楽しいひとり温泉

温泉+回帰 なんだろう、この癒やされ感 「鹿児島県・妙見温泉」

  • 文・写真 温泉ビューティ研究家・トラベルジャーナリスト 石井宏子
  • 2018年6月12日

かやぶきの古民家が点在する集落のような宿

なんだろう、この穏やかでゆったりとした気持ちは……。旅に求めるキーワードのひとつに「非日常」という言葉があるけれど、もしかしたら、それとはちょっと違うのではないかしら、という思いが巡ってきました。確かに、この宿は、今の都会の暮らしの中から旅をしてくると「非日常」なのですが、なんだかその言葉を使いたくない気持ちになりました。なぜならば、ここには、日本のごく日常の暮らしがあり、日々の当たり前の営みが粛々と繰り返されているような、静かで穏やかな時間が、風景が、空間があるからだと思います。こんな場所に住んだことはないし、自分の生まれた家でもないけれど、なんとも不思議な癒やされ感に包まれてしまうのです。

鹿児島らしいよもぎの芋団子と地元知覧のお茶

「ただいま~」。まるで故郷に帰ってきたような気分で、「忘れの里 雅叙苑」に到着。妙見温泉は鹿児島空港からバスで25分、空港からあっという間に渓流沿いの緑いっぱいの道へと入って行きます。アクセスの良さもポイント。バス停は宿の前ですから1泊だけのひとり温泉でもストレスなく旅できます。

「なんか、ほっとする」。手作りのよもぎ団子の中は優しい甘さのサツマイモ。

部屋のテーブルには葉っぱのウェルカムカード

部屋に置かれたメッセージカードは葉っぱです。これ、実は数年前に泊まった時も、このおもてなしに感動して同じ写真を撮っていました。「また、帰ってきたよ」と再訪の喜びを感じます。

宿で暮らしているニワトリご一家はみんなのアイドル

宿の中にはニワトリのご一家が暮らしています。2匹の子供たちが一緒に散歩していました。お父さん、なんだか誇らしげに先頭を歩いています。かやぶき屋根の古民家を移築したお部屋が10室。小さな集落の住人になったように過ごせる宿です。

二つある大浴場は日帰り温泉では男女別、宿泊者の時間は貸し切り利用

二つある大浴場「建湯」は、日帰り利用の時間帯以外は貸し切りで入れます。入り口の札を入浴中にして鍵をかけて独占。無料で何度でも利用できますからなんともぜいたくです。迫力ある大きな石の湯船は、まさにこの土地を感じる造り。宿の横を流れる天降川(あもりがわ)には、およそ30万年前の噴火による堆積(たいせき)物で大きな一枚岩がたくさんあるのです。宿のご主人田島健夫さんは、そんな大岩をここへ運び、自らの手で石工さんと一緒にコツコツとくりぬいて湯船を造り、その上に湯小屋を建てたというこだわりの設計。まさに、この地の地形そのものに入るような温泉です。この大プロジェクトを成し遂げた石工さんの名前が湯船の脇に刻まれていました。

この宿の源泉は全部で3本。建湯では毎日完全にお湯を入れ替えてかけ流しで注いでいます。泉質はナトリウム・カルシウム・マグネシウム-炭酸水素塩泉。pH6.6の中性。肌の汚れや古い角質を落としてすべすべにしてくれる美肌の湯です。ミネラルの豊かさを感じるうす濁りの湯は、入った瞬間はやさしく柔らかに感じますが、湯口をみると泡がはじけています。温泉分析書の表示によると二酸化炭素ガスを659ミリグラム含有。血行が良くなってじんじんと温まります。

