あの街の素顔

ワカサギ釣りと監獄定食 冬の道東(下) 網走

2019年の2月初頭に体験した、北海道のオホーツク海沿岸への旅。紋別の流氷クルーズやサロマ湖産のカキを堪能した前回に続き、今回は網走の旅を振り返ります。
(文・写真 太田瑞穂、トップ写真は「監獄定食」。情報や価格は取材当時のものです)

釣ってすぐ食べられる網走湖のワカサギ

サロマ湖をオホーツク海に沿って東へ走ると、海岸沿いに能取湖(のとろこ)があり、続いて網走湖にたどりつく。網走湖はすでに厚い氷に覆われていて、ワカサギ釣りシーズンの真っ盛り。真っ白な湖面には色とりどりのテントが並び、釣り人たちが氷上に開けた穴にじっと見入っていた。

ワカサギ釣りと監獄定食 冬の道東(下) 網走

真っ白な湖面に色とりどりのテントや椅子が並ぶ網走湖

湖の入り口で遊漁料を支払い、必要な器具はすべてレンタル。厚さが45センチもある氷に大きなドリルで穴を開けてもらえば、あとは虫エサのついた釣り糸を垂らして、ピクリ、とアタリが来るのをひたすら待つのみ。ワカサギは群れで回遊しているため、一度釣れ出すと、その周りでたくさん釣れるそうで、近くで「釣れた!」と声があがれば、こちらもそろそろ、と竿(さお)を持つ手に力が入る。

ワカサギ釣りと監獄定食 冬の道東(下) 網走

分厚い氷にドリルで穴を開けてもらい、ワカサギ釣りがスタート

日なたぼっこをしながら釣ること1時間半で、釣果は13匹。暗く小さな穴から少しずつその姿を現すワカサギは、透き通った体が太陽に照らされてキラキラと光り、はかなく可憐(かれん)だ。水温が気温よりも高いためか、釣り針から外す時に触れるワカサギは、しっとりと生温かく感じた。

しばらくすると、穏やかだった湖上に急に強い風が吹き出し、細かい雪の粒が容赦なく吹き付けてきた。テントや椅子が、今にも吹き飛ばされそうだ。「釣れる時は、袋いっぱい釣れるよ」と聞いていたので、もう少し粘りたいところだったが、仕方がない。早めに切り上げた。

ワカサギ釣りと監獄定食 冬の道東(下) 網走

釣れたワカサギは、すぐに天ぷらにして食べることができる

網走湖では、釣り道具のほか、鍋や油などをレンタルできる「天ぷらセット」があり、自分で釣った魚を調理することができる。ワカサギに軽く衣をつけて揚げると、油の中で勢いよく跳びはねた。釣り上げた時の可憐な姿が思い出されて胸が痛んだが、サクッとした食感とふかふかの身はこの上なくおいしく、頭からしっぽまでありがたくいただいた。

北海道と刑務所の歴史を伝える「博物館 網走監獄」

さて、網走で忘れてはならないのは、一にも二にも刑務所だろう。もともと未開の原生林だったこのエリアを開拓したのは、ほかでもない、網走に送られてきた囚人たちだったからだ。明治期に建てられた建物の多くは近くに移築され、かつての名称を冠した「博物館 網走監獄」として公開されている。敷地内の資料館の常設展示も充実しており、北海道の歴史や刑務所のあり方について考えさせられる。

ワカサギ釣りと監獄定食 冬の道東(下) 網走

「博物館 網走監獄」にて。雪の上を歩く音が冷たく響く

かつて網走監獄では、真冬は-20℃を下回る厳しい環境下で囚人に野外労働が課され、多くが命を落としたことで有名だ。一方で、明治後期に建てられた監獄施設の多くは驚くほどモダンで美しく、重要文化財などに指定されているものもある。

ワカサギ釣りと監獄定食 冬の道東(下) 網走

囚人たちが収監されていた舎房は、廊下に置かれたストーブで暖められていたが、それでも房内が氷点下となる日は少なくなかったという

訪れた日の気温は-8℃。以前、初夏に訪れた際は、敷地内の緑になんとも爽やかな印象を受けたが、真冬はさすがに寒さが身にしみる。踏み固められた雪の上を歩くたびに、ジャッジャッと冷たい音が響き、囚人が収監されていた舎房の中では、屋内とはいえ吐く息が白い。内部には、当時の様子を再現する等身大のマネキンなどがあちこちに展示されているため、なかなかリアルだ。

