海の見える駅 徒歩0分の絶景

震災を越えて、愛され続ける木造駅舎 福島県・末続駅

福島県では唯一、海沿いを走る鉄道路線のJR常磐線。いわき市にある無人駅の末続(すえつぎ)駅は、中でも特に海が近い駅だ。

■連載「海の見える駅 徒歩0分の絶景」は、アマチュア写真家の村松拓さんが、海のそばにある駅で撮った写真を紹介しながら、そこで出会ったこと、感じたことをつづります。

津波で一変した「原風景」

2017年4月下旬、文句なしの快晴。銀色の電車から降り立つやいなや、初夏のような日差しが降り注いでいた。陽炎(かげろう)が揺れるホームに、人の姿は見えない。

遠くから聞こえる波音に誘われて振り向く。川が流れる谷の向こうに、澄んだ太平洋と雲のない青空が見えた。

震災を越えて、愛され続ける木造駅舎 福島県・末続駅

この日の太平洋は、波も穏やかだった(2017年4月撮影)

しかし、その手前に広がる情景を見て、肩を落とした。異様な存在感を放つ真新しい防潮堤と、茶色い更地。2011年の震災で、眼下の谷にも津波が押し寄せていたのだ。

私はこれまでに日本全国300駅以上の「海の見える駅」を巡ってきたが、初めて訪れたのが、この末続駅だ。

当時は震災前の2005年。防潮堤も低く、周りには田んぼが広がり、民家もたくさん見えた。海と山の自然、家々と駅という人の暮らしが、ひとつの視界の中でほどよく調和していた。川崎市で生まれ育ち、まだ14歳だった私にとって、その情景はまさに理想的なふるさとだった。

震災を越えて、愛され続ける木造駅舎 福島県・末続駅

2005年の末続駅。初めて訪れたのに、なぜか懐かしく思えた(2005年7月撮影)

こんな景色にもっと出会いたい、と思い立ってから15年以上が経ち、今に至る。

私の「原風景」とも呼べる景色は、4回目の訪問となったこの時、大きく変わり果ててしまっていた。海と空の清々(すがすが)しい青色を見つめながら、深くため息をついた。

震災を越えて、愛され続ける木造駅舎 福島県・末続駅

2006年に写した、末続駅から海へと向かう道からの眺め。吹き抜ける潮風が稲を揺らす様子が、心に残る(2006年8月撮影)


震災を越えて、愛され続ける木造駅舎 福島県・末続駅

上の写真とほぼ同じ場所から。震災後、かつての田んぼは更地に。防潮堤も高くなり、海はずいぶん隠れてしまった(2017年4月撮影)

地元の人々が造り、残し続ける木造駅舎

ただ、変わらずに残る景色もあった。

そのひとつが、末続駅そのものだ。標高およそ16メートルの高台にある末続駅は、幸いにも津波の直撃を免れていた。

ホームから出口のある駅舎へと向かうと、プランターに並んだ色とりどりの花が出迎えてくれた。1947(昭和22)年の開業当時からの木造駅舎は、築70年の風格をたたえていた。2005年に初めて末続駅を訪れたときにも出会った、心温まる情景。思わず安堵(あんど)した。

震災を越えて、愛され続ける木造駅舎 福島県・末続駅

きれいに並んだ花々。近くの斜面には、ツツジやアジサイも植えられていた(2017年4月撮影)

駅舎の中も、相変わらず手入れがされていて、ゴミがほとんど落ちていない。

目線を上げた先には、かつてのきっぷ売り場と掲示板。そこには、地元の人が詠んだであろう俳句に、誰かが置いた「駅ノート」(訪れた誰もが記せる雑記帳)。それに、末続駅の数々の写真たち。以前にも増して、多くのものが飾られていた。

よく見ると、中には「末続駅開業70周年イベント」と書かれたボードもある。2016年に地元の人々やボランティア、JRの職員ら総勢100名以上が、駅舎の清掃や塗装をしたのだそう。

近くには、70年以上前の、駅舎を建設しているときの写真。末続駅は戦後間もなく地域住民が、陳情をし、建設にも携わったすえに開業を迎えた。写っている大勢の人も、きっと地元の方々なのだろう。

震災を越えて、愛され続ける木造駅舎 福島県・末続駅

かつてのきっぷ売り場と掲示板。写真に愛を感じる。何度訪れても、駅舎の中はきれいだ(2017年4月撮影)

開業からおよそ70年。末続駅は未曽有の震災を越えて、たしかに愛され続け、往時の面影を伝えていた。

抗えない変化がある一方で、自分たちの手で残せるものがある。

末続駅にそう教えてもらったことが、この旅いちばんの収穫だ。

震災を越えて、愛され続ける木造駅舎 福島県・末続駅

塗り替えられたばかりの木造駅舎は、今まで見たこともないくらい、まぶしかった(2017年4月撮影)

JR上野駅から特急「ひたち」で約2時間15分、JRいわき駅から常磐線で約17分。

JR東日本
https://www.jreast.co.jp/estation/stations/893.html

BOOK

震災を越えて、愛され続ける木造駅舎 福島県・末続駅
海の見える駅
海の見える駅を巡る村松拓さんの旅をまとめたガイドブックです。これまでに訪問した約300駅の中から70カ所を選び、駅の写真、簡単な説明とともに紹介しています。
雷鳥社
定価:1500円(税別)

PROFILE

村松拓

アマチュア写真家
1991年1月生まれ。川崎市出身。
2004年の夏休み、初めての一人旅で見た常磐線の車窓が忘れられず、2005年に末続駅(福島県いわき市)を訪問。それから海の見える駅の旅を始め、これまでに約300駅を取材。2006年にWebサイト「海の見える駅」を開設。現在は東京・新橋で会社員として働く傍ら、余暇で旅を続ける。著書に『海の見える駅』(雷鳥社・2017年)。

「空の駅」で体感する日本海のパノラマと「東洋一」の記憶 兵庫県・餘部駅

一覧へ戻る

視界を埋め尽くす桜と海のコラボ 石川県・能登鹿島駅

RECOMMENDおすすめの記事