京都ゆるり休日さんぽ

一つの空間に二つのレストラン いくつもの国を旅するように

  • 文・大橋知沙
  • 2018年6月8日

厨房をはさみ二つの料理店が。こちらは「トルビアック」

 「飛行機の乗り継ぎ時間が十数時間あったら、立ち寄った国の料理を2食も食べられます」。フランス料理店「ビストロ ベルヴィル」とタイ・ベトナム料理店「トルビアック」、二つのレストランを一人で切り盛りする店主の野久尾啓(のくお・けい)さんはそんなふうに話します。短い滞在も含めると、これまで40カ国以上を旅したという、根っからの旅行好き。観光客向けのレストランではなく、その国の風土に根ざした郷土料理や家庭料理を出す店にひかれ、行く先々で自らの舌に覚えこませてきたそうです。

廊下の奥と手前、二つのドアがそれぞれの店の入り口

 「ビストロ ベルヴィル」と「トルビアック」という二つの料理店が、一つの厨房(ちゅうぼう)をはさんで同居するという不思議な営業形態は、そんな店主の旅好きが体現されたもの。入り口を入るとまず長い廊下があり、客はそれぞれ、予約した店の扉を開きます。

飾られた雑貨やオブジェは各国を旅して見つけたものも

 アジア料理店へと向かう廊下で、ちらりと見えるビストロの雰囲気が気になったり、フランスの田舎料理をいただきながら、厨房の向こうに漂うエスニックな気配にソワソワしたり……。それはまるで、乗り継ぎ空港でひと時、目的地ではない国の文化や言語に触れ、「今まさに旅の途中なのだ」と実感することにも似ています。

「ビストロ ベルヴィル」はフランスの古道具が彩る空間

 「さまざまな言語や文化、人種の入り交じった場所に身を置くと、自分が今どこにいるのかわからなくなる浮遊感がありますよね。あの気分が好きなんです。ここでは二つの店を同時に予約することはできませんが、厨房を隔てて別の国の気配があることで、その浮遊感や旅する気分を味わってもらえたら。通過しただけの国に『次は行ってみよう』と興味を持つこともありますしね」

「旅する朝食」のコースの一品、クロックマダム

 フランス料理店「ビストロ ベルヴィル」の店名は、パリ東部にある移民街の地名から。この地域はモロッコやチュニジアの食文化の影響を色濃く受け、「シックでおしゃれなパリ」とは違ったフランスの側面を見ることができます。ビストロのメニューに並ぶ料理も、素朴なフランスの家庭料理、郷土料理が中心。こちらの「タブレ(クスクスのサラダ)」はフランス総菜の定番ですが、元は北アフリカや中東から伝わってきたもの。野菜の食感や酸味をクスクスの粒が上手にまとめあげ、たっぷりのミントとスパイスがアクセントになった香り豊かな一皿です。

食事は朝昼夜すべてコースのみ(3,800円〜・税込み)で、料理を自分で選べるプリフィクス・スタイル

 一方、ベトナムの朝食とタイの昼・夜ごはんを出す「トルビアック」は、落ち着いた雰囲気ながらも、極彩色の雑貨やミリタリーの調度品がアジアの熱気を匂わせる空間。「トルビアック」はアジアの地名ではなく、こちらもパリの13区にある大きな中華街のある地域で、東南アジアからの移民が多いため、中華だけでなくタイ、ベトナム、ラオス、カンボジアなど、実にさまざまな料理店が混在するといいます。その混沌(こんとん)とした街にあるような料理店が、「トルビアック」の目指す姿です。

キッチュな色使いが東南アジア的な「トルビアック」

 パッタイやトムヤムクンといった、日本人に人気のタイ料理はここにはありません。出されているのは、日本での知名度は低いけれど、タイの家庭や屋台で現地の人々が日常的に食べている料理。野久尾さんが自ら旅して味わった、タイのさまざまな地方の料理を、なるべく現地の味わいに忠実に再現しています。写真の「カイジャオ」は、タイ料理の中でも中華料理の影響を感じさせるもの。中はふんわり、外側はカリッと揚げ焼きにした卵焼きで、ナンプラーのうまみがじんわりと後を引きます。

「カイジャオ」は添えられたチリソースでいただく

 耳慣れない名の空港での乗り継ぎを経て旅してきたような、ある国の移民街や国境の街に迷い込んだような、ワクワク感と少しの心もとなさが入り交じった気持ち。あらゆる国のエッセンスを含んだ「ビストロ ベルヴィル」と「トルビアック」で味わえるのは、そんな旅の高揚感と浮遊感です。食事を終えて店のドアを開けるとき、まるで一つの旅が終わってしまうかのようなさびしさを感じるかもしれません。けれど、そのセンチメンタルな気持ちも旅のだいご味。次にこの店を訪れたときには、また別の国の扉を開けられそうな気がします。(撮影:津久井珠美)

ビストロ ベルヴィル(フランス料理店)
http://jajouka-kyoto.jp/
京都市中京区常盤木町49-201
075-708-7894
朝食 10:00〜11:00最終入店 (3日前までに要予約、2名〜)
ランチ 12:00〜13:00最終入店 (前日までに要予約、2名〜)
ディナー 18:00〜21:30最終入店 (当日予約可。不定休)

トルビアック(タイ料理/ベトナム料理)
http://jajouka-kyoto.jp/
京都市中京区常盤木町49-202
050-3555-0530
ベトナムの朝ごはん 10:00〜11:00最終入店 (3日前までに要予約、2名〜)
タイの昼ごはん 12:00〜13:00最終入店 (前日までに要予約、2名〜)
タイの夜ごはん 18:00〜21:30最終入店 (当日予約可。不定休)

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PROFILE

大橋 知沙

編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブック、カフェ、雑貨などのムック本・書籍を中心に取材・執筆を手がけるほか、手仕事や印刷の分野でも書籍の編集に携わる。主な編集・執筆に『恋するKYOTO雑貨』(成美堂出版)、『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

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