ワカサギ釣りと監獄定食 冬の道東(下) 網走

房内での食事風景も展示されている。ご飯とみそ汁、漬物、とかなり質素だ

食べるものは監獄の敷地内で自給自足してまかなっていた。野菜をはじめ、みそや漬物も作っており、実際に使われていた巨大な木樽(きだる)なども展示されている。網走刑務所は今でも国内最大級の「農園刑務所」で、収穫物は他の刑務所にも供給されているそうだ。

ワカサギ釣りと監獄定食 冬の道東(下) 網走

博物館入り口手前の監獄食堂では、現在、網走刑務所で出されている食事を再現した「監獄定食」を食べることができる。監獄時代の食事と比較すると、ボリューム、内容ともにかなり豪華である

老舗「珈琲屋デリカップ」で過ごす落ち着いた時

最後に、網走で個人的に外せないのは、老舗カフェの「珈琲(コーヒー)屋デリカップ」。流氷に憧れて網走を訪れるうちに移り住んだという菊地荘一さんが始め、店先で焙煎(ばいせん)した豆で淹(い)れたコーヒーを楽しめるお店だ。残念ながら菊地さんは2019年12月に亡くなられたが、現在は長年お店を一緒に経営していた浅井麗子さんが引き継いでいる。また、私の訪れた当時のお店も2020年6月に火災に遭って焼失してしまったという。

ワカサギ釣りと監獄定食 冬の道東(下) 網走

火災前の珈琲屋デリカップ。内装はすべて、オーナーだった菊地さんと友人たちの手作りだった

かつての店はヨット乗りだった菊地さんらしく、全て手作りの内装はどこか船の中にいるようなデザインで、年を重ねてつやの出たテーブルやカウンター、レトロなアンティークが並ぶ店内は、まさに別世界だった。

現在は新しい場所で、無事だったという焙煎機で焙煎したコーヒー豆を販売しており、春先からカフェを再開するという。火災によりススをかぶった家具や壁板も使えるものは全て元の姿に磨き上げ、前のお店の雰囲気をできる限り感じられるようにしているそうだ。浅井さんによる新たなデリカップの船出もまた、網走での楽しみの一つに加わった。

ワカサギ釣りと監獄定食 冬の道東(下) 網走

以前の店でいただいたデリカップコーヒー(400円)とエッグサンド(450円)は、ほっとするおいしさだった。春先から再開するカフェでも、メニューはほぼ変わらずとのこと

コロナ禍で訪れるのが難しい今冬は、読み応えのある網走監獄のサイトや、ライブカメラを通じて網走の風景を楽しんでみてはいかがだろうか。そして、安全に移動できる日を待って、ぜひ一度訪れてみてほしい。

ワカサギ釣りと監獄定食 冬の道東(下) 網走

網走滞在中にお世話になった宿「ファームイン・アニマの里」のオーナー、永田朗さん、好恵さん夫妻。30年ほど前に移住し、網走の移り変わりを見てきた2人のおもてなしと地元話は格別だ。道産子馬と羊を飼っているので、動物好きや家族連れにもお勧め

【旅の情報】
網走までは、女満別空港からレンタカーかバスで30分ほど。冬場は道路が凍るので、運転する場合は十分注意を。

■網走湖のワカサギ釣り
https://www.abakanko.jp/news/event/wakasagi.html

釣り具セットのレンタル(遊漁料込み)大人1800円、天ぷらセット1000円
8:30~16:00(3月21日まで開催予定)

■博物館 網走監獄
https://www.kangoku.jp/index.html
入館料:大人1100円
開館時間:9:00~17:00(8月11日~16日のみ18時まで)

PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、江澤香織、高松平藏、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 太田瑞穂

    ライター、翻訳&通訳。旅先でその土地の日常的な暮らしやそこに根付く文化を少しだけ体験するのが好き。

流氷を求めオホーツク海沿岸へ 冬の道東(上) 紋別~サロマ湖

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ポップごと本が買える老舗 ハンモックのある市営書店 八戸の旅(上)

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