あの街の素顔

「忍者市」ってどこ!? 伊賀牛に舌鼓 三重県・伊賀市を訪ねて

身を潜めて敵の動向を探り、忍術と独特の武器を駆使して戦う忍者。「NINJA」として日本が世界に誇るヒーローにもなっています。かくいう私も子供の頃に忍者に憧れた一人。そこで、今回は伊賀流忍者の発祥の地、三重県伊賀市を訪ねました。到着するやいなや私はいきなり忍者の世界に放りこまれました。まるで忍者色に染まったかのような街を見て歩くと、行く先々で何かが潜んでいる気配が充満。忍びの心を学び、伊賀牛というグルメも味わうことができました。では、拙者が忍者の里にみなさんを案内するでござる。
(文・写真 宮﨑健二)

忍者列車に乗ったら、忍者市駅に着いた!

兵庫県豊岡市の城崎温泉の旅を終えた私は、特急で京都駅に行き、さらに電車を乗り継いでJR関西線で伊賀上野駅にたどり着きました。移動時間は5時間弱。ふう。ここで伊賀鉄道に乗り換えです。ホームに行くと、電車がやって来ました。おおっ、忍者列車でござるぞ!

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伊賀鉄道の忍者列車。迫力がありますね

目が大きく描かれた車両がぐんぐん近づいてくるので、ぎょっとしてしまいました。漫画家の松本零士さんがデザインしたこの忍者列車には、緑色、青色、ピンク色の3種類があるそうです。
7分後に上野市駅に到着しました。忍者がお出迎えです。あれれ、駅名は「忍者市」?

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上野市駅の案内板

駅舎を見ると、やっぱり「忍者市駅」の文字が!

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駅舎には「上野市駅」の文字が小さく掲げられています

伊賀市は2017年に「忍者市」を宣言しました。2019年には上野市駅も愛称として「忍者市駅」を名乗ることになったのです。ちなみに、私が乗ってきた伊賀線も「忍者線」という愛称が付けられています。おや、「忍者市駅」の「忍」の字の上に、何かいるではありませんか。おぬし、何者!

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駅舎の壁に忍者像が。憎い演出ですね

芭蕉の生地 駅前には像

駅前には像が立っていました。松尾芭蕉像です。そう、「おくのほそ道」で知られる俳人、松尾芭蕉は今の伊賀市で生まれたのです。

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松尾芭蕉像。凛(りん)としたたたずまいです

松尾芭蕉は旅で訪ねた土地で俳句を詠み、情景や心情を書き残しました。つまり、私のような旅ライターの先人であり、偉大な先輩にあたります。像を見ているうちに、私も芭蕉翁(おう)にあやかって今回は俳句をひねりながら旅をしたいと思いたちました。俳号ですか? 松尾罵声です。

松尾芭蕉像の近くのバス停を見たら、うひゃあ、今度は忍者の絵でラッピングされたバスが。「にんまる」というコミュニティーバスです。

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コミュニティーバス「にんまる」。忍者がひしめいている楽しいデザインです

では、松尾罵声、最初の一句を。

「春旅や にんまるを見て にんまりと」

いったん忍者から逃れて気持ちを落ち着かせるために、私は駅の北側にある上野公園に行きました。

広い公園でゆったりと散策が楽しめます。梅の花が咲いていましたよ。

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梅の花。きれいなピンクです

また一句。

「梅爛漫(らんまん) しばし忍者を 忘れけり」

美しい伊賀上野城、芭蕉ゆかりの俳聖殿

公園には伊賀市のシンボル、伊賀上野城がありました。天守閣は1935年に再建されたものです。忍者の街にふさわしい美しい城です。

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伊賀上野城。入場料は大人が税込み600円です

こんな立派な建物もありました。俳聖殿です。

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1942年に建てられた俳聖殿。国指定重要文化財になっています

