楽園ビーチ探訪

上から見るか、下から見るか 地球が生んだ絶景・岩手「碁石海岸」

岩手県の南東部、大船渡湾に突き出した末崎(まっさき)半島の南端付近に続くリアス海岸、碁石海岸。「国の名勝・天然記念物」であり、「三陸復興国立公園」の中心的存在のひとつであり、貴重な地質名所が選ばれる「三陸ジオパーク」でもあり、さらには「日本の白砂青松100選」や「日本の渚(なぎさ)百選」、「日本の音風景100選」(雷岩)にも選ばれています。絶景であることの、数々のお墨付きをいただく景勝地です。(※2020年11月取材、トップ写真:展望台から見下ろした乱曝谷〈らんぼうや〉の瑠璃〈るり〉色の水路。冬に入ると、透明度がアップするそうです)

連載「楽園ビーチ探訪」は、リゾートやカルチャー、エコなどを切り口に、国内外の海にフォーカスした読み物や情報を発信するビーチライターの古関千恵子さんが訪れた、世界各地の美しいビーチや、海のある街や島を紹介いたします。

断崖・洞穴……地形のデパート 「碁石八景」の絶景が点在

ギザギザと約6キロ続く碁石海岸には、断崖・洞穴・洞門・水道・潮吹き穴・岩礁・丸石の浜など、様々な地形が見られます。この景観が生まれたのは、約1億3000万年前に海底で形成された、泥や砂の堆積(たいせき)岩である頁岩(けつがん)と砂岩が積み重なった層が隆起し、波によって浸食されたため。堆積岩のひとつである頁岩はその名が表すように、ページのようにはがれやすく、もろい性質。そのため、層の境界面や節理(割れ目)が浸食されやすく、このような表情豊かな海食崖(かいしょくがい)が誕生しました。

迫力の巨岩、穴通磯(あなとおしいそ)は碁石海岸を代表する名勝

迫力の巨岩、穴通磯(あなとおしいそ)は碁石海岸を代表する名勝

碁石海岸には「碁石八景」と呼ばれる、絶景ポイントが点在しています。断崖の上から絶景が見下ろせるよう、遊歩道も整備されています。

駐車場のあるインフォメーションセンターなどの背後には、松林の合間を縫うようにハイキングコースが走っています。1800年代初頭に防風林として植樹されたアカマツとクロマツが混在した林は、思わず見上げてしまうほど立派。小道をたどっていくと、ところどころに展望台が設置されています。

突端の「碁石岬」の展望台からは晴れた日には宮城県の金華山まで望むことができ、「乱曝谷」を見下ろす展望台からは、岩壁に挟まれた水路を行く小船を見かけることも。そして時折、「雷岩」の洞穴に打ち付ける波によって、ドーンという雷のような、腹に響く重低音が風に運ばれ上ってきます。

展望台から見下ろした乱曝谷の瑠璃色の水路。冬に入ると、透明度がアップするそうです

展望台から見下ろした乱曝谷の瑠璃色の水路。冬に入ると、透明度がアップするそうです

6~11月、海上から奇岩・景勝を見上げる「穴通船」

6~11月ならば、地元の漁師さんが小舟で海から碁石八景を案内する「碁石海岸穴通船(あなとおしせん)」がおすすめ。海面近くから見上げる奇岩や断崖は、迫力が違います。

今回、「碁石海岸穴通船」を担当してくれたのは、大和田初男さん。現在5隻が持ち回りで運航し、大和田さん以外は養殖ワカメの漁師さん。そのため休漁中の6~11月のみ開催しています。

巧みな操船技術で案内してくれた大和田初男さん。冬も海況がよければ、出船してくれるそう

巧みな操船技術で案内してくれた大和田初男さん。冬も海況がよければ、出船してくれるそう

藍色をした海原を遊覧船は小気味よく飛ばしていきます。松林をのせた岬を超えると、断崖や奇岩が、黒みがかった色から黄色に変わります。海岸線には地層をあらわにした断崖が続き、ふもとのところどころに丸石の浜や洞穴が点在しています。

