あの街の素顔

カニ尽くしと外湯めぐり 城崎温泉で文豪気分

春本番。すいぶん暖かくなりました。出会いと別れの時期である春は旅の季節でもあります。大阪、兵庫や私の住む福岡などに出されていた緊急事態宣言が解除されたので、久しぶりに旅に出ました。もちろん新型コロナウイルス感染対策を徹底して、です。目的地は、志賀直哉の小説「城の崎にて」で知られる兵庫県豊岡市の城崎温泉。小説の舞台となった温泉街を散策して情緒に浸ったり、カニを食べたり、コウノトリを観察したり、絶景を見たりと、楽しさがてんこ盛りの旅になりました。日本海沿いの温泉地の春旅にみなさんをご案内しましょう。
(文・写真、宮﨑健二)

神戸を出発、特急「こうのとり」で北上

前夜、神戸市でサッカー・Jリーグの試合を観戦した私は、午前9時前にJR三ノ宮駅を出発。尼崎で「特急こうのとり3号」に乗り込みました。

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特急こうのとり3号。城崎温泉に向かって北上します

約2時間半で城崎温泉駅に到着。駅前にはカニのオブジェがありました。


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城崎温泉駅。カニのオブジェが出迎えてくれました

城崎温泉観光センターで電動アシスト付き自転車を借りて、駅前から続く通りを見て回りました。土産物店や飲食店が軒を並べていて、3階建ての木造の古風な建物が目立ちます。

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駅前から続く通り。カフェなどもあります

川べりの風情ある旅館街

上の写真の通りの先を左折すると、大谿川(おおたにがわ)が流れていて、川の両側に通りが続いていました。柳の枝が川面(かわも)に向かって垂れていて、石橋や街灯にも風情があります。このあたりは旅館街で、観光に来た人たちは思い思いの時間を過ごしていました。

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川沿いの北柳通り。散策が楽しめます


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川には石橋がかかっています

橋の下を見ると、ニシキゴイが泳いでいました。大きいですね。

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橋の下にはニシキゴイの優美な姿が

旅館街の奥まで行くと、城崎温泉ロープウェイの駅がありました。ここから大師山(だいしやま)の山頂を目ざします。


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城崎温泉ロープウェイ。大人料金は山頂駅までの往復で税込み910円です

山頂駅からは温泉街が見えました。規模の大きな温泉街であることをあらためて実感します。春の陽光が降り注ぐのどかな景色です。

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山頂駅からの眺め。温泉街の後方に見えるのは円山川(まるやまがわ)、さらにその後方には日本海が見えました

刺し身、雑炊 昼食はカニ尽くし

ふもとに降りた私は、昼食をとることにしました。当然、カニです。

私は約40年前に家族で城崎温泉に来たことがあります。覚えているのはカニ刺しがものすごくおいしかったこと。そのほかは……あれ、何も覚えていません。みなさんはシャワーヘッド「ミラブルプラス」のCMをご存じでしょうか。顔に吹き付けたシャワーがほっぺに塗った油性ペンの汚れを簡単に落としてしまう、という映像です。私の場合、頭の中でどうやらミラブルプラスが機能したようで、カニ刺し以外の記憶はすっかり流れ落ちてしまったのでした。

その唯一の記憶、カニを味わうべく海産物の店をのぞくと、カニがずらり。

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並べられたカニ。おいしそうです

2階の食堂に行き、まずカニ刺しを注文しました。

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身がプリプリのカニ刺し。税抜き3000円でした

マツバガニのようです。身の表面はざらざらしていますが、中はつるりとした感触。新鮮だからこそ味わえる刺し身です。幸せだあ!

これだけではおなかが膨らまないので、カニ雑炊を食べました。

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税抜き1880円のカニ雑炊。ふうふう息を吹きかけてさましながら食べました

ほぐされたカニの身と玉子、ご飯のコンビネーションが抜群です。んま! おかげで、自転車を走らせて冷え切っていた体が一気に温まりました。

コウノトリに会いたい! ハチゴロウの戸島湿地

満腹になったので、腹ごなしに再び自転車をこぎ始めました。目ざしたのは円山川沿いにある「ハチゴロウの戸島湿地」です。ここで、国の特別天然記念物コウノトリを見ることができるかもしれないのです。

城崎温泉のある豊岡市は、コウノトリ野生復帰事業の中心地として知られています。実は駅前のカニのオブジェの隣には、コウノトリの像がありました。

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コウノトリの像。実物を見たいものです

コウノトリはかつて日本各地で見ることができました。しかし、乱獲や、営巣のための自然環境、餌場がなくなったことなどが原因で国内の野生コウノトリは1971年に絶滅してしまいました。その後、人工繁殖が試みられて、2005年からは野外放鳥が始まりました。以来、コウノトリを自然環境の下で繁殖させる取り組みが続けられています。

「ハチゴロウの戸島湿地」には観察棟がありました。中に入り、横長の窓から息をひそめて湿地を観察していると、往年のアメリカのテレビ番組「コンバット!」によく出てきた要塞(ようさい)の中にいるような気分に。私はドイツ軍の動きを見張るサンダース軍曹のように双眼鏡を構えました。前夜、ノエビアスタジアム神戸でひいきチームの勝利を見届けた双眼鏡がここで役に立つとは。持つべきものは友、そして双眼鏡です。

