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まるっと見せます、飛鳥Ⅱで行く「文楽クルーズ」(後編)

  • &Travel編集部
  • 2017年2月15日

大海原をバックに。船頭松右衛門、実は樋口次郎兼光 吉田玉男 (c)郵船クルーズ

前編はこちら

海上でむかえる朝

 波が穏やかな日の海上は、本当に静かなものだ。バルコニーの手すりにもたれて大海原を見ていると、時間を忘れてしまう。ふと物音がして左を向いたら、お隣の部屋のゲストも私とそっくり同じ姿勢で海を眺めていた。

朝の相模湾 (c)郵船クルーズ

 飛鳥IIはデッキが12層あり、ゲストが行き来できるのは主に4階から12階まで。朝食は和定食と洋食のビュッフェを選ぶことができるが、私は見晴らしのいい11階にある「リドカフェ」が会場の洋食ビュッフェに向かうことにした。

 窓から差し込んでくる朝日があたたかい。オムレツを焼いてもらって、ベーコンとサラダ、焼き立てパンを添える。昨晩、あんなに食べたのに、パンのお替りまでしてしまう自分が憎らしい。

 すっかり満足して、食後のコーヒーを飲み始めた時に気づいた。隣にはふわふわのパンケーキを焼いてくれるコーナーがあって、みんな並んでいたのだ。しかし、すでにパンでおなかはいっぱいで、泣く泣く断念した。ビュッフェの会場は広いので、まずひと巡りすることをおすすめしたい。

船上の過ごし方

 飛鳥IIでは、毎朝、部屋に「アスカデイリー」という新聞が届く。その日のイベントや食事のスケジュールがほとんどすべて載っていて、船上での時間を満喫するために欠かせない必需品。この新聞とにらめっこして、自分にあった一日のプランを立てる。

 早朝から甲板を歩くウォーキングのクラスがあったり、オーナメント(クリスマス飾り)作り教室、船ならではのシャッフルボードゲームや、スカットボール、輪投げなど、予想以上に身体を動かすアクティビティがたくさん。すべて無料で参加できる。

 飛鳥IIの最上階12階のスカイデッキには、パドルテニス(テニスコートの約半分の広さ)が楽しめる「ウィンブルドンコート」まである。洋上でテニス(正確にはちょっと違うけれど)なんて、ちょっとおしゃれ。

 このほかに、今回の「文楽クルーズ」は、筆者のような文楽初心者にも親しみやすく、たっぷり文楽の世界が楽しめるようなプログラムがたくさん用意されていた。

 昨晩の二代目吉田玉男さんによる『文楽ナイトトーク』にはじまり、『記録映画 文楽に生きる 吉田玉男』の上映、文楽の人形の種類や特徴がわかる展示『文楽写真展』、演者の方による『人形講座』と『太夫・三味線講座』と盛りだくさん。

 これらのプログラムで「予習」することで、二日目夜の公演がより深く楽しめるわけだ。もちろん、筆者はこの三つをはしごすることにした。乗船前の心配はなんだったのか、時間を持て余すことなどなく、なんだかいつもより忙しい。

洋上のバラバラ事件発生!?

 『人形講座』の先生は、人形遣いの吉田玉誉さん。玉誉さんの横に置かれた紫の着物の人形は「娘」の首(かしら)だな、とわかるのは『文楽写真展』で人形の首の種類と特徴を学んだおかげだ。

人形遣いの吉田玉誉さんによる『人形講座』 (c)郵船クルーズ

 文楽の人形は、3人が一組となって操る。着物姿で人形の首(かしら)と右手を操るのが「主遣い(おもづかい)」、左手を担当する「左遣い」と両足を担当する「足遣い」の2人は黒衣だ。なんでも、人形遣いは足遣いからはじまって、左遣い、立派な主遣いになるまでになんと30年もの修行が必要なのだとか。

