京都ゆるり休日さんぽ

新緑のころ 新茶の香り、所作、しつらえに心洗われる「池半」

古都の三方を囲む山々が、鴨川や御所の木々が、新緑に萌(も)える季節がやってきました。若くみずみずしい緑を楽しむのは、景色だけではありません。お茶の木の新芽「新茶」も、“味わう”という新緑の喜びの一つです。今回訪ねたのは、鴨川のほとりにたたずむ「茶室/茶藝(ちゃげい)室 池半」。「茶藝」とは、台湾で生まれたお茶の作法であり文化。日本茶よりひと足早く届いた、中国茶の新茶をいれていただきました。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

静謐な茶室 日本・台湾・中国から その年の新茶

「池半」の屋号は、亭主・小嶋万太郎さんの先祖の家業に由来している

「池半」の屋号は、亭主・小嶋万太郎さんの先祖の家業に由来している

芽吹いたばかりの柳や桜がゆったりとそよぐ、鴨川べりの一軒家。藍で染め抜かれた「池半」ののれんをくぐると、別世界のような静謐(せいひつ)な空間が広がります。ここは、一棟貸しの町家宿「鴨半」が始めたもう一つのおもてなしの場所。中国、台湾、日本と、味を変え様式を変えさまざまにたしなまれるお茶の文化を体験できる、茶室/茶藝室です。

中国緑茶「龍井茶」は平たい茶葉が特徴。日本茶と比べると渋みがまろやかで、フレッシュで緑薫る飲み口

中国緑茶「龍井茶」は平たい茶葉が特徴。日本茶と比べると渋みがまろやかで、フレッシュで緑薫る飲み口

今年最初の新茶は、中国・杭州から。「龍井(ロンジン)茶」と呼ばれる中国緑茶の新茶は、二十四節気・清明節(太陽暦で4月5日ごろ)の前に収穫される、最も早い新茶の一つ。これを皮切りに、日本、台湾、中国大陸各地から、さまざまな新茶が池半に入荷します。個性の異なる3種の茶葉を、茶器のしつらえやお菓子とともに味わう「茶席コース」にも、この時期は新茶が登場。緑が薫る新茶の緑茶と、風味や熟成期間の異なる茶葉とを飲み比べると、それぞれのお茶が持つ背景と叙情性に引き込まれていきます。

この日は、写真の中国茶の新茶「龍井茶」、昨冬手摘みされた台湾茶「東方美人」、5年熟成の日本紅茶「かなやみどり」の3種を飲み比べ

この日は、写真の中国茶の新茶「龍井茶」、昨冬手摘みされた台湾茶「東方美人」、5年熟成の日本紅茶「かなやみどり」の3種を飲み比べ

「茶席コース」(1名4400円・税込み)は、3種のお茶、合間に2種の茶菓が付く。こちらは「タンユェン」という黒胡麻(ごま)あんの入った白玉にシロップをかけたデザート

「茶席コース」(1名4400円・税込み)は、3種のお茶、合間に2種の茶菓が付く。こちらは「タンユェン」という黒胡麻(ごま)あんの入った白玉にシロップをかけたデザート

ほの暗い空間にそっと光が差し込む茶室で、まるで映画の一幕を見るように、亭主の所作を眺めてお茶を待ちます。たちのぼる湯気、流れるような所作、小さな茶杯に満ちた新緑の色と初々しい緑の香り……。一つひとつに心がほぐれ、一煎目、二煎目と味わうごとに開いてゆく感覚は、浄化されるような体験です。

はじまりは町家宿の専用茶席 多彩なお茶の風味に心重ね

「町家宿では、滞在中好きに過ごしていただける分、お客様との接点は少ない。『ここに来てよかった』と、より満足してもらえるおもてなしができないかと、昨年5月、宿泊者専用の茶席を設けたのがはじまりでした」

凜(りん)としたしつらえに目を奪われる茶室。壁やテーブルは和紙作家・ハタノワタル氏が手がけた。飾られている織物は「赤穂緞通(あこうだんつう)」という日本の工芸品

凜(りん)としたしつらえに目を奪われる茶室。壁やテーブルは和紙作家・ハタノワタル氏が手がけた。飾られている織物は「赤穂緞通(あこうだんつう)」という日本の工芸品

そう語るのは、亭主・小嶋万太郎さん。町家宿「鴨半」を営みながら、好きが高じて台湾にお茶作りを学びに渡るほど、お茶に魅了された一人。台湾茶と日本の現代工芸を結びつけた立役者でもある台北の茶藝館「小慢」で、妻の石橋慧(けい)さんと出会い、共通するお茶への興味が茶藝室のオープンへとつながりました。

お茶によって茶器も変え、しつらえを楽しむ。この日「東方美人」の茶器に選んだのは淡い緑の釉薬(ゆうやく)が美しい茶壷(チャフー)で

お茶によって茶器も変え、しつらえを楽しむ。この日「東方美人」の茶器に選んだのは淡い緑の釉薬(ゆうやく)が美しい茶壷(チャフー)で

1種目、2種目のお茶を亭主のもてなしで味わったら、3種目のお茶は鴨川の見える2階席へと場所を変え、自分でいれて楽しむことができます。池半では、台湾・中国茶だけでなく日本茶でも、煎を重ねて飲むことができる茶葉を取りそろえ。移ろう風味にゆっくりと心を傾ければ、鴨川の畔(ほとり)を行き交う人々の様子や季節の木々の色も、お茶を味わう物語の一つになります。

鴨川をのぞむ2階席。茶室とガラリと雰囲気が変わり、開放的な雰囲気で自分のペースでお茶をいただく

鴨川をのぞむ2階席。茶室とガラリと雰囲気が変わり、開放的な雰囲気で自分のペースでお茶をいただく

「日本茶だけでなく台湾・中国茶も扱っているのは、それによってコミュニケーションが広がるから。日本のお茶は作法や形式が定型化しがちなのに対して、台湾・中国茶はとても自由なんです。しつらえやお茶の風味に話題を広げながら、リラックスして楽しんでいただけたら」

日本・台湾・中国のさまざまなお茶がそろう。「茶席コース」のほか、単品で喫茶も可能(茶葉により900円〜+お湯代300円)

日本・台湾・中国のさまざまなお茶がそろう。「茶席コース」のほか、単品で喫茶も可能(茶葉により900円〜+お湯代300円)

世界中で飲まれ、さまざまな文化とともに成熟してきたお茶。巡る季節を尊び、柔らかく初々しい新芽に感謝していただく心は、国が違えど変わることはありません。この季節だけの“飲む”新緑と、人の手と心に育まれた豊かなお茶の文化を、心ゆくまで味わってみてください。

池半
https://ikehan.jp/

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BOOK

新緑のころ 新茶の香り、所作、しつらえに心洗われる「池半」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が2019年6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。


PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。

大人も子どもも夢中のハンバーグ 地元に愛される洋食店「浅井食堂」

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