藩主伊達公に整った石を碁石として献上したという言い伝えがあることから、「碁石浜」と名付けられたとの説が

藩主伊達公に整った石を碁石として献上したという言い伝えがあることから、「碁石浜」と名付けられたとの説が

最初に近寄ったのは、ぽつんと浮かぶ「巾着岩(きんちゃくいわ)」。8月半ばから夏にかけてここはウミウの繁殖地となり、8月にはヒナを見かけることも。黄土色の岩肌は長年蓄積した鳥たちのふんで白くムラになっています。大船渡の市の鳥にもなっているウミネコたちなど、海鳥たちが頭上を横切りますが、大和田さんが見つけるたびに喜んで指さすのは、タカ目ミサゴ科のミサゴという鳥。翼が大きく、尾羽が短いのが特徴だそう。慣れるまでは聞き取りにくかった、気仙なまりの案内も味わいです。

ウミウのふんで白く染まってしまった巾着岩

ウミウのふんで白く染まってしまった巾着岩

その昔、トドが休んでいたとされる「海馬(トド)島」で羽を休めるウミウ

その昔、トドが休んでいたとされる「海馬(トド)島」で羽を休めるウミウ

碁石八景のハイライトの「穴通磯」は、三つの洞門が開いた巨大な岩。斜めに隆起した地層に、地球のパワーを感じます。この穴をくぐり抜けることができるのは、喫水の浅い小ぶりな船だからこそ。いちばんの見せ場です。

地形や音、潮吹き……東日本大震災の「爪痕」

頭をぶつけないよう気にしながら見上げると、ギザギザと節理(割れ目)が切り込まれた地層がすぐそばに迫っています。波に揺られながら、狭い洞門を抜ける操船技術は、さすがベテランです。

帰りのコースの見せ場は、両側に岩がそそりたつ乱曝谷の通り抜け。狭い水路なので海況によっては入れないことも珍しくないそうです。この日は運よく穏やかで、通り抜けOK。けれど、満潮近くだったせいか、雷岩の波音の迫力はいまひとつ。一方、潮吹き岩は空高くしぶきを上げていました。

海食洞に打ち付けられた波が、岩間から勢いよくしぶきをあげる潮吹き岩

海食洞に打ち付けられた波が、岩間から勢いよくしぶきをあげる潮吹き岩

大和田さんいわく、潮吹き岩は震災によって地盤沈下が起こり、潮を吹くようになったそう。雷岩のごう音も、かつてはもっと大きかった、との話も聞きました。そして以前は民宿を営んでいた大和田さんは被災を機に廃業したのだといいます。

美しい景色と忘れてはならない記憶が、碁石海岸には刻まれています。

えびす浜を見下ろす「海鮮お食事処 岬」。ウニ入り磯ラーメン900円

えびす浜を見下ろす「海鮮お食事処 岬」。ウニ入り磯ラーメン900円

【取材協力】碁石海岸穴通船(6~11月) http://goishi.info/anatoshisen/ 
*料金1名2000円(小学生以下、半額、2名以上で催行)。約40分間。
【問い合わせ先】碁石海岸インフォメーションセンター http://goishi.info/
*電話0192-29-2359

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PROFILE

古関千恵子

ビーチライター。リゾートやカルチャー、エコなどを切り口に、国内外の海にフォーカスした読み物や情報を発信する。ダイビング雑誌の編集者を経てフリーとなり、“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”を繰り返すこと四半世紀以上。『世界のビーチ BEST100』(ダイヤモンド・ビッグ社)の企画・執筆、『奇跡のリゾート 星のや 竹富島』(河出書房新社)の共著のほか、ファッション誌(『Safari』『ELLE Japon』など)やウェブサイトに寄稿。ブログも配信中。

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