「生きるレシピ」を探す旅 ―志津野雷―

写真家・志津野雷「生きるレシピ」を探す旅 -インタビュー-

  • 2018年3月27日

写真家・志津野雷さん、逗子の拠点「シネマ アミーゴ」にて

逗子・鎌倉(神奈川)を拠点に国内外あらゆる土地へ飛び回り、1年のうちの大半を旅に費やしているという写真家・志津野雷さんの新連載『「生きるレシピ」を探す旅』がスタート。仕事という枠だけではどうにも伝えきれない! というあふれんばかりの思い、世界各国有形無形の“こぼれ話”をお届けしていきます。どんな連載になっていくのか、初回は志津野さんをインタビューしました。

志津野雷(しづの・らい)

写真家、シネマ・キャラバン主宰、「逗子海岸映画祭」発起人。自然の中に身を置くことをこよなく愛し、写真を通して本質を探り、人とコミュニケーションをはかる旅を続ける。ANA機内誌『翼の王国』や、ロンハーマンなどの広告撮影を中心に活動。2016年初の写真集「ON THE WATER」を発売。

――今年もまだ始まったばかりですけど(インタビュー時は2月初旬)、ほとんど地元の逗子にはいないと聞きました。

年明けすぐにロサンゼルスに1週間。そのあと、タイのチェンライとバンコク、チェンマイ、そして奄美大島。そこからいったん逗子に戻って、北海道から福島県へ。明日からまたロサンゼルスです。ちなみに昨年の最後に行ったカナダのネルソンという街も自分の中では強烈に印象に残る旅でした。

旅のルポルタージュもあれば、アウトドアメーカーのブランドブックやムービーの仕事もあります。ここ数年は、より旅に仕事が絞られてきてます。仕事だから自分で行き先を選べるわけではないんですけど、どこに行っても何かしら面白いことや面白い人と運良く遭遇することができています。

  

“自然と都会”両極が写真家としてのルーツ

――そもそも意識的に旅の写真を撮るようになったのはいつ頃からだったんですか?

どうだろう。もしかすると15歳でアイルランドに留学した頃から始まってたのかもしれない。高校生になると友達は横浜とか渋谷に憧れて外に出て行くようになっていきました。僕はというと、アイルランドの牧草地帯にポツンとある寄宿舎付きの学校で、羊とたわむれながら高校生活を送っていて。夏休みで一時帰国すると、友だちにクラブに連れていかれたりするんですけど、普段とのギャップがすごくてカルチャーショックを受けましたね。でもおかげで、世の中には“自然の中の暮らし”と“都会的な暮らし”という両極があって、自分はみんなとは違う両方を経験してるんだ、というのが感覚としてわかった。

写真家だった父親に、日本を発つ時にオリンパスのコンパクトカメラを渡されたんですけど、その言葉にしづらい二つの感覚を写真に収めて、ネットもない時代だったから安いプリント屋で焼いたのを絵はがきみたいにして、裏に「(アイルランドで)こんな生活してるよ」と父に送ったりしてました。思えばそれが旅写真の始まりだったのかもしれない。

――15歳ですでに今の志津野さんに通じる感覚が芽生えてたんですね。その後、東京工芸大学の写真学科を出て、カメラマンに。

筆記試験がなくて面接と写真だけと聞いたから、それならってことで受けました。でもそんな動機だったのと、そもそも写真は自分で見つけた道ではなくて親から導かれたレールのようなものだったから、大学に行ったことで逆に写真から遠ざかってしまった。

そんな時、地元の逗子・鎌倉は身近に海があってサーフィン人口も多かったこともあって、僕も自然とサーフィンを始めたんです。そしたら、周りに写真を撮りたくなるような面白いサーファーがたくさんいました。日雇いのバイトをしながらサーフィン雑誌に自分の撮った写真を買ってもらったりするようになって……。「写真を仕事にしていくにはどうしたらいいんだ?」と思って大御所のファッション写真家のアシスタントに就くんですけど、この業界は全然向いてなかった。その反動から、もっと人間味のあるドキドキした写真が撮りたいと思って、10カ月の一人旅に出ました。

――本格的に長期の旅をしたのはそれが初めてだったんですか?

そうですね。インドを西から東に行く計画で、ラジャスタンからデリーまで半年かけて旅をして、そこからパリに渡りました。

――発展途上国から先進国へ。対極的なセレクトですね。

そう、やっぱり15歳の頃の経験から両極が見たいという願望があるのかもしれない。この旅で撮った写真に手応えがあって、帰国後に自分で作品集を作るんです。それをいろんな編集者に見せてまわっていたら、今の「翼の王国」(ANAの機内誌)や当時あった「BLUE」という海の雑誌の編集者たちとの出会いがあって、より旅の写真にフォーカスして活動するようになりました。

