にっぽんの逸品を訪ねて

和傘、鮎菓子、大仏様 女子旅で人気の岐阜市川原町

  • 文・写真 中元千恵子
  • 2018年7月11日

川原町にある「長良川てしごと町家CASA」では、和傘を干していた

全国の温泉地をテーマ別に分けてインターネットで人気投票を行う「温泉総選挙2017」(うるおい日本プロジェクト主催)で、岐阜市の長良川温泉が、女子旅部門の1位に輝いた。選挙は昨年が2回目で、9部門の総投票数は約149万票。女子旅部門には32カ所が立候補していた。

長良川温泉は、前回ご紹介した「ぎふ長良川鵜飼(うかい)」が行われる長良川の河畔近くに7軒ほどの宿がある。鵜飼をはじめ、周辺に見どころが多いのもこの温泉地の魅力の一つであり、なかでも女性の心をつかんだのは「川原町」の存在が大きいようだ。

奇跡的に残った古きよき街並み

川原町は、長良橋南詰から西へ続く湊町や玉井町、元浜町などの総称。ここは舟運が盛んな時代に、長良川流域一の川湊(みなと)として栄えた。上流からは木材や炭、美濃和紙、関の刀剣類など、下流の桑名からは海産物が運ばれ、荷揚げされた品を扱う大商店が軒を連ねていた。

川原町の表通りは中世からの古い道筋。繊細な格子戸の町屋が続く

岐阜市街地では奇跡的に1891年の濃尾地震や第2次世界大戦の戦火を逃れ、今も細い格子戸の町屋や土蔵が残り、戦前の面影をとどめている。
軒下に岐阜提灯(ちょうちん)が揺れる町並みは優雅で、浴衣や着物姿でのそぞろ歩きがよく似合う。電柱もないので、どこを見ても絵になり、思わずカメラを向けたくなる。古民家を利用した雑貨店やカフェなども並び、女性をひきつける要素を兼ね備えている。

城下町の面影を伝える白壁土蔵の町並み

川原町の魅力は風情だけではない。長い歴史が紡いできた本物の文化も体感できる。
代表的な一軒が、「長良川てしごと町家CASA」だ。築120年の町屋を改装し、岐阜和傘や彫刻家イサム・ノグチの考案した光のオブジェ「AKARI」を販売。日によっては職人による手仕事の実演やワークショップも開催する。

「岐阜和傘は、県を代表する伝統産業で、国内の和傘の8割以上が岐阜で作られています。ただ、昔から京都や東京へ出荷する卸売が主だったので、市内で和傘を販売しているのはここ1軒のみです」と店長の河口郁美さん。

たくさんの岐阜和傘が並ぶ店内。「和傘の柄は着物の袖がめくれないように長めです」と河口さん

長良川流域は、原料となる良質な和紙や竹、柿渋、えごま油が豊富だったことから、竹かごや提灯、うちわなどの地場産業が発達。和傘も一大生産地に発展した。
洋傘の普及で生産量も職人も減ったが「岐阜和傘の技術がすたれると和傘自体が消えてしまう。この店から和傘の魅力を発信して、後世に伝えていきたい」と河口さん。
この店で初めて和傘を手にし、気に入って購入していく人も多いという。天然素材を使った、職人の手作りの品。閉じているときには竹しか見えないが、開くと一転してあでやかな姿になる。そんなところに魅了されるのだろう。
河口さんに愛用の日傘を見せていただくと、差した姿が何とも涼しげだ。「使う本人だけでなく、見る人にも涼しさを届けられるところが、いかにも日本文化ですよね」(河口さん)

手すきの美濃和紙の和傘を手に、工程を説明してくれる河合幹子さん

この日は、和傘職人の河合幹子さんが和傘を干す作業を見学できた。
河合さんは、和傘制作の組み立てから最後の仕上げまでを担当している。工程をうかがうと、竹でできた部品を糸でつないで骨組みを作り、軒とよばれる部分に紙を張り、平紙や天井を張って、折り目を付け、畳み込み、油を引いて……と細かい手作業が続くことが分かった。
傘に油を引く作業は、傘を閉じて逆さにし、天井の部分を油にどぶんとつける。それを逆さにし、半日ほど置いて、傘を開き残りの部分に油を引く。再度傘を閉じて全体に染み込むのを待つそうだ。その後、干して、塗料を塗り、糸かがりまでして、1カ月に完成する傘は平均すると20本前後。根気のいる仕事だという。
「水の動きで模様を描いた落水紙や、葉をたたき染めしたもの、花柄やストライプなど、さまざまな模様があります。雨傘はポツポツと雨が落ちる音、日傘は日差しで透ける和紙の風合いを楽しんでいただきたい」と河合さんは話す。
開いたときに、紙のしわやたるみ、ゆがみのないシャープな作りを心がけているそうだ。