 美しさは一朝一夕にあらず。遠くを見つめる繊細な瞳の動き、涙をぬぐうしぐさのひとつひとつは、まるで人形が魂を宿しているかのよう。あの流し目ができたら、などと感じ入っていたら、いつの間にやら玉誉さんが、バラバラ人形を持ち出してきた。美しい人形のあられもない姿がそこに……。

 人形の腕や手首・指をを動かす仕掛けに「差金(さしがね)」と呼ばれる長い棒があるのだが、これは、陰で人に指図して操ることを「それはあいつの差金だ」などと言う表現の語源ともされる。参加者も「へぇー」とうなづいて、メモを取っていた。筆者も今度友人の文楽ビギナーに、このうんちくをひけらかしたい。

 ここで希望者が舞台に上げられて人形遣いの体験をさせてもらう。3人一組で人形と格闘するが、これが、まぁ、見事に息があわない……。頭が左を向けば、手足が右に振れるといった感じで、参加者全員で大笑い。笑いに包まれて講座は終了した。

 会場の熱気で暑さを感じるほどだったので、風に当たろうと会場を出ると、そこにはシーホースプールがあった。さすがに泳ぐ人はいなかったけれど、デッキチェアでゆったり読書をしているゲストもいて、それぞれの時間を楽しんでいる様子が見えた。

『太夫・三味線講座』で語られた「恋バナ」

 次の講座は、竹本小住太夫さんと三味線の鶴澤清丈(丈の右上に点)さんによる『太夫・三味線講座』。文楽に欠かせない「音」の世界についての講座だ。

 太夫は、声色を変えて、登場人物のセリフ、感情、舞台の情景も含めて、すべて一人で語る。舞台で使う台本のようなもの、「床本(ゆかほん)」を置いてはいるが、もちろん、すべて暗記している。広い会場であっても、はっきりと声が響くように、下腹部に腹帯をきつく巻いてつま先を立てて座り、腹式呼吸で発声しているそう。

竹本小住太夫さんと、鶴澤清丈さん(丈の右上に点)による『太夫・三味線講座』(c)郵船クルーズ

 続いて、三味線の鶴澤清丈さん。楽器の解説が始まると思いきや、ご自身の独身時代の恋バナがはじまって……。じつは清丈さん、長年の片思いを実らせて結婚されたばかりの新婚さん。いまの奥様に、それは何度も求愛したのだとか。自虐をまじえて、その時の気持ちや情景を三味線で表現されるものだから、場内は大爆笑。片思いのエピソードを、上演される「日高川」の清姫の行動にご自身をなぞらえていらして、安珍への思いが情念となって最後は蛇にまでなってしまう彼女がなんとなく身近に思えてきたから不思議だ。こんな楽しいアプローチで演目の説明が聞けるとは思いもしなかった。

一日に5食? クルーズ船は食べ放題

 昼食を軽くすませて船内を散歩したりお土産を物色していたら、小腹が空いてしまった。船内には喫茶ができるラウンジがいくつかあり、時間によっては生のピアノ演奏を聴きながらお茶や軽食を食べることができる。午後のティータイムにはクッキー、プチケーキなどのスイーツが、夕方にはフルーツやハンバーガーにピザ、文楽たぬき蕎麦、さらに23時からは夜食の用意まである。しかも、これがすべて無料。アルコールのみ料金がかかる仕組みなのだ。食べずにはいられない。

 結局この日、筆者は朝昼晩とティータイム、ディナー前とで、計5食もいただいてしまった。

いよいよ、飛鳥II船上文楽公演

 今回の演目は『日高川入相花王 渡しの段』と『ひらかな盛衰記 逆櫓(さかろ)の段』。このふたつの共通項は「水」が物語のテーマになっていること。吉田玉男さんいわく、クルーズ船の中で、海の上でやるならば、と選ばれたのだそう。

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 さぁ、いよいよ公演のはじまりはじまり。

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