もうひとつの貸し切り温泉はこの地で古くからある自噴温泉

実は、わたしが最も楽しみにしている温泉は、宿の奥にもうひとつある貸し切り風呂「打たせ湯・ラムネ湯」です。ここはかつてこの地域の方々が利用していた温泉場で、この風情がたまりません。ここだけでしか入れない源泉がちょっと特別。二つの湯船があるのですが、奥の湯船だけで入れるのが第3の源泉で、自然湧出(ゆうしゅつ)の自噴泉です。温度は体温よりほんのり温かいくらいの癒やされる「ぬる湯」。入っていると、肌に泡がみるみるついてきて、「ラムネ湯」と呼ばれている理由がわかります。二酸化炭素ガスの働きで血の巡りがよくなり、肌も体もスッキリできます。手前にはもうひとつ湯船があり、こちらは建湯でも利用している熱い温度の源泉とラムネ湯源泉の混合で、仕上げにここで温まります。

宿のゲストのために育てられた自家牧場の地鶏料理が絶品

ここは食事もとても楽しみ。直営牧場の地鶏と自家菜園の野菜が敷地の中の台所で調理されています。地鶏の刺し身は、自家牧場で手作りの発酵飼料を食べて走り回って育った元気な地鶏を提供する自給自足スタイル。現代の生活の中で、宿のゲストのためだけに育てられたものをいただくと、「ぜいたく」の本当の意味を感じます。薩摩のお料理をいただくなら、やっぱり薩摩の焼酎を合わせないと……。ふくよかな味わいが広がる芋焼酎「なかむら」をいただき、幸せ倍増。

宿の中のお台所の風景は古きよき日本の原風景

朝湯に出かけるころになると、宿の台所からいい香りが漂っています。全然シチュエーションは違うのですが、なんだか、お母さんが朝ごはんを作ってくれていた子供の頃をちょっと思い出してしまいます。朝食へ向かうと「お魚はどれを焼きましょうか」と声をかけてくれます。この日は、つややかなサバ、ぷっくぷくのイワシ、キラキラのきびなご。「うーん。どれにしようかな」。悩んだ末に、イワシを選択。「卵はどうしましょうか」。これも自家牧場の地鶏が生んだ新鮮卵です。「卵焼き、オムレツ、目玉焼き、なんでもお好きなものを作りますよ」「卵焼きは甘いやつですか?」「はい。ここではちょっと甘くして作ります」「じゃあ、それ」。懐かしい自分回帰の朝食は、ちょっと甘い卵焼きに決定。

幸せ過ぎる朝食。これに、焼き魚と卵料理、お茶やコーヒーがつく

わたしの愛してやまない雅叙苑の朝食。実は、これを目当てに泊まりに来たといっても過言ではありません。野菜がごろごろ入ったおみそ汁。白米と玄米とふかし芋が1切れ、これがお茶わんに盛られてくるのは、まるで、クリスマスとお正月と誕生日が一緒にやってきたような幸せ。ほどなく、焼き立てのイワシと卵焼きが運ばれてきます。

■「楽しいひとり温泉」ポイント
1. 大地の力を感じる極上温泉
2. 自分回帰してしまう朝食
3. 空港から近くて移動ストレスなし

鹿児島県・妙見温泉 忘れの里 雅叙苑
http://www.gajoen.jp
*ひとり宿泊は電話予約(+10800円)。ひとり旅プラン(特別料金)がHPにでることもあり。

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PROFILE

石井宏子(いしい・ひろこ)

いしいひろこ

温泉ビューティー研究家・トラベルジャーナリスト。日本・世界の温泉や大自然を旅して写真撮影・執筆をする旅行作家。テレビにも出演。温泉・自然・食で美しくなる旅を研究する。海外ブランドのマーケティング・広報の経験から温泉地の企画や研修もサポート。日本温泉気候物理医学会会員、日本温泉科学会会員、日本旅のペンクラブ会員、気候療法士(ドイツ)、温泉入浴指導員。著書「癒されてきれいになる おひとりさま温泉」(朝日新聞出版)「地球のチカラをチャージ! 海温泉 山温泉 花温泉 76」(マガジンハウス)ほか。新著「感動の温泉宿100」(文春新書)が10月に発売された。公式サイトhttp://www.onsenbeauty.com

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