上の屋根が笠、その下が顔……、という具合に松尾芭蕉の姿を模した建物です。

忍びの技を知りたい! 伊賀流忍者博物館

俳聖殿の近くに伊賀流忍者博物館があったので、足を向けました。伊賀市に来たからには、忍者を深く知らなければ、と思ったのです。

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伊賀流忍者博物館。入館料は大人が税込み800円です

私が子供のころ、漫画にもテレビにも忍者があふれていました。伊賀流にちなんだものなら横山光輝の漫画「伊賀の影丸」、ほかにも「サスケ」「少年忍者 風のフジ丸」「忍者部隊月光」「仮面の忍者 赤影」などがありました。「将来は何になりたいの?」と聞かれたときには、ユーチューバーでもコスプレイヤーでもプロゲーマーでもなく、きっぱり「忍者!」と答えたものです。

私が好きだったのは白土三平の漫画「カムイ伝」と「カムイ外伝」です。忍者の集団から抜けたカムイが追っ手との戦いで繰り出す必殺技は、「変移抜刀霞斬り(かすみぎり)」や「飯綱落(いづなおと)し」。小学生の頃、友達に「あんなの簡単にできるよ」と自慢していたら、すぐにうそだと見抜かれました。では、ここで一句。

「うそばれて あだ名は 忍者ハッタリくん」

あれま、季語がありませんね。川柳になってしまいました。

思い出話はこれくらいにして伊賀流忍者博物館に入りましょう。

館内にある家屋に足を踏み入れました。すると、殺気が。天井近くを見上げると、どひゃあ、くノ一が!

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赤覆面の顔だけをのぞかせているくノ一

そう、ここは忍者屋敷なのです。仏壇があったので近づくと、下部に横長の空洞がありました。こんな所にも忍者は潜んでいたようです。

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仏壇隠し扉。ここに隠れて聞き耳を立てていたのでしょうか

次は刀隠し。床の下に刀を隠しておいて、いざという時に取り出して使うのです。

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刀隠し。へそくりを隠す場所ではありませんよ

忍者の道具も! 水蜘蛛、手裏剣、まきびし

忍者が使う道具の展示コーナーもありました。まず、水蜘蛛(みずぐも)。

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水蜘蛛。実際に使っているところを見てみたいものです

城の沼堀を渡る際に、足に履いて体重を分散し、泥の上を渡りやすくしたそうです。水上歩行道具と誤解されやすいが、水の上は歩けない、と説明文に書かれていました。そうだったのか! 私も誤解していました。すると、たとえば大きな池があって行く手を阻まれた時は……。きっと泳ぐしかないのでしょうね。では、ここで一句。

「古池や 忍者飛び込む 水の音」

あれま、芭蕉翁の盗作になってしまいました。季語もないし。

博物館の展示コーナーの見学に戻りましょう。忍者といえば、なんてったって手裏剣です。

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手裏剣。卍、十字など10種類があったそうです

刃にトリカブトの毒汁を塗って敵に投げたそうです。こわっ! 手裏剣の実物を初めて見ました。シャープな形でかっこいいです。しばらく見入ってしまいました。

まきびしも展示されていました。狭い通路に敵を誘い込んでこれをまき、敵が近づけないようにするのです。

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まきびし。踏むと痛そうです

これまでは漫画やテレビで見た忍者しか知りませんでしたが、博物館のおかげでずいぶん勉強ができました。

名物伊賀牛 肉汁じわりに感動

もはや忍者で頭はいっぱい。でも胃袋はからっぽです。地元の人に「伊賀の名物は何ですか」と尋ねてみました。すると、きっぱりとした口調で答えが返ってきました。「伊賀牛です」。伊賀牛? 三重県といえば松阪牛が有名ですが、伊賀牛は知りませんでした。

そこで、忍者並みの速足で精肉店が経営しているレストラン「もりつぢ」に行きました。注文したのはひとくちステーキ御膳です。

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ひとくちステーキ御膳。ご飯のほか、小鉢やサラダ、デザートも付いて税込み2200円です

どうです。このこんがりと焼かれた肉のおいしそうなたたずまい。口に入れてかむと、やわらかい肉の中から肉汁がじわー。たまらん! 胃がぎゅー、と喜んでいます。伊賀牛は私がこれまで食べた肉の中でも指折りのうまさでした。感動したのでここで一句。

「伊賀牛や 舌鼓打つ 春の日に」

城下町にも忍者、忍者、忍者!

