海の見える駅 徒歩0分の絶景

「空の駅」で体感する日本海のパノラマと「東洋一」の記憶 兵庫県・餘部駅

兵庫の名湯・城崎温泉から、山陰線の普通列車でおよそ40分。リアス式海岸ならではの、海とトンネルを繰り返す車窓をしばらく楽しんでいると、いきなり空へと放り出されたような感覚になった。高さ41.5メートル、山陰線でも有数の絶景スポット、兵庫県香美町にある余部橋梁(あまるべきょうりょう)だ。黒い瓦屋根の集落と日本海を見下ろしながら、列車はこの日の目的地、餘部(あまるべ)駅のホームへと滑り込んだ。

■連載「海の見える駅 徒歩0分の絶景」は、アマチュア写真家の村松拓さんが、海のそばにある駅で撮った写真を紹介しながら、そこで出会ったこと、感じたことをつづります。

100年前の大鉄橋が展望施設に

2016年10月。2両編成のディーゼルカーから、余部橋梁のたもとにあるホームへと降り立った。すぐに迎えてくれたのは日本海ビュー。海面はすがすがしい青だった。

「空の駅」で体感する日本海のパノラマと「東洋一」の記憶 兵庫県・餘部駅

餘部駅を訪れるのは、実は4年ぶり。なぜ再び訪れたかといえば、新たに観光スポットが併設されたことを知ったからだ。

その名も“余部鉄橋「空の駅」”。現在の余部橋梁が開通するまで、100年近くにわたって活躍した旧橋梁(通称「余部鉄橋」)の一部を再利用した展望施設だ。

「空の駅」で体感する日本海のパノラマと「東洋一」の記憶 兵庫県・餘部駅

餘部駅のホームのすぐ隣にある「空の駅」。アプローチはかつて列車が走っていた線路だ

余部鉄橋は、1912(明治45)年に完成した高さ41.45メートル、長さ309.42メートルの橋で、当時は「東洋一の鉄橋」とも呼ばれたという。鉄道写真の撮影地としても名高く、余部鉄橋の写った写真を、私も何度か目にしたことがある。

しかし、余部鉄橋は風に弱く、1986(昭和61)年には風にあおられた列車が橋から転落して12人が死傷する事故も発生。その後も強風がしばしば運休の原因になっていた。そこで、隣にコンクリート製の橋が造られ、線路も移設。余部鉄橋は2010年に役目を終え、一部を残して解体された。

そんな歴史ある余部鉄橋の跡をこの足で歩けるのが、「空の駅」というわけだ。

「空の駅」で体感する日本海のパノラマと「東洋一」の記憶 兵庫県・餘部駅

現在の余部橋梁(手前)と、旧鉄橋の上に造られた「空の駅」(奥)

それにしても、目についたのが観光客の姿。餘部駅はごく小さな無人駅だが、ざっと見渡しただけでも、20人ほどはいた。誰にも会わなかった4年前の訪問と比べると、感動すらおぼえる活況ぶりだ。

カップルや親子連れに交じりながら、さっそくホームの隣にある「空の駅」へ。奥行き70メートルほどの細長い空間が谷からせり出し、背が高く頑丈そうな金網が囲む。中へとおそるおそる歩を進めると、金網越しに日本海のパノラマが広がった。41メートルという高さと、ダイナミックな景観が相まって、なかなかスリリングだ。

「空の駅」で体感する日本海のパノラマと「東洋一」の記憶 兵庫県・餘部駅

「空の駅」には海を望むベンチも。ベンチの足元は金網になっており、地面が見える。のんびりと座る人はほぼ皆無だった

しかも、日本海からの強風が容赦なく吹き付けてくる。景色を楽しみたいのに、立っているのが精一杯。10月という季節柄、体もどんどん冷えていく。

仕方なく、5分ほどでホームへと戻ることに。かつて余部鉄橋を通った列車も、この風を直に受けていたと想像すると、穏やかな気持ちではいられなかった(ちなみに、新橋梁にはアクリル製の防風壁が設けられている)。

「空の駅」の下には「道の駅」

その足で、こんどは駅からふもとへと降りてみる。この道のりがちょっとしたハイキングのようでまた面白い。

「空の駅」で体感する日本海のパノラマと「東洋一」の記憶 兵庫県・餘部駅

餘部駅からふもとへと続く小道から見た、餘部の集落と日本海。同じ方向に黒い瓦屋根が並ぶさまは壮観だ

専用の細い山道をひたすら歩くこと10分。途中で何度もすれ違う人と会釈しながら、ようやく鉄橋の足元に到着した。かつて集落を抜ける細い小道だった場所は、公園として整備されていた(訪問した翌年の2017年秋にはなんと、公園と「空の駅」を結ぶガラス張りのエレベーターが登場。片道わずか40秒ほどで行き来できるようになった)。

「空の駅」で体感する日本海のパノラマと「東洋一」の記憶 兵庫県・餘部駅

余部橋梁の下に整備された公園。一部残された赤い旧橋脚がかつての「東洋一の鉄橋」を今に伝える

そして、公園の先にあったのは、以前はなかった「道の駅 あまるべ」。ここに車を止めて「空の駅」を見学する人も多いようだ。

道の駅には、レストランや土産物屋のほか、余部橋梁に関連した展示コーナーもある。外には、地元の子どもたちが描いた余部橋梁の絵がずらり。「歴史ある余部橋梁をこれからも残していきたい」。そんな人々の思いが伝わってきた気がした。

「空の駅」で体感する日本海のパノラマと「東洋一」の記憶 兵庫県・餘部駅

絵のテーマは、わたしたちのふるさと「あまるべ」。新旧の余部橋梁を描いたものがいくつもあった(2017年6月撮影)

餘部駅とその駅前にはもう、誰もいなくて静かな、いわゆる無人駅の風情はほとんどない。しかし、100年以上の歴史を誇る鉄道遺産が大切に守られ、観光資源となり、今や多くの人を集めている。

海の見える無人駅は、利用客の減少などによって、少しずつ、そして静かに減りつつある。そうした中、活気あふれる餘部駅の存在は、私にとってひとつの希望に思えた。

コウノトリ但馬空港から空港連絡バスでJR豊岡駅まで約15分、JR豊岡駅から山陰線で約1時間。

JR西日本(JRおでかけネット)
https://www.jr-odekake.net/eki/timetable?id=0630737

>> 連載一覧へ

BOOK

「空の駅」で体感する日本海のパノラマと「東洋一」の記憶 兵庫県・餘部駅
海の見える駅
海の見える駅を巡る村松拓さんの旅をまとめたガイドブックです。これまでに訪問した約300駅の中から70カ所を選び、駅の写真、簡単な説明とともに紹介しています。
雷鳥社
定価:1500円(税別)

PROFILE

村松拓

アマチュア写真家
1991年1月生まれ。川崎市出身。
2004年の夏休み、初めての一人旅で見た常磐線の車窓が忘れられず、2005年に末続駅(福島県いわき市)を訪問。それから海の見える駅の旅を始め、これまでに約300駅を取材。2006年にWebサイト「海の見える駅」を開設。現在は東京・新橋で会社員として働く傍ら、余暇で旅を続ける。著書に『海の見える駅』(雷鳥社・2017年)。

オホーツク海の冬の便り、流氷が見える 北海道・北浜駅

一覧へ戻る

RECOMMENDおすすめの記事