あの街の素顔

玉露を味わって、茶葉も食べる?! 福岡県八女市への小さな旅

新型コロナウイルスの感染者急増をうけて2021年1月、東京都、大阪府などに緊急事態宣言が出されました。私の住む福岡県も含まれています。年が明けて福岡県に緊急事態宣言が出る前に、私は県南部にある八女(やめ)市を旅しました。八女市といえば、八女茶が有名です。その八女茶をおいしくいただくために独特の飲み方があると聞きました。私は感染予防に十分気を配りながら、真冬の一日を八女市で過ごしました。情緒ある古い町並みを歩き、ワイン工場を見学し、そしてお目当ての八女茶を味わうために八女市星野村へ。同じ福岡県内で楽しんだ小さな旅です。
(文・写真:宮﨑健二)

朝食に抹茶 コンテナに黄金の茶室

新型コロナウイルスに感染するリスクを減らそうと、今回は移動にマイカーを使いました。私の住む福岡市から国道3号を南下して、約2時間半かけて夕方、八女市に着きました。
中心地の八女福島のホテルに1泊。すると、翌朝の朝食に抹茶が出てきました。お湯を注ぎ、茶筅(ちゃせん)で点(た)てて、味わいました。

玉露を味わって、茶葉も食べる?! 福岡県八女市への小さな旅

朝食の抹茶。点てていると気持ちが落ち着きました

ふう。たいへんおいしゅうございました。上品なお茶をいただくと、言葉遣いまで変わってしまいます。

八女茶の旅を始める前に、八女市の中心部を見て回ることにしました。まず八女伝統工芸館へ。

すると、建物の前に大きなコンテナが置かれているではありませんか。中をのぞくと、なんと黄金の茶室になっていました。キンキラキンです。

玉露を味わって、茶葉も食べる?! 福岡県八女市への小さな旅

黄金の茶室。職人さんたちの手によって作られたもので、約1500枚の金箔(きんぱく)が使われています

そして、そのそばには石灯篭(いしどうろう)がそびえたっていました。でかっ!

玉露を味わって、茶葉も食べる?! 福岡県八女市への小さな旅

巨大な石灯篭。高さは10.5メートルあります

そう、八女は職人の町でもあるのです。八女福島仏壇や、八女提灯(ちょうちん)、八女手漉(す)き和紙、そして節句人形も。黄金の茶室と巨大な石灯篭を見て、伝統工芸の技を受け継ぐ職人さんたちの心意気を感じました。

古い白壁の町並みは重要伝統的建造物群 八女福島

八女福島には古い町家が残る白壁の町並みがあり、国が選定した重要伝統的建造物群保存地区になっています。

玉露を味わって、茶葉も食べる?! 福岡県八女市への小さな旅

八女福島の町並み。飲食店や雑貨店などに転用されている町家もあります

歩いてみました。大人気の女性グループ、NiziUの曲「Step and a step」を思い浮かべながら軽やかにステップを踏もうとしたら……あっ、イテテテッ! 腰に鋭い痛みが。年老いた私にはNiziUのダンスのステップは無理なのでした。やむなく、積雪で凍結した道を歩く時のように、慎重に踏みしめて一歩ずつ前進です。こうしてのろのろと歩いて町並みを散策。趣のある木造建物のお茶の店が目につきました。

地元産のフルーツをお酒に 立花ワイン

八女市は2010年に周辺の黒木町、立花町、星野村、矢部村を編入合併して現在の八女市になりました。この旧4町村もそれぞれ特色のある地域です。果物の栽培が盛んな八女市立花町を訪ねました。めざすは立花ワインの工場です。

玉露を味わって、茶葉も食べる?! 福岡県八女市への小さな旅

立花ワインの工場。1992年の創業です

立花ワインは地元産のフルーツなどを使ったワインです。「工場見学はできますか?」と尋ねると、応対してくれた工場長の牛嶋竜也さん(37)が案内してくれました。

工場には大きな醸造タンクが9本並んでいました。温度を調整しながら発酵させるタンクです。期間は2~3週間。タンク1本から500ミリリットルの瓶で8000~9000本分のワインができるそうです。

