京都ゆるり休日さんぽ

大人が夢中で遊ぶ、つながる 町家宿&イベントスペース「草と本」

素朴でつつましくも、どこかつながりや知性を連想させるユニークな名のゲストハウスが西陣にオープンしました。今回訪ねた「草と本」は、イラストレーター・ダイモンナオさんが、アトリエとイベントスペースを兼ねて始めた1組限定の宿。昨年夏にオープンして半年。早くも、京都のクリエーターと地元の人々、宿泊客をつなぐ場所になりつつあります。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

空き物件と出会い、膨らんだ発想を実現する空間に

壁にはダイモンさんの作品が飾られている。モチーフは暮らしの道具や植物、旅の風景などが多い。購入も可能

壁にはダイモンさんの作品が飾られている。モチーフは暮らしの道具や植物、旅の風景などが多い。購入も可能

京都に暮らしながら、イラストレーターとして活動するダイモンナオさん。住み慣れた街のゲストハウスが空き物件になると聞き、温めていたさまざまなアイデアが沸々(ふつふつ)とわきあがりました。

高知県出身。2010年より、かねて縁のあった京都に暮らし始める。雑誌や書籍の挿画などで活躍するほか、個展も開催

高知県出身。2010年より、かねて縁のあった京都に暮らし始める。雑誌や書籍の挿画などで活躍するほか、個展も開催

「以前からアトリエが欲しいと思っていて。それだけでなく、元々のゲストハウスの間取りを生かしながら、共有スペースを活用して何かできそう、と想像がふくらみました。これまで自宅で、大好きな料理人を招いて仲間内で料理会を開催していたこともあったんです。仕事柄、編集者やクリエーターの友人も多い。それぞれが得意な分野を生かして、料理会や講座、ワークショップなどを開くことができたらと考えました」

奥に坪庭をのぞむイベントスペース。キッチンも併設しており、講座やワークショップから出張カフェや料理会なども開催する

奥に坪庭をのぞむイベントスペース。キッチンも併設しており、講座やワークショップから出張カフェや料理会なども開催する

暮らすように過ごしつつ、集まった本と出会う

コロナ禍の真っただ中、ネガティブになりたくなくて、限られた友人にしか開業を打ち明けずコツコツと準備。「やってみたい」という自分の気持ちに正直に、ダイモンさん自身がアイデアや癒やしの源と語る「本」と「緑」を採り入れた空間を作り上げました。

「多肉植物やコケ・シダ植物が好き」というダイモンさん。空間の各所に緑が置かれている

「多肉植物やコケ・シダ植物が好き」というダイモンさん。空間の各所に緑が置かれている

「ライブラリーの本は、友人知人から自然と集まってきたもの。よその本棚って、自分で選んだ本とは違う、思いがけない一冊に出会いますよね。おひとり様の宿泊者さんも多いので、ここでゆっくり本を読んだり、テイクアウトの夕食をいただいたりと、暮らすように過ごしてもらっています」

1日1組限定の客室。斜めの天井だが圧迫感はなく、どこか落ち着く

1日1組限定の客室。斜めの天井だが圧迫感はなく、どこか落ち着く

タイル張りのクリーンなバスルーム。ヘア&ボディーケアは野草由来の成分を配合した「北麓草水(ほくろくそうすい)」のもの

タイル張りのクリーンなバスルーム。ヘア&ボディーケアは野草由来の成分を配合した「北麓草水(ほくろくそうすい)」のもの

見る・聞く・味わう・手を動かす……広がるご縁

ラウンジスペースでは本の閲覧や食事をしたり、催しに参加したりできるほか、16:00〜22:30はバータイムとしても。クラフトビールや日本酒などがそろう

ラウンジスペースでは本の閲覧や食事をしたり、催しに参加したりできるほか、16:00〜22:30はバータイムとしても。クラフトビールや日本酒などがそろう

そろりとスタートした「草と本」ですが、ダイモンさんの周辺から次々と人のつながりが生まれ、多彩なイベントが開催されるように。料理、和洋のお菓子、日本庭園、イラストまで、ジャンルは多岐にわたります。

「みのり菓子」春のメニューより「さくらさくら」。きなこ風味のミルクスープに道明寺の桜餅、花びらのかけらが散る(1000円・税込み)

「みのり菓子」春のメニューより「さくらさくら」。きなこ風味のミルクスープに道明寺の桜餅、花びらのかけらが散る(1000円・税込み)

3月から火・水曜に出張カフェを行う「みのり菓子」も、自然発生的にご縁がつながった作り手の一人。季節の果実、スープやジュレといった、古典的な和菓子になかった要素を取り入れたデザートと、彩り豊かなおばんざいのランチは、宿泊者はもちろん誰でも気軽に食事ができます。

「彩りランチ」はふんわり握ったおにぎり2種に7〜8種類のおかず、スープが付く(単品1000円、ランチと和菓子セット1800円、いずれも税込み)

「彩りランチ」はふんわり握ったおにぎり2種に7〜8種類のおかず、スープが付く(単品1000円、ランチと和菓子セット1800円、いずれも税込み)

「参加者さんがご自身でイラストを描いて、ブックカバーを作るワークショップをしたことがあったんです。最初はみなさん『絵なんて描けるかな』とおっしゃっていたんですが、始まるとそれはもう真剣で。一人ではやってみようとしないことでも、誰かと集まれば楽しく体験できますよね。手を動かして、五感を使って、大人が遊べる場所になれたらと思うんです」

そう話すダイモンさん自身が一番、この場所と、ここから生まれる出会いや気づきを楽しんでいるようにも見えます。

玄関を開けてすぐの土間に置かれた和だんすは、以前のゲストハウスから譲り受けたもの。あつらえたようにこの場所にぴたりと納まった

玄関を開けてすぐの土間に置かれた和だんすは、以前のゲストハウスから譲り受けたもの。あつらえたようにこの場所にぴたりと納まった

やったことがないこと、知らなかったことに、出会う。誰かの本棚、スープ仕立ての和菓子、自分で描く絵、暮らしているかのような京都の街の気配……。「初めて」の体験は自然と感覚を開き、時間を忘れて遊ぶ喜びを教えてくれます。草の根が、見えない地中で広がり新しい場所で芽吹くように、「草と本」から生まれたつながりや体験が今、街に新しい風を運んでこようとしています。

草と本
https://kusatohon.com/

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BOOK

大人が夢中で遊ぶ、つながる 町家宿&イベントスペース「草と本」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が2019年6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。


PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。

春、フレッシュで軽やか台湾コーヒー「Goodman Roaster Kyoto」

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