写真家になると決めて旅をしたインドで遭遇した羊の群れ(C)志津野雷

仲間と始めた「シネマキャラバン」の広がり

――志津野さんといえば、写真の仕事ももちろんですけど、「シネマキャラバン」の活動も旅がテーマですよね。

映画館の「シネマ・アミーゴ」と移動式映画館「シネマキャラバン」を立ち上げたのが、旅の写真が主軸になっていったのと同じ頃でした。最初に話したように、仕事でいろんな土地に出かけるんだけど、雑誌のひと企画だけでは出しきれないちょっとしたジレンマがあって。それなら、発表の場を与えられるのを待つんじゃなくて、自分で作ればいいと思って仲間と一緒に始めたことだったんですよね。

――「シネマキャラバン」が、逗子のビーチで「逗子海岸映画祭」を始めたのが8年前。年に一度、ゴールデンウィーク前後の10日間ほど開催するカーニバルのようなイベントですけど、年々認知度が上がって、他府県や海外からも呼ばれるようになりました。

国内だと白川郷や新潟の越後妻有アートトリエンナーレなど、北は北海道、南は九州まで数十カ所。5年前には、スペインのバスクから招致してもらいました。それも、「翼の王国」でバスクを取材したときに意気投合した庄司蔵人との出会いからつながっていったんです。

彼は日本人で向こうに長く住んでいたんですけど、バスク独自の伝統文化を日本に伝えたいし、日本のことをもっと知りたいと思っていた。僕も同じでした。だからまずは、彼らを逗子海岸映画祭に呼ぼうとみんなで資金集めをして実現させたんです。

その翌年に、バスクの映画祭に招致してもらうことになりました。“移動式映画館”なので、逗子海岸映画祭を丸ごとバスクに運ぼうと、シネマキャラバンのメンバー総出で現地に渡って、いつものように全部手作りで日本の屋台を作った。すごい反響がありました。それ以来、バスクとは毎年コミュニティーごと行ったり来たりするような関係に発展していったんです。

――逗子海岸映画祭には毎年“バスクの日”があって、「なぜバスク?」と不思議に思う人もいると思うんです。姉妹都市でもないですし(笑)。

ものすごく個人的な思いではじめたイベントですからね。

東日本大震災の数日前にいたネパールの標高4000m付近(C)志津野雷

旅で得た知識は満タン、どう生活や生き方に落とし込むか?

――逗子海岸映画祭も年々集客数が倍増していますよね。志津野さんは、旅で得た出会いを、海を越えてここまで膨らませることができるんだと体現しながら、いつも自分のフィールドを自分で押し広げ続けている。ここ最近の旅で、何か変わってきたことはありますか?

この10年ほど、ほんとうにいろんなところに行かせてもらって、行く先々で「こんな考え方もあるのか」「こんな生き方もあるんだ」「なんだこの食べ物は!」「街をよくするのにこんなアイデアがあったんだ」というようなことを散々見聞きしてきたんですよね。インプットは満タンであふれるくらいなんですけど、じゃあ、それを持ち帰って自分の生活や生き方にどう落とし込めるんだろう? ということを、ここ最近はずっと考えてますね。

もっと昔は、海外に行くと「違う国にきた!」って、フレッシュな気持ちで、ただ街並みやサインなんかに反応して写真を撮っていたのが、今はそうした表面上の風景には少し不感症になりつつある。むしろ、この人たちがなぜこんな街を作ることができたのか、なぜこの人はここでこんな風に生きているのか、というところに興味が向いているんですよね。

だからこそ昨年行ったカナダのネルソンは、何十年もかけて熟成されてきたようなオルタナティブな街で、パッと見ではわからない重層的な奥深さがあって、ものすごく影響を受けました。

――そうした話もこの連載で紹介されていくんですね。

その予定です。もちろん、そうして旅から持ち帰った知識は、レシピのようにそのまま日本で再現できるわけではないと思ってます。でも、自分にとってもそうであるように、ここで紹介することで、誰かにとって何かのきっかけやヒントにはなるのではないかなと。

そうは言いつつ、たとえば寒い日には「いろんな国の汁もの紹介!」って、食レポの日も出てくるだろうし、旅先で出会ったある人にひたすらフォーカスする日もあるかもしれない。

――でも、取材で動いているので同じ食レポでも単なる旅行記ではない、一歩踏み込んだものになりそうですね。

そうですね。行く先々にアテンドしてくれるキーマンがいますから。取材班は、彼らを頼りに短い期間でその街の一歩奥へと踏み込んでいく。そうしたローカルの人たちの存在も僕にとってはすごく大切で、彼らのことも紹介していきたいなと思ってます。(志津野さんの連載はこちら

(文・石田エリ/写真・佐野竜也)

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PROFILE

志津野 雷(しづの・らい)

写真家、シネマ・キャラバン主宰、「逗子海岸映画祭」発起人。自然の中に身を置くことをこよなく愛し、写真を通して本質を探り、人とコミュニケーションをはかる旅を続ける。ANA機内誌『翼の王国』や、ロンハーマンなどの広告撮影を中心に活動。2016年初の写真集「ON THE WATER」を発売。

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