玉露を味わって、茶葉も食べる?! 福岡県八女市への小さな旅

醸造タンク。この中でワインがつくられます

立花ワインはキウイ、イチゴ、ブルーベリー、ゆず、梅、ミカン、ブドウの7種類。イチゴは福岡で生まれた有名ブランド「あまおう」です。工場を訪ねた時点では、キウイ、ブルーベリー、ゆず、あまおう、ミカンの5種類がつくられていました。

ショップに行くと、ワインがずらり。どれもおいしそうですね。

玉露を味わって、茶葉も食べる?! 福岡県八女市への小さな旅

売れ行き順に並べられたワイン。1位キウイ、2位あまおう、3位ブルーベリーです

私は売れ行き1位のキウイの生ワインを買いました。税込み1650円です。家に帰って飲んでみました。口に含むと、甘くてまるでジュースのよう。その後にじんわりとワインの風味が口の中いっぱいに広がってきました。とても飲みやすいワインです。

もう一つの重要伝統的建造物群保存地区 黒木町

次に訪ねたのは八女市黒木町です。ここにも町の中心部に国の重要伝統的建造物群保存地区があります。歩いていると、趣のある町家を見ることができました。

玉露を味わって、茶葉も食べる?! 福岡県八女市への小さな旅

黒木町に残る昔の町並み。家々の立派な構えが印象的です

八女茶の里、星野村へ

さて、お待たせしました。いよいよ八女茶です。私は山あいにある八女市星野村をめざしました。品質の良い玉露がつくられている、お茶どころなのです。

車で30分ほどかかるので、その間を利用して私がいかにお茶好きかを告白しましょう。いつか「徹子の部屋」に出演することがあったら話そうと思っていたのですが、ゲストに呼ばれることのないまま人生が終わりそうなので、&TRAVELで披露させていただきます。

「体に良いですよ」とかかりつけの医者に勧められて私は紅茶を毎朝飲んでいます。もちろん日本茶も大好きです。玄米茶や煎茶、ドクダミ茶などもお気に入りですが、最近は特に石川県の棒茶にはまっています。

なぜこんなにお茶が好きなのか。ルーツを探ると、子供の頃によく歌っていた「おもちゃのチャチャチャ」に行き着きます。幼くして「チャ」という言葉が体じゅうにしみこんだのです。好きになった喜劇人は茶川一郎。タレントなら加藤茶、漫才トリオといえば、ちゃっきり娘。好きな俳人はもちろん小林一茶です。会社員になってからは上司にゴマをすりまくって「茶坊主」と呼ばれていましたし、カラオケでは石井明美のヒット曲「CHA-CHA-CHA」を歌っていました。

こう書くと、読者のみなさんのおしかりの声が聞こえてきそうです。でも、事実なんです。おそらく。たぶん。かもしれない。だったような気が……。だんだん怪しくなってきました。と、お茶を濁したりなんかして。

話を戻しましょう。そう、そう、星野村への移動の途中なのでした。脇道に入って山道を上ってみると、一面に広がる茶畑がありました。青々としています。寒さに耐えながら春の訪れをじっと待っている。そんなたたずまいでした。

玉露を味わって、茶葉も食べる?! 福岡県八女市への小さな旅

きれいな列を作って植えられている茶畑。おいしい茶になりそうですね

玉露を飲んで、茶葉も食べる「しずく茶」

さあ、星野村に着きました。訪ねたのは「茶の文化館」です。ここでは、玉露を「しずく茶」という独特の飲み方で味わうメニューを提供しています。
注文すると、玉露とお湯、練り切りがお盆にのって出てきました。