お腹がいっぱいになったので、駅の南側の市街地を歩きました。ここは城下町だったので、武家屋敷がいくつか残っています。

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武家屋敷の一つ、入交家(いりまじりけ)住宅

散策を続けていると、おろろ、こんなところに忍者が!

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壁に描かれた忍者の絵。手裏剣がでかいです。でかすぎ!

市街地では「だまし絵」と称して、こうした忍者の絵が12カ所に描かれています。絵の中に入り、ポーズをとって忍者と一緒に写真を撮ることができます。こんな絵もありました。

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力強い忍者の絵。スーパーマン並みの破壊力を感じます

このリアルな画風と躍動感には思わずのけぞりました。

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中央に描かれた刀を持つポーズをとれば、忍者と戦う写真を撮ることができます

ここにも絵が。

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波の上を飛ぶ忍者もいてシュールです

この異次元感。葛飾北斎もびっくりです。そして、景色にすっかり溶け込んだものもありました。

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本当に忍者がいるような絵です

潜んでいた壁から出てくる忍者。忍者役をよく演じていた俳優、牧冬吉もびっくりです。

なんと自動販売機にも忍者が描かれていました。

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飲料の自動販売機。忍者の絵は迫力があります

しばし見つめていると、自販機を設置している店のスタッフの男性が出てきました。あいさつをすると、男性は「この自動販売機にはくノ一が潜んでいます。わかりますか?」。むむむ、テレビ番組「東大王」にも出てこないほどの難問です。見つけられなくて降参すると、「ははは。裏を見てください」。裏? 自販機と壁の隙間をのぞきこみました。すると、どひゃあ、いました!

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自動販売機の裏に描かれたくノ一。「こんなところにまで!」と感心してしまいました

いやはや、さすがは忍者市。街の隅々にまで忍者がいますね。

私は思ったのです。コロナ禍の時代の今こそ、忍者は再評価されるべきではないかと。

忍者は覆面姿で口を覆っているので飛沫(ひまつ)対策は万全。そもそも、敵に気づかれるのでくしゃみやせきをしません。仲間とのやりとりは暗号を使うリモートワーク。大人数での会食もカラオケもしません。基本的に人と会わない非接触型生活なのです。まさに新型コロナウイルス感染拡大防止対策のお手本。新しい生活様式の実践者そのものではありませんか。

では、旅の最後に松尾罵声、渾身(こんしん)の一句を。

「伊賀の春 忘れがたきは 忍びかな」

私はまたぜひ伊賀市を訪ねたいと思いました。&TRAVELに旅の記事を書くために? いえいえ、次回はプライベートな旅ですよ。お忍びで。

■伊賀鉄道
https://www.igatetsu.co.jp

■伊賀上野観光協会
https://www.igaueno.net

■伊賀上野城
http://igaueno-castle.jp/

■伊賀流忍者博物館
https://www.iganinja.jp/#

■もりつぢ
https://www.iganiku-moritsuji.co.jp/shop1.html

PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、江澤香織、高松平藏、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 宮﨑健二

    旅ライター。1958年、福岡市生まれ。新聞社を退社後、主に九州の旅とアウエーでのサッカー観戦を楽しみに過ごす。共著書に「失われゆく仕事の図鑑」(グラフィック社)。

カニ尽くしと外湯めぐり 城崎温泉で文豪気分

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