しばらくすると、おおっ、はるかかなたに大きな羽を広げて優雅に舞う鳥の姿が見えました。

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ハチゴロウの戸島湿地。鳥が見えたので、写真を撮りました

これって、コウノトリなのでしょうか。それとも別の鳥か……。大きく写すことができなかったので、判断できませんでした。

約30分後に観察棟を出ると、男女のカップルと女性3人組が道端に立ち止まって上空を見上げています。あれま、コウノトリが真上を飛んでいるではありませんか。こんなことなら外にいればよかった……と一瞬思いましたが、湿地の脇に建てられた掲示板にあった注意書きを思い出しました。コウノトリは警戒心が強いので、じっと見たり、カメラを向けたりするのは好ましくないとのことです。コウノトリとふるさとは遠きにありて思ふもの。コウノトリの姿は心のシャッターを押して目に焼き付けることにとどめて、その場を立ち去りました。

柱状節理にびっくり 玄武洞公園

さらに、自転車を川沿いに15分ほど走らせました。着いたのは景勝地、玄武洞公園です。

ここには、五つの洞窟があり、火山活動で流れ出たマグマが冷えて固まる際に規則正しい形となった柱状節理を見ることができます。まずは玄武洞を見学。

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玄武洞。公園内でもっとも大きな洞窟です

でかい! 圧巻の眺めです。隣にあったのは青龍洞です。

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青龍洞。五つの洞窟は見学無料です

岩の形状が天に昇っていく龍のうろこのようにも見えます。玄武洞と青龍洞はともに国の天然記念物になっています。

浴衣姿が大勢! 温泉街で外湯めぐり

温泉街に戻ると、日が傾いてきました。城崎温泉には七つの外湯(共同浴場)があり、外湯めぐりができます。

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外湯の一つ、柳湯

各外湯の大人入場料は税込み700円と800円の2種類。七つの外湯すべてを利用できる1日券「ゆめぱ」は大人税込み1300円です。旅館の宿泊客らが夕食までの間に浴衣で外湯めぐりをする姿が目立ち、温泉街は一気ににぎやかになってきました。カランコロンという下駄(げた)の音があちらこちらから聞こえてきます。

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一の湯。外湯めぐりには個性的な建物を見て歩く楽しみもあります

夕食もカニ、すし店へ 夜にこける?

温泉につかって満足、満足。旅の疲れをいやした後は夕食です。私は迷わず、すし店ののれんをくぐりました。頼んだのは、カニちらしです。

昼にもカニを食べたというのに、またもカニ。私はなぜこんなにもカニが好きなのでしょうか。パナソニックのジアイーノのCMのように、私は「なぜいーの?」と自分に問いかけてみたのです。

答えはすぐに出ました。実は星座がかに座。生まれた時から赤い糸で結ばれているわけです。そういえば、子供の頃はかけっこよりも反復横跳びのほうが好きでした。「めざましテレビ」の「めざましじゃんけん」に挑戦する時は、チョキしか出しません。そして、ふだんから無口です。カニを食べている時のように。

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カニちらし。税込み1500円でした

ちらしずしもいいものですね。ビールを飲みながら、わしわしと口にかきこみました。

店を出ると、街はすっかり闇の中。私は足元が見えずにつまずいてしまいました。YOASOBIのヒット曲は「夜に駆ける」ですが、私の場合は「夜にこける」。街灯が川と道、柳の枝をほんのりと照らし出して幻想的な景色を作り出していました。

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大谿川沿いの夜景

静かな朝の温泉街 志賀直哉の文学碑に……

翌日、旅の最後に温泉街の朝の表情を見て歩きました。脇道や路地に入って行くと、昨日見たにぎやかさとは違う、静かな光景がありました。

昔懐かしい井戸と手押しポンプを発見。地元の人が使っているようです。

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井戸と手押しポンプ。温泉地の人々の暮らしが垣間見えるようです

城崎温泉ゆかりの作家たちについて展示している城崎文芸館に行くと、志賀直哉の文学碑がありました。


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志賀直哉の文学碑

敷地内に咲いていたのは、ツバキの花です。

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ツバキの花。鮮やかな赤色でした

「城の崎にて」にふれた文学碑を見てすっかり文豪気分になった私は、小説を思いつきました。さっそく心の中の原稿用紙に小説の冒頭をこうしたためたのです。

「ツバキの花が咲いていた。木の先にて」

■きのさき温泉観光協会
https://kinosaki-spa.gr.jp

■城崎温泉ロープウェイ
https://www.kinosaki-ropeway.jp

■ハチゴロウの戸島湿地
http://www.hachigorou.com/

■城崎文芸館
http://kinobun.jp/

PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、江澤香織、高松平藏、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 宮﨑健二

    旅ライター。1958年、福岡市生まれ。新聞社を退社後、主に九州の旅とアウエーでのサッカー観戦を楽しみに過ごす。共著書に「失われゆく仕事の図鑑」(グラフィック社)。

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