京都ゆるり休日さんぽ

和菓子が映す夏景色 涼を味わう「ZEN CAFE」

  • 文・大橋知沙
  • 2018年7月13日

きらりと光を映す、透きとおったひとかけらを口に運ぶ――。ぷるんと弾んだり、ほろりとくずれたり、詩的な食感でのどをすべり落ちてゆく夏の和菓子は、涼やかで甘美な一服です。

透明な葛で包まれた葛まんじゅうの菓銘は「朱夏」

鮮やかな色彩とともに、葛や寒天といった透明の素材が描く意匠は、見た目からも涼しさを感じられるようにという菓子職人の知恵。冷房のない時代から受け継がれてきた和菓子の「夏服」を目にすると、京都の人々は本格的な暑さの到来を知ります。

祇園の老舗和菓子店、鍵善良房が手がける「ZEN CAFE」

「くずきり」で有名な祇園の和菓子店「鍵善良房」が手がける「ZEN CAFE(ゼンカフェ)」は、そんな季節の歩みに合わせた和菓子の意匠を楽しめる、大人のカフェ。この日「季節の上生菓子」として出されていたのは、鮮やかな桃色の白あんを透明の葛で包んだ葛まんじゅう。夏の和菓子の定番とも言える葛まんじゅうですが、ぬれた笹の葉をそっとほどくという食前の儀式に、心がときめきます。

「季節の上生菓子」(飲み物とセットで1,200円・税込み)。煎茶のほか、コーヒーや紅茶も選べる

時期ごとに変わる上生菓子は、手のひらに乗るほどの小さな立体に、京都の暦を凝縮したようなもの。抽象的な意匠を得意とする京菓子から、その造形や色彩が意味する景色を探ることは、和菓子ならではの楽しみです。また、菓子職人が付ける菓銘(かめい)にもぜひ注目を。例えば、先ほどの葛まんじゅうの菓銘は「朱夏(しゅか)」。目で涼み、舌で味わい、言葉の響きや意味を反芻(はんすう)すると、和菓子の物語の奥深さに魅了されます。

「特製くずもち」(800円・税込み)

「ZEN CAFE」で味わえる、もう一つの涼しげな和菓子が「特製くずもち」。こちらは通年で提供されていますが、夏は葛の透明感とガラスの器が、見た目にもみずみずしい一品です。本店の名物「くずきり」に使用されている素材と同じ、吉野産の本葛を使い、砂糖と水だけで仕上げたシンプルな甘味。ひとさじいただけば、ぷるんと心地よい舌触りととろけるような口溶けに、たちまちとりこになります。

別添えのきなこ、黒蜜を好きなだけかけていただく

江戸時代、18世紀の享保年間には創業し、祇園名物の甘味処として、また伝統的な京菓子の作り手として歴史を歩んできた鍵善良房にとって、「ZEN CAFE」は現代のライフスタイルにフィットした和菓子を提案する新しい場所。アートや北欧のヴィンテージ家具が彩る空間で、喫茶感覚で和菓子を味わうことができます。「喫茶店も京都の一つの文化。改まったお茶席や行列のできる甘味処だけが和菓子をいただく機会ではなく、喫茶店でゆっくりと時を過ごすように、和菓子を味わってもらいたかったんです」と、社長の今西善也さん。

和菓子に合わせる飲み物といえば煎茶や抹茶が定石ですが、こちらの和菓子はコーヒーや紅茶も相性が良いというから新鮮。コーヒーは人気ロースター「中川ワニ珈琲(コーヒー)」にオーダーしたオリジナルブレンドを、紅茶は京都の「椿堂茶舗」が手がける「和紅茶」を使用し、和菓子の甘さを引き立てる銘柄をセレクトしています。

中川ワニ珈琲によるオリジナルブレンドは豆の販売もあり

洋菓子が旬のフルーツや多彩な技法で季節に合わせた品々を展開するのに対し、色や形、質感といった限られた要素で、季節を表現するのが和菓子の世界。それだけに、食す人が作る人の認識を共有することで、和菓子の味わいがいっそう深まります。しかし、まずは難しく考えすぎず、その和菓子の意匠から、夏の景色を想像してみてはいかがでしょう。

カウンターの奥には庭が見える。花のしつらえも美しい

花、山、水の流れや光のきらめき、季節ごとの習わしや行事、時には和歌や古典文学の一節にもリンクする、和菓子の表現の豊かさ。思い浮かべたその風景は、みずみずしい和菓子の味とともに、心にも爽やかな風を運んでくるはずです。(撮影:津久井珠美)

洋書やアート、北欧家具などが彩る落ち着いた空間

ZEN CAFE(ゼンカフェ)
京都市東山区祇園町南側570-210
075-533-8686
11:00~18:00(17:00L.O)
月曜定休(祝日の場合は翌日休)
http://www.kagizen.co.jp

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PROFILE

大橋 知沙

編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブック、カフェ、雑貨などのムック本・書籍を中心に取材・執筆を手がけるほか、手仕事や印刷の分野でも書籍の編集に携わる。主な編集・執筆に『恋するKYOTO雑貨』(成美堂出版)、『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

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