知る人ぞ知る「お屋敷」にこだまする調べ 古都・鎌倉の手作り音楽祭を訪ねて

  • 2018年4月9日

演奏に臨むオーボエの吉井瑞穂さん(左)とギターの鈴木大介さん。ガラス越しの景色が鎌倉らしさを演出する(撮影・松藤飛洋氏)

 古都・鎌倉は、芸術家が愛し、芸術家を育んだ街として知られる。鎌倉から巣立った一線級の音楽家が、地元の一風変わった空間で開く、こぢんまりとした音楽祭があると聞いて訪ねてみた。しかも会場は、地元では知る人ぞ知る、あの「お屋敷」だという。

JR鎌倉駅西口を出て、演奏会場を目指す

 その音楽祭の名前は「レゾナンス〈鎌倉の響き〉」。2015年から毎年、桜が終わり新緑の美しい4月に開かれてきた。マーラー・チェンバー・オーケストラ(ドイツ)の首席オーボエ奏者吉井瑞穂さん、東京交響楽団の首席トランペット奏者佐藤友紀さん、昭和音楽大学教授の音楽学者有田栄さんら、鎌倉出身の音楽家や研究者が中心となって企画してきた。

 山が海に迫る鎌倉には、谷戸(やと)と呼ばれる谷間がたくさんある。緑豊かな谷戸にこだまする音楽が、奏者と聴き手、聴き手と聴き手、人間と自然をつなぐ扉となれば――。そんな思いが、レゾナンス(共鳴)という言葉にこもる。 

 訪れたのは、全部で4回ある公演のうち、2回目となる7日の演奏会。JR鎌倉駅西口を出て、歩くことおよそ7分。閑静な、というのは、こういう場所を言うのだろう。住宅街の一角にある「お屋敷」にたどりつく。

演奏会場の、鎌倉歴史文化交流館(本館)。景観と建物が不思議な調和をみせている

 正確には「お屋敷」ではない。いまは鎌倉歴史文化交流館と呼ばれる市の施設である。個人の住宅として2004年に建てられ、寄贈を受けた市が歴史展示施設に改修した。設計は、英国の巨匠建築家ノーマン・フォスター。地元では有名な900坪近い敷地にそびえる個性的な建物が大勢の目に触れるようになったのは、17年5月の交流館開館以後のこと。

展示室へ向かう本館の廊下。人造大理石の壁がところどころ光っているのは、埋め込まれた光ファイバーのなせる技

 建物は鉄筋コンクリート造りで、2階建ての本館と、平屋の別館がある。このあたりはかつて「無量寺谷(むりょうじがやつ)」と呼ばれた谷戸だという。「鎌倉時代は有力御家人である安達氏の館が、江戸時代には刀工正宗の子孫・綱廣(つなひろ)の屋敷が、大正年間には、三菱財閥4代目の岩崎小弥太の別荘がありました」。交流館の高橋真作学芸員が教えてくれる。

別館の入り口。演奏会場はこの奥だ

演奏が進むにつれ、外は次第に暗くなっていく(松藤飛洋氏撮影)

 展示室は本館に三つ、別館にひとつあり、旧石器時代から現代にいたる鎌倉の歴史を、解説パネルや出土品、書簡などで一望できる。黒や茶色を基調にした落ち着いた内装は、歴史に思いを巡らせるのにふさわしい。

 館内や敷地をひととおり巡り、一息ついたら、開演が近づいてきた。会場である別館の一番奥にある交流室に、お客さんが集まってくる。もともと会議室だったとは思えないほど残響が長く、クラシック音楽の演奏会にはおあつらえ向きだ。

 70人ほどの聴衆で席はほぼいっぱい。オーボエの吉井瑞穂さん、ギターの鈴木大介さんが入場し、午後6時に演奏が始まった。

 前半はバロック音楽。まずはドイツの大家テレマンのオーボエ・ソナタ、次いでイタリアの作曲家ビバルディのソナタへ。柔らかでまろやかなオーボエの旋律と、端正なギターの伴奏が様式美をかたどる。締めくくりは、ドイツのバッハが書いたパルティータ第3番をギター独奏で。天井の蛍光灯はすべて消え、ステージに置かれたいくつかの明かりだけが演奏家を浮かび上がらせる。ステージの背後と上手側の壁はガラス張り。まだ明るかった開演直後に借景となっていた切り立った崖が、次第に闇に溶けていく。

 休憩をはさんだ後半は、イタリア・バロックのマルチェッロ「オーボエ協奏曲ニ短調」が終わると雰囲気が一変。スペインの作曲家タレガのギター独奏曲「アルハンブラの思い出」で19世紀末に飛び、続いてオーボエとギターのデュオで20世紀作品へ。フランスのラベル「ハバネラ形式の小品」の次は、ブラジルの作曲家アントニオ・カルロス・ジョビンの「イパネマの娘」、ブラジル出身のミュージシャン、マシャドの「涙のないショーロ」など3曲と、ボサノバづくしだ。アルゼンチンのピアソラが書いた「リベルタンゴ」で締めくくり、アンコールで冒頭のテレマンをボサノバ風に演奏することで、プログラムが円環をなして閉じた。音楽という乗り物で、バロックから現代まで300年余りの時を下りつつ世界中を旅した心持ちだった。

 印象的だったのは、プログラムが進むにつれ、演奏がほぐれていったこと。オーボエはしなやかに、ギターは官能的に。後半に軽めの曲が続いたこともあるが、この夜は、「場の力」が大きかった。

 名建築家が造りだした空間で、鎌倉らしい景色に包まれ、少人数で味わう響き。文字どおりの「レゾナンス」が生まれたひとときだった。

(文・写真 &TRAVEL編集部・星野学)

【鎌倉歴史文化交流館】
0467-73-8501
神奈川県鎌倉市扇ガ谷1-5-1
JR・江ノ電鎌倉駅より徒歩7分
10:00~16:00(入館は15:30まで)。日曜・祝日、年末年始は休館
一般300円、小中学生100円
https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/rekibun/koryukan.html


【レゾナンス〈鎌倉の響き〉 残りの公演情報】
●「響きあう歌のこころ」
4月11日19時 鎌倉生涯学習センターホール(鎌倉市小町1-10-5)
波多野睦美(メゾソプラノ)、吉野直子(ハープ)、アリスター・シェルトン=スミス(バリトン)
一般5000円、25歳以下2500円

●「無常は世の常、人の常」
4月15日15時 覚園寺(鎌倉市二階堂421)
和田淳子(ダンス)、荻江寿愼(三味線)、吉井瑞穂(オーボエ)、アリスター・シェルトン=スミス(バリトン)
一般6000円、25歳以下3000円
チケット取り扱い 電話0120-240-540(カンフェティ)
http://resonance-kamakura.com

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