(98) 暗闇に浮かぶ秘密基地? 永瀬正敏が撮ったイラン
文: 永瀬正敏
国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は、本連載初登場となるイラン。一見、どこの国にもありそうな売店ですが、永瀬さんは格別の思いを持って見つめていたのです。

©Masatoshi Nagase
海外に行くと必ず立ち寄る場所の中に、地元の小さなマーケットやニューススタンドがある。
前回も小さな店で働く人のことを書いたが、
僕はこういう旅先で出合う地元の小さな店がとても好きだ。そこで働く人々も。
普段見慣れないその国の言葉で表記された品物や雑誌、新聞などを見ているだけで、
長い距離を旅してきたことを実感する。
こんなものまで売っているのか、こういうのが売っているのは面白いな、
この国ではこの商品はこんなパッケージなんだと、色々発見があるのも楽しい。
「これは何ですか?」と質問して店員さんが一生懸命説明してくれても、
大概その国の言葉が理解できず、
それでもせっかく説明してくれようとしたんだから、と買ってしまったりして。
結局は使えなかったり、自分には合わない味のものだったりして反省するのだが、
それも旅の良き思い出。
毎日のように通うようになると、
言葉を超えたコミュニケーションが取れるようになったりする。
店員さんが覚えてくれて、「今日も来たな!」的な顔で出迎えてくれる。
異国の地でこういう出会いができるのは、僕はとても貴重な気がする。
旅を終える時、その笑顔に会えなくなると思うと寂しさを覚えるものだ。
ここはイランにうかがった時、宿泊していたホテルのすぐそばにあった店。
ここにも毎日のように通った。
夜になると、まるで暗闇の中に浮かび上がった秘密基地のようになる雰囲気も好きだった。
1枚の写真に今回の出会いと全てが写り込むように願いを込めて、僕はシャッターを切った。
バックナンバー
- “生”を感じる瞬間の美しさ 永瀬正敏が撮ったトルコ
- 人間の可能性と歴史に脱帽 永瀬正敏が撮ったトルコ
- カメラがとらえた二つの物語 永瀬正敏が撮ったトルコ
- 市場の写真とキャンディーズ 永瀬正敏が撮ったカタール
- ラクダは嵐の前の静けさ? 永瀬正敏が撮ったカタール