玉露を味わって、茶葉も食べる?! 福岡県八女市への小さな旅

税込み500円のしずく茶のセット。左の茶碗の中に玉露の葉が入っています

さっそくパンフレットに書かれた飲み方を実践しました。

まず、湯飲みの中の3グラムの玉露に、45度に温められた約20ミリリットルのお湯を静かに注ぎ、ふたをします。2分間たったらふたを少しずらして隙間を作り、ここからお茶をすするのです。

玉露を味わって、茶葉も食べる?! 福岡県八女市への小さな旅

1煎目。茶碗とふたに隙間をつくって飲みます

茶碗に両手を添えて持ち上げ、慎重に隙間を口にあてて傾けました。温かい玉露がじわじわと口の中に流れ込んできます。うーん、濃い! 少量ながら玉露の味と香りが口いっぱいに広がりました。なんとぜいたくな!

2煎目と3煎目は、やはり20ミリリットルのお湯を注ぎ、20秒ほど待って、同じようにして飲みます。味はまろやかになりました。1煎目に比べれば薄くなりましたが、さすがに玉露、十分おいしいです。

玉露を味わって、茶葉も食べる?! 福岡県八女市への小さな旅

2煎目と3煎目。玉露にお湯を注いだ後はふたをして隙間から飲みます

そして4煎目。今度はポットのお湯をたっぷり注ぎました。飲むと、さわやかな味に変わりました。
これで終わりかと思ったら、そうではありませんでした。最後は酢醤油(じょうゆ)をかけて茶葉を食べるのです。

玉露を味わって、茶葉も食べる?! 福岡県八女市への小さな旅

玉露の葉に酢醤油をかけました。はたしてどんな味なのでしょうか

出がらしを食べるなんて……。でも、考えてみれば、お茶には体によい成分が含まれていますよね。ましてや、高級な玉露です。おそるおそる食べてみると、やわらかい青菜の漬物のよう。おいしかったです。

古賀佳代館長(48)にお話をうかがいました。茶道に「すすり茶」という作法があり、これを参考にして考案した飲み方が「しずく茶」だそうです。

使われているのは高級ブランド茶「八女伝統本玉露」。生育過程では茶園で稲わらを棚にかけて太陽光を調整。機械で茶摘みをする場合は摘み取りやすいように剪定(せんてい)をするのに対して、八女伝統本玉露は剪定をせず、枝が伸びたままの状態で丁寧に手摘みします。

「しずく茶」は当初、飲むだけだったそうですが、お客さんから「茶葉を持ち帰りたい」という要望があり、古賀館長らも「捨てるのはもったいない」と感じていました。また、お茶の成分は体に良いという研究結果もあったことから、料理研究家のアドバイスを受けて最後に酢醤油などをかけて食べるようにしたそうです。古賀館長は「玉露は値段が高いけど、何回も飲み最後は食べて、味の変化を楽しめれば、お得感がありますよね。しずく茶を通して玉露を身近に感じていただければ、と思っています」と話していました。

ちなみに、私が飲んだ八女伝統本玉露は100グラム約4000円のものだそうです。私のお茶ランキングレースでは、有馬記念を制したクロノジェネシスのような力強い走りで八女茶が棒茶を抜いてトップに。感動した私はおみやげに紅茶や玉露を買い込みました。

玉露を味わって、茶葉も食べる?! 福岡県八女市への小さな旅

おみやげに買った紅茶と玉露

帰ったらどれを飲もうかな。私の頭の中はおみやげのお茶のことでいっぱいになりました。なのでこのへんで、八女茶の旅の話はやめちゃいますね。

八女福島観光協会
https://yamekanko.com

立花ワイン
https://www.tachibanawain.co.jp

黒木町観光協会
http://www.townkurogi-ta.jp/

茶の文化館
https://www.hoshinofurusato.com/tea/

PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、江澤香織、高松平藏、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 宮﨑健二

    旅ライター。1958年、福岡市生まれ。新聞社を退社後、主に九州の旅とアウエーでのサッカー観戦を楽しみに過ごす。共著書に「失われゆく仕事の図鑑」(グラフィック社)。

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