等持院・立命館大学衣笠キャンパス前という嵐電(らんでん=京福電鉄嵐山本線・北野線の通称)の小さな駅から、住宅街の細道をてくてく歩いた先にある「古い道具」。今回訪ねたこちらの店は、週に一度、土曜日だけオープンする古道具店です。SNSアカウントもホームページも、看板さえないこの店では、そこで出会うものをただ美しいと感じる、純粋な気持ちに気付かされます。(*2020年12月取材)

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

骨董的価値よりも「好き」という感覚を大切に

鉄格子の扉から光が注ぐ空間。日本のものを中心に、縄文土器から戦後の雑器まで自由な目線で選ばれたものが並ぶ

鉄格子の扉から光が注ぐ空間。日本のものを中心に、縄文土器から戦後の雑器まで自由な目線で選ばれたものが並ぶ

テーブルや棚の上の、小さな小さな存在にふと目がとまる。無作為に並べられているように見えるそれらが、どこか共鳴しているように感じる。「古い道具」でさまざまな古いものを眺めていると、そんな不思議な感覚にとらわれます。

アルミのカップ、色あせた紙の箱、貫入の入った茶器など一口に古いものと言っても素材はさまざま

アルミのカップ、色あせた紙の箱、貫入の入った茶器など一口に古いものと言っても素材はさまざま

店主の冨永淳さんが国内の蚤(のみ)の市をめぐり見つけてきた、古いうつわやガラス、玩具、生活道具……。その多くは日本のもので、用途のあるものも、ないものも混ぜこぜ。年代は古いものでは縄文時代にまでさかのぼります。

「時代や出自に関係なく、直感的にひかれるたたずまいのものを選んでいます。骨董(こっとう)的価値を知るとつい、そろばんを弾きそうになる。できるだけそこから離れて、自分が好きだと思う感覚に委ねたくて」

店主の冨永さん。気になる品について訪ねると、穏やかな口調でものにまつわるさまざまなエピソードを話してくれる

店主の冨永さん。気になる品について訪ねると、穏やかな口調でものにまつわるさまざまなエピソードを話してくれる

時を経た道具や生活用品にひかれ、蚤の市を巡る

そう話す冨永さん。20代のころ出会った、陶芸家・石井直人氏のうつわをきっかけに自身のもの選びを見つめ直し、いつしか時を経た道具や生活用品にひかれるように。蚤の市に足を運びコツコツと古道具を買い集めるうちに、自宅の一角で店を構えるまでになりました。

黄色いものばかり集められた一角。右端に鏡餅のように重ねてあるのはガラスのおはじき

黄色いものばかり集められた一角。右端に鏡餅のように重ねてあるのはガラスのおはじき

「好き」が高じて店となった冨永さんのコレクションは、彼の感性そのもの。業者向けの市場やオークションではなく、一般の人でも行くことができる蚤の市に早朝から出向き、アンテナに響くものを探して回ります。誰でも行ける場所で、誰の目にもとまらないものを見つける。そうして見つけられた品々は、冨永さんの視点で並べ、編集されることで、途端に一枚の風景を描きはじめます。

「暮らしの断片」たちに新しい文脈を与えたい

きれいに削られた鉛筆の先端、古びたパステルもオブジェのよう。中央のガラス瓶には、たまたま見つけた同じ色のビー玉を栓に見立てた

きれいに削られた鉛筆の先端、古びたパステルもオブジェのよう。中央のガラス瓶には、たまたま見つけた同じ色のビー玉を栓に見立てた

「持てないほど小さくなった鉛筆は、どれもピンと削られたまま見つかりました。最後にこうやって削ることが、この人(持ち主)なりの供養だったのかもしれません」

「古い道具」に並ぶものの中には、ものとしての名前さえ与えられていないような品もたくさんあります。使い古してちびた鉛筆、子どもの図画や工作、誰かが残した英単語帳の一片……。冨永さんが見つけなければ、捨てられていたかもしれない、いつかの誰かの暮らしの断片。

子どもの工作や玩具らしきものも好んで選ぶものの一つ。店のあちこちに置かれ、時には名前が記されていることも

子どもの工作や玩具らしきものも好んで選ぶものの一つ。店のあちこちに置かれ、時には名前が記されていることも

「“おおきな声を出さないもの”にひかれるんです。存在感のあるものではなく、こっそりとあるもの、じんわりくるものに。ものにとって古道具屋は最後のとりでです。僕が見つけることで、別の価値が生まれたらうれしいです」

あるものは色という共通項で景色を描き、あるものは道具からオブジェへと用途を変え、あるものは不完全な姿を肯定される。新しい目的を与えられ並んだ古いものは、どこか居心地よさそうにさえ見えます。

使い道のないもの、何かわからないものでも不思議と目にとまるところに、冨永さんの並べ方のセンスやものへの愛情を感じる

使い道のないもの、何かわからないものでも不思議と目にとまるところに、冨永さんの並べ方のセンスやものへの愛情を感じる

「並べていると、違う文脈のものがくっついて新しい景色を作る。それが楽しいところです。お客さんが選んだものをテーブルに並べるうちに、『この組み合わせもいいなぁ』と発見したり。人それぞれ、生活の中で好きな使い方を見つけてもらえたら」

黄色い毛糸は何かとリンクするように天井に張られている。アートのようなディスプレーも楽しみの一つ

黄色い毛糸は何かとリンクするように天井に張られている。アートのようなディスプレーも楽しみの一つ

「古い道具」の空間にただよう、ふいに小さなものと目が合う感覚や、配置や構図から感じる調和。それはもしかして、縁あってここに集まってきたものたちが新しい役割を得て、私たちに語りかけているからなのかもしれません。その小さな声に気づくことができるなら、名もなきものを美しいと感じる目はきっと、誰の心にも宿っているのでしょう。

住宅街の一角。自宅の一室を店舗として土曜日のみオープンしている

住宅街の一角。自宅の一室を店舗として土曜日のみオープンしている

古い道具
京都市北区等持院南町68-1
土曜のみ営業 11:00〜17:00

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BOOK

名もなき物の小さな声に耳をすませ 週一度だけ開く店「古い道具」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が2019年6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。


PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。

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