あの街の素顔

倉敷・美観地区の今を歩く、岡山の夏旅

  • 文・写真 干川美奈子
  • 2018年8月16日

美観地区を流れる倉敷川。川舟乗車は外国人客にも人気だ

7月7日、8日の西日本豪雨で被災された皆さまに、心よりお見舞いを申し上げます。

岡山県内の被災していない地域まで観光客が激減しているというニュースを知り(県によると、7月6日~18日の宿泊施設のキャンセルは推計約10万人、キャンセルによる減収額は推計約10億円)、旅が少しでも応援になればという気持ちでさまざまな店を取材させていただいた。

倉敷・美観地区はこの町を愛する人が歴史を引き継いでいた

歩き疲れたら人力車に乗って町を巡るのもいい

倉敷市の美観地区。岡山県のガイドブックでは真っ先にとりあげられる観光地だ。

1877(明治10)年にこの地で創業した和菓子屋「橘香堂(きっこうどう)」の四代目・吉本豪之社長によると「僕が大学生になる頃(1969年)に倉敷市が街並みを保存しようと、美観地区ができて、観光地化が進んでいった」という。吉本社長は倉敷観光コンベンションビューローの会長を務めたこともあり、倉敷川に浮かぶ川舟の発案者でもある。

倉敷の街づくりに積極的に取り組み続けている吉本社長に7月7日、8日の豪雨災害について聞くと、「避難した人たちもいたけど、このあたりは被害がなかったから月曜日にはみんな戻ってきた。でも、あれから美観地区は観光客が本当に少なくなってしまった。外国の方たちは日程をずらせないから来てくれるけど、日本人観光客はまだまだ。夏休みにこんなに人がいない美観地区は初めてだよ」と話してくれた。

話し上手で、過去の話でも年代まで記憶されていた橘香堂の吉本豪之社長

7月9日月曜日に撮影したという写真を見せてもらうと、晴天の美観地区の通りには、誰一人歩いていなかった。取材に行った7月最終週も歩いている観光客はまばらで、そのほとんどが外国人だった。川舟の船頭も人力車の車夫も、人が通るたびに声をかけていた。橘香堂を含めた美観地区の店では義援金ボックスを設置しているところが多く、「倉敷国際ホテル」と「料理旅館 鶴形」では、真備町などに避難している人たちに、入浴場所を提供していた。

シンプルだからこそ難儀する手作り菓子体験、「橘香堂」

「むらすゞめ」の手焼き体験。鉄板が熱いので皮をひっくり返すのが大変だった

橘香堂で看板商品、「むらすゞめ」の手焼き体験をさせてもらった。薄い皮に餡(あん)が入った和菓子なので、皮を焼いて粒餡を乗せ、皮を半分に折るだけなのだが、やってみると意外と難しい。180度以上の鉄板で焼いた皮を素手で裏返すだけで至難の業。1回の体験で3個作れるのだが、皮の厚みもサイズも同じにはならず、不格好な「むらすゞめ」になった。

左手前が販売している商品。左奥は私が作った通常サイズ。右側はジャンボサイズで、餡(あん)に白玉が入っている

単調に見えるが、皮の薄さを均等に丸くするのも、職人さんの技なのだと納得。出来上がった「むらすゞめ」は、そのまま食べると表面が少しパリッとしていた。時間が経つとしっとりするので、その変化も楽しめた。「むらすゞめ」手焼き体験は一人3個600円。特大サイズで白玉だんご入りの餡を使う「ジャンボむらすゞめ」手焼き体験は一人1個1200円。

江戸時代の街並みになじむ、デニム着物、レンタル着物店「倉敷着物小町」

美観地区を生かせる仕事をとレンタル着物店を開店した寺尾一弘代表

倉敷駅前から続く道沿いで見つけたのは、レンタル着物店「倉敷着物小町 倉敷駅前本店」。この店では、好きな着物や浴衣を小物とセットで借りられ着付けもしてくれる。美観地区でも着物を着て歩いている外国人客を見つけた。男女問わず人気なのが国産ジーンズ発祥の地、倉敷市児島産のデニム生地で作った「デニム着物」だという。

濃い色のデニム着物に、同系色のグラデーションがきれいな帯を合わせてもらった

次の予約の方もいたのでレンタルすることはできなかったが、私が試着に選んだのは、袖の部分だけ柄が入ったデニム生地の着物だ。しかし、「もし悩んでいるとしたら、僕ならこれをお薦めしますね」と同店の寺尾一弘代表が見立ててくれたのは、濃いめの無地のデニム着物。しかも、帯もグラデーションの地味目のものだ。柄ものや色の濃い配色が好きな自分だったら選ばない組み合わせだが、羽織らせてもらうと、逆に帯がひきたって年相応の上品さがあるように感じる。

