クリックディープ旅

おいしく食べるコツがある? 家でつくるアジア旅の味・マカロニスープ編

世界各地を旅してきた旅行作家・下川裕治さんが、アジアの旅先で味わったものを自宅で再現するシリーズ。下川さん、写真家の阿部稔哉さん、中田浩資さんの3人それぞれが試行錯誤します。今回は香港のマカロニスープ。下川さんと阿部さんが味を思い出しながらつくります。シンプルな見た目でも、味を近づけるには苦労があったようです。

■本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと、相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。

(写真:阿部稔哉)

家でつくるアジア旅の味・マカロニスープ編

旅には忘れられない味がある。それは必ずしも納得の味というわけでもないときがある。このまずさはなんなのだ。箸やスプーンを手にしながら思い悩む。アジアの人たちが料理の味をおろそかにするとは思えない。日本人があきれるほどの食いしん坊もいる。おそらく味覚の概念が違う。その味も消えないものとして残っている。

そんな味を家で再現できないだろうか。コロナ禍で海外に出ることが難しい。そんないま、旅の味をつくろうと試みた。つくることが無理そうなものは、ネットを頼りにとり寄せてみた。はたして家の台所で旅の味は再現できたのか。

第2回は香港やマカオのマカロニスープ。人気の朝食である。しかし僕らの舌にはどうしようもなく物足りない。まずいのだ。まずい料理をつくるという難関に挑む。

長編動画

香港流のマカロニスープをつくってみた。味を薄め、頼りないものをめざさなくてはならない。その試行錯誤を。ラストには試食風景。どうしたらマカロニスープがおいしくなるか。意識を変えて食べています。

香港やマカオの世界、そして再現の様子 「旅のフォト物語」

Scene01
夜景

1997年にイギリスから中国に返還された香港──。「一国二制度」を標榜(ひょうぼう)してきたが、ここ6、7年で大きな変節を迎えた。香港に根づき、香港を発展させてきた自由。今回は僕が香港の自由を学んだ茶餐廳(チャーチャンテーン)と呼ばれる大衆食堂の世界へ入り込み、その料理を再現してみる。その前に香港を代表する風景をもうひとつ。

Scene02
フェリー

香港島と九龍半島を結ぶスターフェリー。香港を代表するフェリーだ。僕は香港に着くと、まずこのフェリーに乗り、香港島のビルや停泊する船を眺める。儀式のようになっている。もともと経営は苦しかったが、民主化デモの混乱やコロナ禍の影響を受けて、今年の2月に少し値上げされた。

Scene03
茶餐廳

ここが茶餐廳。香港の大衆食堂。ファミレスの役割も担っていてさまざまな店がある。僕が香港で泊まるのは、いつもチョンキンマンション(動画)のゲストハウス。そこからいちばん近い茶餐廳がここ。朝と夜は必ず。ときに昼も。メニュー数は多い。中華だけではなく、洋食もある。まずはそのメニューを次のSceneで。

Scene04
メニュー

茶餐廳の朝食セットメニューの一部。AからJまで10種。その下は追加メニュー。これをじっと見る。わかります? AからCまでトップで並ぶのが通粉(トンファン)、マカロニスープです。人気のほどがわかるはず。で、Aを注文。鮑片ですが、アワビのスライスです。本物? 安いアワビ? ここは茶餐廳です……。出てきた料理は次のSceneで。

Scene05
マカロニスープ

マカロニスープが出てきました。これが僕らを悩ませることに。まずいのです。というかすごい薄味。香港には絶品料理が山ほどある。それを香港の人たちは知っている。それなのに、マカロニスープは……。しかし朝、周りのテーブルを見ると、マカロニスープ派が何人も。これをおいしく食べるコツはScene15で。

Scene06
意粉

ある日の茶餐廳昼食。意粉(イーファン)を頼んでみた。スパゲティだ。出てきたのがこれ。スープスパゲティという料理はあるが、これ、違うでしょ? スパゲティそばです。こういうことを平気でやるのが香港の食の自由さ。欧米のスパゲティと中国のそばを一緒にしてしまう。こういう香港、好きなんです。

Scene07
トーストと鴛鴦茶

トーストの奥にあるのが鴛鴦茶(ユンヨンチャ)。日本流にいうと紅茶コーヒー。紅茶とコーヒーを混ぜてしまいました。これも香港人好みの自由な応用力が生んだ欧米と中国の融合系。紅茶だと思って飲むと紅茶、コーヒーだと意識して飲むとコーヒー。頭のなかが「やじろべえ」になったようで、ちょっと疲れる飲み物ですが。

