永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶
(93) “生”を感じる瞬間の美しさ 永瀬正敏が撮ったトルコ
文: 永瀬正敏
国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は、トルコ・アンタルヤの街角で撮った男性のカット。海の美しいリゾート地でシャッターを押した永瀬さんの思いとは?

©Masatoshi Nagase
その男性は無心で作業をしていた。
周りの雑音に流されず、道端で淡々と。
トルコ・アンタルヤ。
アンタルヤはトルコでも有数のリゾート地。
地中海の青い海が望めるターコイズコーストと呼ばれ、
ヨーロッパや世界中から多くの人々が訪れている。
その街角で出会った一人の男性。
僕はこういうシチュエーションに弱い。
出会ったときには間髪をいれずレンズを向けてしまう。
もちろん広がる青い海、素晴らしい建造物もたくさん撮影した。
前回、前々回と紹介したような素晴らしい歴史的建造物も。
歴史を物語る建物や文化を感じるものもシャッターを押さざるをえない衝動にかられる。
でも、どの国に伺っても必ず撮影しているのは、
働く人々や生活の一部が感じられる姿だ。
働く人々の美しさ、たくましさが僕はとても好きだ。
写真に残したいと強く思う。
この男性の時が刻まれた顔のシワ、ほこりまみれのパンツ……。
一生懸命ゴミを分別し、出されていたその姿が、
青い海に負けず劣らず美しいと僕は思った。
そして、できることなら彼のことをもっと知りたいとも思った。
同じような“生”を感じる瞬間をとらえた作品が多々ある。
また機会を見てこの連載で紹介させてもらえればと思う。
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