京都ゆるり休日さんぽ

かぐわしき日本の香りにふれる「山田松香木店」の聞香体験

  • 文・大橋知沙
  • 2018年8月10日

香りを味わう「聞香」は室町時代に誕生した文化の一つ

香りを「聞く」。香りの個性に心を傾け、その調べや味わいをゆっくりと反芻(はんすう)することを「聞香(もんこう)」といいます。古くから、お香は日本の信仰や暮らしに欠かせない存在でしたが、香りを鑑賞する「聞香」が文化として花開いたのは室町時代。茶道や華道と同様に、香道にも道具や作法、様式が確立され、徐々に文化として成熟していきました。

香木やお香製品のほか、香原料や生薬なども扱っている

現在では線香や文香(ふみこう)などで親しまれる日本の香りですが、その歴史は「香木(こうぼく)」という樹木の香原料が原点。この香木をたき、香りを聞くという、文化としての聞香を体験できるのが、京都の香道具の老舗「山田松香木店(やまだまつこうぼくてん)」です。いくつかある香りの体験のなかから、今回は「聞香実践体験」に参加。香炉を整え、香木をたき、香りを聞くという、作法と鑑賞を体験できるコースです。

「聞香実践体験」(2,500円・税込み/1名)は月〜金曜の1日3回実施。電話にて要予約

参加者の手元に用意されるのは、香炉と香道具、実際にたく香木がセットされた盆。スタッフの実演を見せていただきながら、香木をたき、聞くという一連の作法を行います。体験する香りは、香木の中でも最上品とされる「伽羅(きゃら)」に加え、香りの性質ごとに6種類に分けられた「六国(りっこく)」の中からもう1種を選ぶことができます。ただ、加熱する前はほとんど香りが立たないので、おすすめの香木を尋ねてみてください。今回は、伽羅との違いがわかりやすいという「真南蛮(まなばん)」をセレクトしました。

香炉の灰を円錐形に整えていく

最初に、香炉の灰を火箸(ひばし)で優しく中央に集め、ほぐしながら小さな山を作っていきます。触れるとほんのり温かい香炉には、火をおこした炭が埋まっています。炭の真上が頂上になるように灰山を作ったら、灰押(はいおさえ)という矢羽型の道具でそっとならし、なだらかな円錐(えんすい)形になるよう整えます。道具を持つ右手は極力動かさず、左手で香炉を回転させることで灰山を形作るという一連の動作は、大変な集中力を要するもの。やってみると、スタッフの方の無駄のないなめらかな動きが、いかに熟練の所作であるかがわかります。

余分な灰をはらい、もう一度灰押さえで整える

灰山ができあがったら、頂上から火箸を垂直に入れ、香木に熱を伝える火窓を開けます。銀葉(ぎんよう)と呼ばれる雲母板(うんもばん)の上にそっと香木をのせたら、ほどなくして奥ゆかしい香りが漂いはじめます。

わずか数ミリの香木から香りが立ち上る

ここからは、香りを聞く時間。左手に香炉をのせ、お茶席の作法のように反時計回りに半周させて正面を外します。香炉を覆うように右手をかぶせたら、そっと顔を近づけ、香りを聞きます。

香りを聞くにも作法が。香炉の正面を外し、顔を近づける

鼻腔(びこう)を抜け、すうっと体の奥にしみてゆくようなつつましい香り。深遠で知的な印象ながらも、どこか懐かしく、遠い記憶を呼び起こすような親密さも感じられます。「伽羅」は楚々(そそ)とした品の中に華やかさが、「真南蛮」はやや甘くスパイシーな余韻が感じられました。

息を吐くときは、顔を脇にそらせる

香木の6種「六国」を聞くとき、香りの性質を味に置き換えた「五味」、すなわち甘、酸、辛、鹹(かん)、苦のうち何種が含まれているかで、その香りを表現します。「六国五味」と呼ばれるこの鑑賞様式は、化学的な分類ではなく、体感的手法で伝承されているそう。初心者が五味を表現するのは至難の業ですが、聞香によって香りが心深くに沈み、第六感を開くかのような感覚はきっと実感できるはずです。

季節のお菓子とお茶のセットは体験後に味わえる

鑑賞後は、香りを取り入れた季節のお菓子とお茶で一休み。薬種商として江戸享保年間に始まった山田松香木店では、香木のほかにもさまざまな香原料を扱っており、お菓子にもそれらをスパイスとして加えています。クローブ、シナモン、アニスなど、身近なスパイスが複雑な香りを紡ぐお菓子は、古来人々の感覚に訴えかけてきた香りの力を伝えてくれます。

線香や匂い袋、蚊やり香など夏に活躍する香製品も豊富

先祖や亡き人の精霊を迎えるお盆には、線香に火をともし、日本古来の香りに触れる機会も多くなります。つつましく深遠な和の香りがもたらす、静謐(せいひつ)なひと時に心を傾けてみてください。さらに一歩進んで、香木の香りや聞香の所作を体験すると、香りがいかに感覚や精神と結びついたものであるか気づくはず。香りに込められた静かなメッセージに、耳をすませてみてはいかがでしょう。(撮影:津久井珠美)

【山田松香木店】
http://www.yamadamatsu.co.jp

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

大橋 知沙

編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブック、カフェ、雑貨などのムック本・書籍を中心に取材・執筆を手がけるほか、手仕事や印刷の分野でも書籍の編集に携わる。主な編集・執筆に『恋するKYOTO雑貨』(成美堂出版)、『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

今、あなたにオススメ

Pickup!