Scene08
菠蘿包

これは茶餐廳のおまけ料理。朝食で人気の菠蘿包(ポーローパオ)、パイナップルパンです。どこがパイナップル? という疑問は、「日本のメロンパンのどこがメロン?」という質問と同じなので、茶餐廳では聞かないように。菠蘿包は最近、日本でも出す店があるとか。フォークでぶすりと刺して食べるのが香港流です。

Scene09
箸立て

茶餐廳は忙しい。回転の速さで勝負する世界でもある。日本人の僕らにもがんがん広東語の嵐が降りかかる。しかし店員の勘がいいのか、なぜかすぐにわかってくれる不思議。この店ではオーダーを箸立てに挟むスタイル。そこには漢字が書いてあるのだが、いつも、まったく読めませんでした。

<マカロニスープの再現料理のつくり方はここから>
Scene10
材料

材料はシンプル。マカロニ、スープのもと、塩、ハム。アワビのスライスは割愛というか、本物かどうか不明の食品。たぶん香港でしか手に入らない気がする。コーンは好みで。マカロニは多種あるが、こんな感じの少し湾曲した小さめのものを茶餐廳で使っていた。スープのもとは2種類を試した結果、クノールの固形チキンコンソメがよりあっさり味なので採用になった。

Scene11
鍋

超薄めのスープづくりに挑戦。加える水の量を徐々に増やしながら、そのつど、味の記憶に合わせていく。ポイントは、「おいしくなったらだめ」という1点。これが意外に難しい。適量の8倍に薄め、このときは、かなり近いと思ったが、完成したマカロニスープはやや薄すぎた。7倍ぐらいに薄めるのが適当か。

Scene12
塩

塩を少々。マカロニをゆでるときも塩を入れるので、控えめに。香港の麺類のスープは薄味傾向。「現地のコックに任せていると、どんどん薄味になってしまう」と日本式のラーメン店のご主人。マカロニスープも塩は少なめ。その理由もScene15の考察を読んでみてください。

Scene13
マカロニ

マカロニを普通にゆでるときより、塩薄めで。ゆでる時間は、アルデンテではなくなるまで。つまり芯がなくなるまで。このマカロニの袋に書かれていたゆで時間は8分。そこを10分までのばすと、香港のマカロニスープの歯ごたえのない感覚に近づいていきます。こんなにゆでていいの?という不安を無視する勇気が必要です。

Scene14
ハムとマカロニ

つくっておいたスープにハムと、ゆであがったマカロニを入れ、フニャフニャになるまでゆでる。合計で13分。ようやくスープに沈むマカロニの頼りない歯ごたえに近づいてきた。ちょっと試食。まずいから成功? ただ茶餐廳のマカロニスープの物足りなさとはなにかが違う。

Scene15
マカロニスープ

コーンを載せて完成。で、ここで頭を切り替える。これはマカロニスープではなくおかゆだ……と。と思うとまずくなくなる。薄い塩味もしっくり。そこで考察。香港人は欧米のマカロニを使っておかゆをつくってしまった。きっとマカロニを使ったほうが、簡単にできるのだろう。なんという応用。底抜けの自由。香港です。

※再現してみた日:2月11日

【次号予告】次回は中国の列車旅のお供、カップ麺とソーセージ、そしてウイグルパンを日本で再現。

◆家でつくるアジア旅の味 第1回・油条編はこちら

BOOK

おいしく食べるコツがある? 家でつくるアジア旅の味・マカロニスープ編

2019年に連載された台湾の秘境温泉の旅が本になりました。

台湾の秘湯迷走旅(双葉文庫)
温泉大国の台湾。日本人観光客にも人気が高い有名温泉のほか、地元の人でにぎわうローカル温泉、河原の野渓温泉、冷泉など種類も豊か。さらに超のつくような秘湯が谷底や山奥に隠れるようにある。著者は、水先案内人である台湾在住の温泉通と、日本から同行したカメラマンとともに、車で超秘湯をめざすことに。ところがそれは想像以上に過酷な温泉旅だった……。台湾の秘湯を巡る男三人の迷走旅、果たしてどうなるのか。体験紀行とともに、温泉案内「台湾百迷湯」収録。

PROFILE

  • 下川裕治

    1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日文庫)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)、「世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア大陸横断2万キロ」(朝日文庫)など。最新刊は、「台湾の秘湯迷走旅」(双葉文庫)。

  • 阿部稔哉

    1965年岩手県生まれ。「週刊朝日」嘱託カメラマンを経てフリーランス。旅、人物、料理、など雑誌、新聞、広告等で幅広く活動中。最近は自らの頭皮で育毛剤を臨床試験中。

朝食の定番揚げパンに挑戦 家でつくるアジア旅の味・油条編

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