「甘い!」と日本茶に感激 静岡が誇る“全国ナンバーワン”(中編)
文: 中元千恵子

静岡の“ナンバーワン”を訪ねる旅の2回目です。静岡県や静岡市が、調査で全国1位を獲得している産業五つを、2回でご紹介する予定でしたが、盛りだくさんなので計3回に拡大します。今回は昨年12月に取材した「お茶」。本場・静岡で味わうお茶のおいしいこと。スイーツもお茶の産地にまでこだわった逸品です。
茶農家と茶商が手をかけて作る「静岡茶」
静岡の名産品と聞いて、真っ先に「お茶」を思い浮かべる方も多いでしょう。静岡県は、製茶する前の「荒茶(あらちゃ)」の生産量も、摘採(てきさい)面積も、主産府県のなかで第1位です(いずれも2020年産一番茶について。「農林水産統計」より)。もともとお茶栽培に適した気候や地形でしたが、1859(安政6)年に横浜港が開港し、お茶の輸出が盛んになると、県下に茶畑が増えていきました。現在も山間部から平野部まで、広くお茶が栽培されています。

静岡市内にも茶畑が広がります(画像提供:静岡市)
お茶は製茶になるまで多くの工程があり、良質な静岡茶は、茶農家と“茶商(ちゃしょう)”とよばれる製茶問屋の合作でできあがります。そこには人間の感覚と経験を生かした職人技も欠かせないそうです。
茶農家は、茶葉を摘むと、蒸す、もむ、乾かすなどの工程を行い、「荒茶」とよばれる状態にします。この「荒茶」を仕入れ、バランスよく配合する「合組(ごうぐみ)」や、乾燥させる「火入れ」を行って製茶に仕上げるのは茶商(製茶問屋)の仕事です。「荒茶」は産地や品種によって味や香り、水色(すいしょく)などが異なるので、茶商は五感と経験を生かし、それぞれの特性を引き立たせるブレンドや火入れを行います。

人の手をかけて作り上げる静岡茶。茶摘みなど、お茶づくりの工程の体験もできます(画像提供:静岡市)
静岡駅地下で本格的な日本茶が味わえる「喫茶 一茶」
茶商たちが腕によりをかけて製茶した静岡茶を、気軽に味わえて買えるのがJR静岡駅北口地下広場にある「喫茶 一茶」です。静岡市の協力のもと、静岡茶商工業協同組合が「急須でいれたお茶の楽しみ方を季節に応じて提案したい」と運営しています。

「喫茶 一茶」。駅地下にあるのでアクセス抜群
喫茶コーナーでは、日替わりの和菓子とともに、温度にこだわって急須でいれた静岡茶が味わえます。

店内で販売するお茶の中から1週間ごとに3種類を選んでいれています
鉄瓶の湯を使い、1煎目は70~75度のぬるめの温度でいれます。

1煎目はスタッフがいれてくれます。「かえし」を行ってお湯を適温に
ひと口飲んで思わず「甘い!」と叫びました。お茶がこんなに甘くておいしいとは……。口に広がるすがすがしい香りとふくよかなうまみ、そしてやわらかな余韻にうっとりとします。ペットボトル入りのお茶も便利ですが、急須でいれたお茶のおいしさに改めて感激しました。

お茶のおいしいこと! 上生菓子セットは税込み700円
お茶は第1煎で甘み、第2煎で渋み、第3煎で苦みを味わう「甘・渋・苦」の段階があるといわれます。2煎目、3煎目用のお湯はポットで出されるので、自分の好みのタイミングで味の変化が楽しめます。

2煎、3煎とゆっくりお茶が楽しめます
販売コーナーでは、静岡市内の製茶問屋45社の製品がずらりと並んでいます。1製品ワンコイン(500円)なので、気軽に買ってお気に入りの味が探せるのがうれしいですね。

静岡茶が見やすくディスプレーされています
迷ったら、まずは静岡市の2大ブランド茶である「本山(ほんやま)茶」と「清水のお茶」から選んでみてはいかがでしょう。徳川家康も好んだという「本山茶」は、安倍川や藁科(わらしな)川流域周辺の山あいが産地。川霧がかかる山の斜面で育つ茶葉はやわらかく、やさしい口当たりと爽やかな香りが特徴です。山あいの茶畑には機械が入りにくいので、昔ながらの手摘みが多いのだとか。
「清水のお茶」では、自然に桜葉の香味がする「まちこ」というお茶が話題だそうです。

「本山茶」をはじめ、紅茶などもあります

個性的な味と香りの「まちこ」
約400年続く“お茶のまち”で日本茶スイーツを
茶商である前田冨佐男さんが営む「茶町KINZABURO」を訪ねました。店があるのは静岡市街の「茶町」の近く。茶町は、徳川家康が駿府城の城下町を整備した際、茶商が集められた地区で、今も茶業関係の企業が集まっています。まさに約400年続く“お茶のまち”です。

茶町通りに面した「茶町KINZABURO」
「茶町KINZABURO」では、お茶はもちろん、お茶を使ったスイーツを販売し、2階のカフェスペースで味わうこともできます。
イートイン限定の「お濃茶アフォガード」は、抹茶アイスやモンブランクリームにアツアツのお濃茶をかけていただきます。お茶の香りとほどよい苦みがアイスクリームと抜群の相性です。

濃厚なお茶の風味が味わえる「お濃茶アフォガード」
前田さんは、全国茶審査技術競技大会や日本茶インストラクターのコンクールの優勝者です。茶商の仕事についてうかがうと、「静岡県にはたくさんのお茶の産地があり、茶町には本山茶や川根などの『山のお茶』と、牧之原や掛川などの『里のお茶』の両方が集まってきます。山あいで育つお茶は葉もやわらかく、浅蒸しにすることが多いので香りがいい。里の平地で育つお茶は肥料がまきやすいのでうまみが濃く、深蒸しにすることが多いのです。山と里、それぞれのテロワールを生かし、ブレンドするのが私たち茶商の仕事です」と話してくれました。

蒸し方や火入れの加減でもさまざまに味が変わるそうです
自家製の日本茶スイーツにもお茶の特性を生かしています。人気商品の「茶っふる」は、日本茶をクリームに加えてワッフル生地で挟んだものですが、使用しているお茶ごとに名前が付いています。香ばしい川根の抹茶を使った「川根」にはあんこを、やさしい味わいの「岡部」にはカスタードクリーム、どっしりとした味わいの本山茶を使った「本山」には甘く煮たかのこ豆を合わせています。

各お茶の味を生かした「茶っふる」
「お茶は産地などによって味も香りもさまざまです」という前田さんの言葉通り、カフェには日本茶なのに「ブドウが香るお茶」「ミルクティーの香りのお茶」などが並んでいました。常時11種類ほどが無料で試飲できます。

お茶の味の違いが試せます
前田さんは、以前800人を対象にした大学のアンケートで、お茶のイメージについて一番多かった答えが『くつろぎ、リラックス』だったという結果を聞いて驚いたそうです。「お茶に求められるのは“モノ”ではなく“コト”や“トキ(時間)”なのでしょう。カフェでお茶とお菓子のマリアージュを楽しみ、くつろぎの時間を過ごしていただきたいと思っています」(前田さん)。
【問い合わせ】
・喫茶 一茶
https://www.ochanomachi-shizuokashi.jp/recommend/8004/・静岡茶商工業協同組合
http://www.ocha.or.jp/・茶町KINZABURO
http://kinzaburo.com/・静岡市広報課シティプロモーション係
https://www.shizuokacity-cp.jp/・お茶のまち静岡市
https://www.ochanomachi-shizuokashi.jp/