ホームを「額縁」にして見る島と船 山口県・大畠駅
文: 村松拓

屋根のない開放的な駅もいいけれど、大畠(おおばたけ)駅は、屋根があるからこそ絵になる駅だ。ホームに立つ木造の上屋越しに見る瀬戸内海の情景は、まるで額縁に飾られた絵画のよう。近くに迫る海と島、そしてときおりフレームインしてくる船は迫力も十分。列車待ちの間、ずっと眺めていたくなる情景があった。
何度見ても飽きない「絵」
山陽新幹線の徳山駅から、JR山陽線の普通列車で東へ。40分ほどして、車窓の右手に瀬戸内海が広がると、まもなく大畠駅に到着する。
大畠駅は、山口県東部の柳井市にある有人駅だ。海側と山側にそれぞれ長いホームが、山側には平屋の駅舎があり、旧大畠町の玄関口だった風格を感じさせる造りだ。また、駅の南にある周防大島(屋代島=やしろじま)への玄関口ということもあり、タクシープールやバスロータリーも備える。
訪れたのは、2016年10月。何人かの乗客を降ろして列車が去ると、向かいにある海側のホーム越しに、瀬戸内海が見えた。上屋がまるで額縁のようになり、間近に迫る海の青と空の青、そして背後の島の緑を鮮やかに切り取る。
実はこの日で3回目となる大畠駅の訪問。近くを通るたび、この絵画のような景色を眺めたくなり、ふと降り立ってしまうのだ。見るたびに景色が大きく変わるわけではないが、この日は午後3時を回っており、西日によって伸びる柱の影が少しばかり哀愁を感じさせた。
間近に見える大小二つの島
海側のホームから見える景色も、もちろん素敵だ。跨線橋(こせんきょう)で海側のホームへ渡れば、海はぐっと近くなる。ホームと海の間は、鉄道用地と岸壁を挟んで、わずか20メートルほど。目線を上げれば、二つの島も間近に見える。
最も近くに見えるのが、周防大島こと屋代島。瀬戸内海では淡路島、小豆島に次ぐ、3番目に大きな島だ。大畠駅からはわずか1キロほどしか離れておらず、駅の東側に架かる大島大橋で本州と結ばれている。1976(昭和51)年に大島大橋が開通するまでは、大畠駅から国鉄の連絡船も運航されていた。現在は大畠駅前からバスで渡ることができる。今も昔も、大畠駅は屋代島への玄関口なのだ。

こんもりとした屋代島と、黄緑色が鮮やかな大島大橋
さらに、屋代島から右に目をやると、ぽっかりと浮かぶ、小さく平たい島が見える。こちらは笠佐島(かささじま)。有人島だが、そこに暮らすのはわずか5世帯10人(2020年4月現在)。大畠駅からは直線距離で約2キロメートルの場所にありながら、訪れるためには屋代島に渡り、1日3〜4往復の小さな連絡船に乗り継ぐ必要がある。近く見えても、ちょっぴり遠い島といえよう。

大畠駅から見た笠佐島。目を凝らせば集落も見える。人口10人の島ながら、民宿もある
「大畠瀬戸」がもたらす、躍動感ある情景
ホームから海や島を眺めていると、しばしば大きな船が目の前を横切る。これは、本州と周防大島の間が「大畠瀬戸」という海峡になっているためだ。この海峡が本州と四国を結ぶ近道になっており、貨物船のほか、柳井港と愛媛県松山市の三津浜港を結ぶ「防予フェリー」も通る。

「額縁」にフレームインする防予フェリー。多くの船が岸の近くを通るため、なかなかの迫力だ
また、渦潮が発生する急流として有名で、タイやメバルの豊かな漁場でもあるという。思い返せば、訪れるたびに岸壁の上で誰かしらが釣りをしている場面に遭遇してきた。この日も例にもれず、釣り人のシルエットがぽつりと浮かぶ。

海側のホームから写真を撮るときも、つい上屋を入れたくなってしまう

かつては「釣りの町 大畠」という看板がホームで出迎えてくれたが、2016年の訪問時には撤去されていた(2007年8月撮影)
山側のホームに戻り、ベンチで帰りの列車を待ちながら、ぼんやりと「額縁」を眺める。そこには、何度見ても変わらない誰かの日常があった。
行き交うあまたの船に、思い思いに過ごす釣り人。大畠駅から見える景色に動きをもたらしてくれるのは、瀬戸内の地形が生み出した自然美と、それを活用する人々の暮らしだ。
誰もいない無人駅の旅情も捨てがたいが、大畠駅にもやっぱりたびたび訪れたい。そう思えるのは、海が当たり前のようにある日常に、ちょっとした憧れを感じているからかもしれない。
山陽新幹線徳山駅からJR山陽線で約42分。
■JR西日本(JRおでかけネット)
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