特別な存在に気付いた香港 宇賀なつみがつづる旅(17)
文: 宇賀なつみ

フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。今回は「特別なひと」と訪れた、2014年の香港の旅です。
(文・写真:宇賀なつみ)
「特別なひと 香港」
私には、3歳年下の妹がいる。
10代の頃から仲が良く、何でも話ができたし、
しっかり者で料理上手で、
実家にいた頃は、私の方が甘えていたような気がする。
そんな妹も社会人になって数年経った頃、
お正月休みに、ふたりでどこかへ行こうという話になった。
2014年1月。
私たちは、3日間の休みをどうにか捻出し、香港へ飛んだ。
第一印象は、パワフルでスピーディー。
街の隅々まで活気にあふれていて、
時間が速く進んでいる感じがした。
とにかくたくさん歩いた。
坂道のアートや路上の床屋、2階建てトラムなど、
日本とは少し違う日常を見つけては、
うれしくなって感想を言い合った。
旅先では、有名観光地を訪れるより、
日本と少しだけ違う日常を見つけることが好きなのは、
ふたりとも同じだった。
とにかくたくさん食べた。
地元の人でにぎわう店を積極的に選んだ。
階段の途中に机と椅子が並んでいて、
その横で具材を炒めたり、ガシガシと洗い物をしたりするような、
そんな店のご飯がとてもおいしそうで、
不衛生なのではと不安になることもなく、
皆食べているんだからと、気にせず食べた。
名前のわからない色々な料理を試してみたが、
どれもものすごくおいしくて、
いつも200~300円でおなかいっぱいになれた。
日帰りで、マカオにも行った。
ポルトガル統治時代の面影がしっかり残っていて、
写真を撮るのが楽しかった。
暗くなってからの街は、また美しかった。
おしゃれなポルトガル料理店で食事をしながら、
仕事のこと、家族のこと、恋のこと。
色々な話をした。
これまでもたくさん話をしてきたつもりだったけど、
お互い社会人になって、
やっと大人同士の話ができるようになったことがうれしくて、
赤白とワインを2本空けてしまった。
かなり気分が良くなった後、
せっかくマカオまで来たのだからと、カジノへ行った。
ふたりとも酔っていたのだろう。
当時の私たちにしては思い切って、
財布に入っていた香港ドル札のほとんどを、チップに換えた。
おじさまばかりのテーブルに入れてもらって、
ブラックジャックを数時間楽しんだのだが、
最終的に換金すると、ふたりとも倍以上に増えていた。
手加減してもらったのだろうか。
カジノの仕組みはよくわからないが、
上機嫌で帰りのフェリーに乗った。
こうして思い返してみると、
当たり前にそこにいる妹として、家族としてではなく、
ひとりの人間として向き合って、
同じ時間をたっぷり過ごしたのは、
あの時が初めてだったのかもしれない。
同時に、家族であり友人でもあるのは、
世界中で彼女だけ。
ものすごく特別なひとなんだと気付いた。
またいつかふたりで行きたいな。
その時は、もう少しおしゃれをして、
もう少し賭けてみようか。
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