下駄(げた)や小物まで貸してもらえるので、気軽に利用する旅行客も多い

寺尾代表は広島出身で、かつて大手住宅メーカーに勤務し倉敷へ赴任した。その時に美観地区の江戸時代から続く街並みに引かれたという。「ここでなにか仕事をしたいと思ったとき、和装姿の人がいないことに気づきました。そこで観光客に『着物をレンタルできたら、この町を着物で歩きたいか』とアンケートをとったところ、おおむね着てみたいという回答が得られたんです」。店は2010年にオープンし、販売も行っている。価格は日中のレンタル(着付け込み)で、デニム着物5940円、デニム以外の着物(女性用)3780円。

その日の気分でチョイスするコーヒーと豪華アフタヌーンティー、「kobacoffee(コバコーヒー)」

おいしいコーヒーを探求し続ける「Kobacoffee」の小林恭一店長

倉敷川沿いにあり、築約200年の古民家をリノベーションした「クラシキ庭苑」には数店舗が軒を連ねる。その奥に隠れ家のようにあったのが喫茶店の「kobacoffee(コバコーヒー)」だ。自家焙煎(ばいせん)豆販売店の店長をしていた小林恭一さんが、コーヒーを楽しめる店を作りたいと5年前にオープンした。

オリジナルブレンドやストレートコーヒーなど、豆を選んだ後に、抽出器具(ペーパー、フレンチプレス、サイホン)を選ぶのが特徴。同じ豆でも全く違う味わいになるという。「ペーパーはすっきり、サイホンは刺激があり、フレンチプレスはどっしりとした味わいです」。

サイホンでコーヒーを入れてもらう

9月末日までは、岡山産の桃やぶどうがたっぷり盛られたアフタヌーンティー(写真は2名分)がおすすめだそう。一人2500円で500円までのコーヒーや紅茶がつく(500円以上の商品も差額を払えば注文できる)。「倉敷川には白鳥がいるので、スワン型のシュークリームも乗せました」。土産用のドリップコーヒーの中には、「復興コーヒー」(120円)もあり、売り上げの一部を倉敷市や岡山県に寄付するという。

スイーツのほか、フレッシュフルーツやサンドイッチまでついた豪華なアフタヌーンティー

ダンディーな小林さんに、帰りしなに倉敷の好きな場所を聞いた。「美観地区にある阿智神社から見た月がきれいですよ。いつかそこから満月の写真を撮ってみたいと思っています。デートなら、瀬戸内海沿い・水島のコンビナート地区の夜景もおすすめです」。

アフタヌーンティーのスワンシュークリームのモデルにもなった倉敷川の白鳥

スタッフがよりすぐった品々で作り上げた店舗「美観堂」

美観堂は築100年の古民家カフェ&ゲストハウス・有鄰庵の隣にある

岡山県内産のいいものを取りそろえたセレクトショップ「美観堂(びかんどう)」。スタッフが県内のさまざまな店や生産地を巡り、これはと思った商品を仕入れて、販売している。

店長の蓮見夏季さんは埼玉県出身。美観堂と同じ会社が運営しているゲストハウス「有鄰庵(ゆうりんあん)」に泊まりに来て、美観堂の立ち上げスタッフ募集を知ったことが移住のきっかけになったという。

美観堂の立ち上げスタッフとして移住した蓮見夏季店長

おすすめ商品の一つ、「美観堂謹製黄ニラしょうゆ」(1150円)は、有鄰庵カフェの「たまごかけごはん」にかけるしょうゆとして、倉敷にある「とら醤油」とコラボレーションをして作った。これを販売用に商品化したものだ。「黄ニラは青いニラよりも甘さがあります。甘みを生かしただしじょうゆに刻んで入れて作ってもらっています。うどんなどにかけてもおいしいんですよ」。

倉敷の「とら醤油」とコラボしたという人気商品「美観堂謹製黄ニラしょうゆ」(写真は新ラベル)

オリジナル商品以外でも、土に色付けする製法でピンクや水色の備前焼を作る「出(いずる)製陶の盃(さかずき)」(3240円)、 ユニークなだるまのパッケージの柚子胡椒 (ゆずこしょう)「吹屋の紅だるま」(600円)など、さまざまな商品が置かれているので、どんどん時間が過ぎていく。次の旅の行き先を、ここで気になった商品を作っている地域にしてみるのもいいかもしれない。

ピンクやブルーなどカラフルな備前焼の作品も

岡山県高梁市産の素材を使った柚子胡椒(ゆずこしょう)「吹屋の紅だるま」(600円)

