永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(104) 満面の笑みで迎えた門出 永瀬正敏が撮ったトルコ

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回はトルコで撮った新郎新婦。笑顔のすてきなこの一枚から、忘れ得ぬ撮影の仕事へと、永瀬さんの思いはつながっていきます。

(104)  満面の笑みで迎えた門出 永瀬正敏が撮ったトルコ

©Masatoshi Nagase

トルコ・アンタルヤの街角で“幸せ”に出会った。

その日は日本で言う吉日だったのか、街のあちこちに結婚式を迎えるカップルがいた。

レンズを向ける僕にまず運転席の新郎が気付き、隣の新婦にそのことを伝えてくれた。
そして2人で満面の笑みを僕に向けてくれた。

以前、知人のウェディングプランナーからある企画の話をもらった。
伝統ある式場で式を挙げたカップルのその後を撮影してほしい、というものだった。

僕は、撮影させていただくご夫婦の結婚式当日の写真があれば事前に見せてほしい、とお願いした。
そこに写るご夫婦は、幸せをかみしめるさまざまな表情をしていた。

撮影当日はご夫婦の歴史と育まれた時間を体感する日となった。
お二人だけでいらした方、たくさん増えた家族と一緒に来られた方、
すでにお亡くなりになってしまった旦那さんのご両親と、2人の子供さんと来られた方……。
撮影中僕のアイデアで、ご夫婦で手をつないでいただいたり、
肩を抱いていただいたり、バックハグしていただいたりして撮影したご夫婦もいた。
「こんなの何年ぶりだろう」
照れてそうおっしゃるご主人も、それを聞いている奥さんも、
とてもすてきな表情をされていて、こちらも幸せを感じた。
数十組撮影させていただいたその時間は、自分にとっても貴重な時間になった。

このカップルはまさにスタート地点。
これから2人でさまざまな時を紡いていくだろう。
その記念すべき日に偶然にも出会え、撮影できたことをうれしく思う。

4月に入り世の中も新しいスタートを切った。
その全てがこのカップルの笑顔のように、素晴らしいものでありますように。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作にオダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」 、大森立嗣監督「星の子」など。 写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2021年1月から3月まで、愛知県の「高浜市やきものの里かわら美術館」で写真展が開催された。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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