永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(105) 「あうん」の呼吸、絶妙な距離感 永瀬正敏が撮った親子

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は中東で撮った親子。永瀬さんにとって特別な一枚だそうです。

(105) 「あうん」の呼吸、絶妙な距離感 永瀬正敏が撮った親子

©Masatoshi Nagase

親子が楽しそうに遊んでいる。
僕はその姿がいとおしくてカメラを向け続けた。

噴水の近くまで行って、噴き上がる水に無邪気に反応している男の子。
それを見守っているお母さん。
男の子が体勢を変えるたびに、速度を変えるたびに、お母さんは反応する。

親子の絶妙な距離感が、その絆の証しのような気がした。

親子の間の「あうん」の呼吸。
お母さんの過剰なものでない見守り方は、まさにそれだった。

男の子はまだまだ遊びたそうだったが、
これもまた絶妙なタイミングでお母さんが手を取り、その場から離れた。
男の子もぐずることなく、楽しかった時間をそのまま抱えているようだった。

この写真はその親子が振り向いた瞬間のもの。

男の子の笑顔がまぶしい。
ヒジャブ(正確には目以外の全てを覆っているのでニカブというらしい)であまり表情は見えないが、
かすかに見えるお母さんの目から、子供に対する優しさがにじみ出ている。

2人ともその思いのままカメラにほほえみをくれた。

自分がこの土地で撮影してきた中でも、この写真は特別な一枚になった。

バックナンバー

PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作にオダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」 、大森立嗣監督「星の子」など。 写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2021年1月から3月まで、愛知県の「高浜市やきものの里かわら美術館」で写真展が開催された。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

(104) 満面の笑みで迎えた門出 永瀬正敏が撮ったトルコ

一覧へ戻る

(106) 人混みで見つけた、可愛らしい必死さ 永瀬正敏が撮ったカタール

RECOMMENDおすすめの記事