永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(106) 人混みで見つけた、可愛らしい必死さ 永瀬正敏が撮ったカタール

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回はカタールのスーク(市場)で撮った一枚。ブレて画質も粗いこの写真を、永瀬さんがことのほか気に入っている理由とは?

(106) 人混みで見つけた、可愛らしい必死さ 永瀬正敏が撮ったカタール

©Masatoshi Nagase

ここはカタール・ドーハ最大のマーケット「スーク・ワキーフ」

映画祭にうかがった際、各国から招待されたゲストとともに、このマーケットに連れてきてもらった。

大規模なマーケットではアラブの雑貨、ペルシャじゅうたん、金製品、
カラフルなスカーフやアクセサリーなど、さまざまなものが売られ、人々が詰め掛けていた。
建物自体も古いスークをリノベーションした、
さながら“アラビアンナイト”を彷彿(ほうふつ)とさせる場所だった。

ゲストたちは集合時間を決め、それぞれショッピングに出かけたのだが、
僕は何も買わず、ひたすら写真を撮っていた。
撮りたいものがそれだけたくさんあったからだ。
時間が足りないぐらいだった。

人混みを避け、時には人混みに突っ込んでいって撮影した。
(撮影時の注意事項は事前に映画祭スタッフに確認していた)
通訳さんをつけずに撮影するのは大変なのだが、
カメラを構えているとそのことすら忘れてしまう時がある。

この写真はブレているし、画質も粗い。
人混みにもまれながら撮影した一枚だ。
しかも“アラビアンナイト”的なものは全く写っていない……。
また機会があれば、その雰囲気が伝わるような写真も紹介したいと思う。
でも、今回はこの一枚を選ばせてもらった。

僕は個人的にこの写真がとても好きだ。
人混みの中で見つけたこの子の、可愛らしい必死さが伝わるこの写真が。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作にオダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」 、大森立嗣監督「星の子」など。 写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2021年1月から3月まで、愛知県の「高浜市やきものの里かわら美術館」で写真展が開催された。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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