繊細な糸かがりにため息が出る

川原町には、長良川流域の伝統的な素材や技術を使い、若手作家が生み出した作品を販売する「長良川デパート湊町店」もある。和紙で作ったアクセサリーやおにぎり1個用の竹かごなど、ユニークな作品がそろっている。

緑水庵で伝統の和菓子作りを体験

岐阜市を代表する和菓子の一つ、「鮎(あゆ)菓子」を作る体験ができる店もある。鮎菓子は、カステラ生地で求肥(ぎゅうひ)を包み、鮎型に仕上げたもの。市内約30店で作られているが、味や大きさ、焼き印で付けた表情はそれぞれ異なる。
「和菓子処 緑水庵」もその一軒であり、川原町の北端に立つ緑水庵川原町店では、鮎菓子体験が人気だ。

緑水庵のおかみさんの教えを受けながら鮎菓子作り

用意されたホットプレートで生地を焼き、求肥を入れて包む。鮎型に整えたら、焼印の代わりにチョコレートで顔を描いてできあがり。お店の方がコツを教えてくれるので初めてでも安心だ。

焼きたては、カステラ生地が香ばしく、求肥がもっちりしている。体験は1人5匹作ってワンドリンク付き1030円(要予約。1回4、5人まで、所要約1時間)。ドリンクはソフトクリームやかき氷にも変更できる。中庭のある古民家を利用した店舗で、オリジナルの鮎菓子をゆっくりと味わいたい。

顔を描いてできあがり

川原町にある地元でも人気の名店2軒

川原町界隈には、人気の飲食店も多い。
「cafe&wine池戸」は、築150年以上のかつての材木商の家屋を利用している。磨き込まれて黒光りする床や柱、店舗蔵、中庭など、重厚な建築に目を奪われる。店内で記念撮影していく人も多いという。
肉厚パテを挟んだ名物の池戸バーガーや、日替わりのパスタランチなど、手ごろな値段でボリュームたっぷり。夏にはふわふわの食感のかき氷も人気メニューだ。

「cafe&wine池戸」で、中庭を眺めながらのんびりとランチ

鵜飼観覧船乗り場の近くには、地元でも知る人ぞ知る名店「パンダプールマフィン」がある。金・土・日曜日のみに開店し、その日の朝に焼いたオリジナルマフィンが12~13種類並んでいる。
店主の服部直子さんは「シンプルに素材本来の味を生かしたい」と、卵、乳製品、化学調味料などの添加物を使わずに焼き上げる。「お菓子作りは独学で、自由な発想で作っています。みなさんを驚かせるのが楽しみ」との言葉通り、「玄米甘酒ゆず」「よもぎオレンジつぶあん入り」「トマトバジル」など、見たことのないマフィンが多い。ほとんどの種類を試食できるのだが、しっとりと食感も良くて、ボリュームもある。テイクアウトのみだが、甘くない食事マフィンもあるので昼食にもおやつにもおすすめ。毎月登場する新作も楽しみだ。

卵・乳製品アレルギーの人も食べられる「パンダプールマフィン」の商品

長良川の工芸文化を象徴する大仏様

長良川の文化を体験する旅の締めくくりは、川原町から足を伸ばして岐阜公園近くの正法寺(しょうぼうじ)へ。
大仏殿に鎮座する本尊の岐阜大仏は、長良川流域の工芸技術を結集して制作されたもので、籠(かご)大仏とよばれる。イチョウの木を真柱(しんちゅう)にして骨格を木材で組み、外形は竹を編んだものに粘土を塗っている。その上に経文を書いた和紙を張り、漆と金箔(きんぱく)で仕上げてある。高さ13.63メートルと、乾漆大仏としては日本一の大きさがある。
正面に立つと、大仏様がこちらを見ているような気持ちになる。頭が少し前に傾いているので、まるで大仏様と見つめ合うように参拝できることで知られ、近年、GoogleアプリのCMにも登場して話題になった。
やさしいまなざしに、ほっと心が和んだ。

大仏様は、少しうつむいて参拝者を見ているかのようだ


【問い合わせ】

岐阜観光コンベンション協会
https://www.gifucvb.or.jp/

長良川てしごと町家CASA
岐阜市湊町29
090-8335-9759
11:00~18:00/火・水曜休
https://m.facebook.com/長良川てしごと町家casa-400263947116156/

長良川デパート湊町店
http://nagaragawadepart.net/?mode=f2

緑水庵川原町店
http://www.e-wagasi.co.jp/dango/index.html

cafe&wine池戸
岐阜市玉井町36-1
電話058-214-8136
9:00~19:00(L.O.18:30)*19時以降は予約制/第2・4火曜休

パンダプールマフィン
https://www.pandapoolmuffin.com/

正法寺
http://gifu-daibutsu.com/

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PROFILE

中元千恵子(なかもと・ちえこ)フリーライター

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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