「美観地区は観光地と思われがちですが、生活をしている人も多い町です。伝統的な町並みを保存しながらも、新しいカフェや店舗もあって、うまく融合しています。幅広い層の方にくつろいでいただけると思いますよ。夜は街並みがライトアップされるので、とてもきれいです」

倉敷の総鎮守、阿智神社へ続く道

児島の帆布は国内シェア7割。布から作る帆布かばん店「倉敷帆布」

倉敷帆布の堀和美店長(右)と店舗スタッフ

倉敷の海沿いに位置する児島はジーンズの街としても有名だが、そもそもは潮風に吹かれてもよく育つことから綿花が作られるようになり、繊維の街として発展してきた。

「倉敷帆布」はその児島で、綿100%の糸を撚(よ)り合わせて帆布の生地を作り、その生地でかばんなどの商品を製造・販売している。

「児島では、大正時代から帆布作りの歴史があり、現在は国内の帆布の7割が作られています。帆布は使い込むごとになじんで、色や手触りにいい味が出てくるんです」と教えてくれたのは、美観地区店の堀和美店長。帆布はカジュアルなイメージだったが、ビジネスでも使いやすそうな皮と組み合わせたデザインのかばんもあった。

カラフルな帆布のかばん。持ち手に革を使っているものなどもあり、使い勝手が良さそう

取材時には入り口に跳び箱のディスプレーがあり、なぜ? と思っていたところ、跳び箱の手をつく部分の布は帆布で作られているそう。8月2日の「帆布の日」にちなんで、跳び箱型の収納箱「跳び箱BOX」を数量限定販売しているとのこと。

さりげないこだわりがつまった国産帽子、「襟立製帽所」

本町通り。美観地区には商人や職人たちが暮らしていた町家が点在する

「美観堂」や「倉敷帆布」と同じ本町通りに、落ち着いた雰囲気の帽子屋を発見した。入り口のガラス戸に「襟立製帽所」とあり、店内をのぞくと夏向けの麦わら帽子やハット、キャスケット、ベレー、キャップなど、さまざまなデザインの帽子が飾られている。吸い寄せられるように入店すると、デザイナーの小立(おだち)真理乃さんが、笑顔で迎えてくれた。

「オリジナルデザインの帽子を作り、自社のオリジナル商品を中心に販売をしています。日常使いしてもらいたいので、とっぴすぎるデザインではなく、さりげない工夫をほどこしたものが多いです。生地はできるだけ岡山のものを使用しています」

島根出身の小立さんは、もともと物を作るのが好きで、同店で帽子デザイナーの道を歩み始めたのだという。

襟立製帽所・デザイナーの小立真理乃さん

話を聞きながら一つひとつをよく見ると、ハットの頂点部分にかわいらしいボタンをつけたり、ワンポイントの刺繍(ししゅう)がほどこしてあったり、刺し子の生地を使っていたりと、派手過ぎず、さりげないセンスの良さと、職人さんのこだわりを感じた。

濃いデニム生地のハットや真田紐(ひも)を巻いて作られたハット、コーヒー袋を使ったハンチングなどもあった。メンズ、レディース、ユニセックスと種類も豊富で価格帯は8000円台くらいから。ほとんどが一点ものだという。

女性向け、男性向けともに豊富で、さまざまな形や色、デザインの帽子が並ぶ

周辺にあと2店舗あり、同じ通り沿いにある「クラシキクラフトワークビレッジ」内の店舗では帽子だけでなく洋服も取りそろえていて、「kobacoffee」のある「クラシキ庭苑」の2階では帽子のセミオーダーができるそうだ。次に訪れるときにはゆっくり相談に来たいと思った。

初めて行った倉敷・美観地区は、予想していたよりもずっと広くて個性的なお店も多く、半日ではとても見て回れなかった。次回はぜひとも宿泊し、夕暮れからのライトアップや阿智神社からの景色を眺めてみたい。

<「桃づくし、岡山市内の今を巡る夏旅」に続く>

■取材協力
橘香堂
倉敷着物小町
kobacoffee
美観堂
倉敷帆布
襟立製帽所

PROFILE

干川美奈子

干川美奈子(ほしかわ・みなこ)
編集者・ライター
10代後半から英語が公用語でない国を中心に海外チープ&ディープ旅をスタート。情報誌、海外ウェディング誌、クルーズ専門誌、女性向けビジネス誌などで旅記事を執筆。「プレジデントFamily」「プレジデント」をはじめとした編集部在籍経験を活かし、普段はビジネス、芸能、マネー、子育て、インタビューなど、雑誌・WEBの一般記事の編集・執筆に携わる。

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