秘祭「ウヤガン」、奇岩、伝説…神が宿る島の記憶 沖縄・大神島
文: 古関千恵子

宮古島の北東約4キロに浮かぶ、美しい三角形の形をした大神島(おおがみじま=沖縄県宮古島市)。昔から「神様が住む島」として神聖視され、誰も見てはならない神祭行事や入ってはならない聖域があるなど、神秘のベールに包まれています。(トップ写真:池間島から見た大神島。美しい三角形をしています)
「おじいの観光ガイド」で節度を守って入島
もちろん外部からの来島を拒否しているわけではありません。けれど島が大切に守ってきた伝統やルールが数多くあり、むやみに行動してそれを破ってしまったら大変。そのため「大神島のおじいの観光ガイド」に昨秋申し込み、案内してもらいました。
宮古島周辺の有人島は橋で結ばれていますが、この島は船で渡ります。宮古島北部の島尻港から約15分。大神漁港で出迎えてくれたガイドは「おじい」ではなく、島いちばんの若者(とはいえ50代)のガイドさん。

案内をしていただいたガイドさん。周囲3キロの島ですが、一周道路はありません。移動は電動カート
拝所「島守る神の岩」を訪ねる 家々の門には水難よけの貝
まずは港の一画にある拝所「島まもりの神様の岩」にあいさつします。旅の安全を祈る場所であり、竜宮の神様をお迎えする場所だそう。この島では石に神様が宿るとされ、石を動かす、あるいは砕く日は、「おばあが決める」そうです。

最初にお参りする「島まもりの神様の岩」。島の岩には神様が宿るとされます
島の交通手段である電動カートに乗り、出発です。
周囲約3キロの島に、現在人口は20人ほど、猫は人口を上回る60数匹。人口が多い時で240人余り暮らしていたそうですが、60年前に神事に関わる人を残して、宮古島へ移住したそう。水道・電気が通ったのは48年前。今は半農半漁、ほぼ自給自足で暮らしているといいます。

島の中央に位置する集落の坂道
島の中央にそびえる遠見台に向かう途中、集落を通り抜けます。各家の門の両サイドにはシーサーのように、見慣れぬ貝が置かれていました。スイジ貝とよばれる角が飛び出した貝で、漢字の「水」のような形をしているところから「水字貝」と書くそう。この島では水難から守ってくれる魔よけの役割を担っています。

魔よけのスイジ貝が門に埋め込まれています
3~5日間、秘儀が続く神事「ウヤガン」の森
集落を抜けたところで、電動カートを降りて、山道を登ります。畑の脇道の先に続く森を指さし、この奥で年5回、3~5日ずつ、最も重要な「ウヤガン」の神事が行われるとのこと。ウヤガンと呼ばれる巫者(ふしゃ)のような女性がこもり、飲まず食わずで秘儀が続けられるそう。
ウヤガンは初日、普段着で森にこもり、世話をする「トモウマ」が儀式のための装束を届ける。3~4日目の様子はウヤガン本人しか知る由もないけれど、島のあちこちで彼女たちの唱える声が響いているそう。その間、その姿を見てはならないとされ、もし里人に出会った場合、ウヤガンは「ウルウルウル」と声をあげて警告するそうです。ウヤガンはかつて11名いたそうですが、現在は84歳の女性ひとり。この神事がいつ行われるかは、数日前に知らされるそう。
私がたまたま島唯一の「おぷゆう食堂」で昼食をとっていると、おばあさんが話しかけてきてくれました。「明後日、神様がやってくる。5日間山に入るから、山に登れなくなるよ」

「おぷゆう食堂」の燻製(くんせい)にしたタコをのせた名物「カーキたこ丼」(1000円)
山に入れなくなると、島の最高地点「遠見台」にも登れなくなってしまいます。神事に重ならずによかった。それにしてもあのおばあさんは、不思議な雰囲気のある方でした。
海賊の宝、略奪の悲劇……島にまつわる伝説
大神島を訪れる前、いろんなウワサを聞いていました。中でも有名なのは、キャプテンキッドの宝が隠されているという話。それは根も葉もないことのようですが、もっと衝撃的な伝説がこの島には残されていました。
300年前、海賊たちが略奪に大神島にやってきました。島民は身を隠していましたが、兄妹2人が逃げ遅れてしまったのです。みんなの隠れている洞窟へ向かう2人の後を、海賊はつけていき、見つかってしまった島民すべてを殺してしまいました。逃げ延びた兄妹がやがて夫婦になり、その子孫が大神島の島民とのこと。その大神島の本家とも呼べる家は今も残り、ウヤガンの神事の始まりはこの家から出発するそうです。
美しくも、異界思わせる奇岩「ノッチ」転がる浜
神秘の島、大神島には美しい自然がたっぷりと、それこそ、手つかずで残されています。
178段の階段を上る遠見台からは周囲の島々を一望することができます。広大なサンゴ礁のヤビシ(八重干瀬)、伊良部島、伊良部大橋、池間島、ぐるりと360度見回せます。

遠見台から見渡した周囲の海。晴れていたら、さぞや絶景なはず!
大神島の周囲の海には、不思議な形をした岩が点在しています。なかでも北部にある「ノッチ」(奇岩)は、波や潮位で浸食され、水面部分がくびれたキノコ状の岩が点在しています。これは島が隆起した際に転がり落ちた巨岩とのこと。
見たこともない形の巨岩がごろごろと転がっている風景は、異世界のよう。宮古島に隣接する伊良部島にも巨岩がごろごろした「佐和田の浜」があり、「日本の渚(なぎさ)100選」(日本の森・滝・渚全国協議会)に選ばれていますが、また風情が異なる絶景です。

隆起した際にこぼれ落ちた巨岩との説がある「ノッチ」
訪れた日は強風に荒波、そして雨。それでも、晴れた日の美しさが想像できるポテンシャルを感じます。島の人いわく、「どこよりもキレイな海だと思う」。その言葉を体感しに、再訪したいです。

晴れていたら、さぞやブルーのグラデーションが美しい海が広がることでしょう。再訪せねば!
【取材協力】
大神島のおじいの観光ガイド
TEL0980-72-5350(9:00~18:00)