楽しいひとり温泉

温泉+本 温泉と本にひたれる一夜 「神奈川県・中強羅温泉」

  • 文・写真 温泉ビューティ研究家・トラベルジャーナリスト 石井宏子
  • 2018年8月21日

箱根本箱のロビー。本棚がテーマごとに選書されている

ひとりで温泉に泊まっても、どうやって過ごしたらいいか分からない。ひとり温泉なんて、寂しくないの? 暇すぎない? 自分の居場所がわからないし……なんて、まだ、初めの一歩を踏み出せずにいる方もいらっしゃることでしょう。そんな心配を吹き飛ばす、待ちに待ったこんな宿が箱根に誕生しました。その名は「箱根本箱」。8月1日にオープンしたばかりの新しい宿です。

箱根登山電車で強羅まで行き、ケーブルカーに乗り換えて中強羅駅で下車。そこから徒歩ですぐですから、ひとりで気軽に出かけられます。宿のドアが開くと、驚きの光景。吹き抜けの天井まで、本、本、本。そう、ここは、本と温泉にひたるブックホテルなのです。

全室に温泉露天風呂とその部屋だけの本箱がある

お部屋は6タイプ18室。全室に温泉露天風呂があります。ひとり温泉の場合は、オフィシャルサイト限定の「ひとり割プラン」で4タイプの部屋から選べます。ちなみにこの部屋は2階のマウンテンビューツイン。お部屋の露天風呂から箱根外輪山や明星ケ岳の大文字が眺められます。

それぞれの部屋のインテリアが異なるので、どんな部屋になるかも楽しみです。部屋のもう一つのお楽しみは、「あの人の本箱」。本が好きな著名人や本の専門家などが選んだ本が並ぶ唯一無二の本棚がその部屋だけに備わっているんです。本棚の上にそっと置かれた「○○さんの本箱」のしおり。あ! わたしの好きな本と同じだ。なんて、ちょっと親近感を感じたりして、なかなか楽しいです。

2種類の源泉が別々の湯船に注がれている男女別大浴場

温泉は、なんと、2種類を別々の浴槽で入り比べができます。露天風呂には、大涌谷から引いた仙石原温泉の酸性-ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉。ふわっと硫黄の香り、白い湯の花もふわふわ。程よい刺激で肌を活性化させて、血行促進してくれます。内湯では、強羅温泉のナトリウム-塩化物泉。こちらはアルカリ性でつるりとした感触。塩の働きでぽかぽかと温まります。二つの温泉をいったりきたりして美肌磨きをしたら、いよいよ、館内を探索です。

こんな隠れ部屋が宿のあちこちに

宿の中には、あちこちに本を楽しむ場所が隠れています。秘密めいたドアをあけると小部屋が。窓辺には詩集がずらりと並んでいました。そして、それぞれの場所の本のセレクションが秀逸! たとえば、大浴場の入り口の横にある本棚にはお風呂や温泉や体に関する本がそろっています。隠れた本棚を見つける楽しさだけでなく、それぞれの選書にテーマ性があるので、つい立ち止まって、本を手に取り、そこにある椅子に座って知らないうちに読みふける……。あっという間に時間が過ぎていきます。

ロビーの大きな本棚の中にも隠し部屋が

ああ。崖っぷちのような場所に、まさに、わたしを待っていた本がありました。そう。物書きにとっては禁断の名作「〆切本」です。作家さんたちの締め切りにまつわるエピソードを集めた本です。こういう場所に逃げ込みたくなったのだろうなあ。かの大作家さん達も……。

本棚の中に入って本を読む、楽しすぎる仕掛け

ロビーの巨大な本棚には、中に入り込める場所がいくつもあるんです。本棚の中をのぞくと、「あれ? なんか階段がある」とか、「あら。ちょうどいいベンチがある」なんて、中へ入ってみると、外からはわからなかった隠れた本箱を見つけて、心ひかれる1冊の本に出会えることもあります。

そういえば、しばらく、こんなふうにして本に出会う時間を持っていなかったことに気が付きました。興味のあるもの、今すぐ必要なものだけに囲まれて過ごす日々の中で、知らないうちに小さな枠にはまっていたような気がします。その枠をはずしてみると、自分が考えている以上に自分が触れ合える可能性のある世界は広いのだ、と気づかされます。温泉宿という心も体も脳もゆったりとする場所だからこそ成せる業なのかもしれません。

ちなみに、本は全て部屋に持っていって読んでもいいし、気に入った本があれば購入することもできます。重ければ、注文だけして自宅へデリバリーも可能。

座りやすい皮のチェアに感激したオープンカウンター

温泉と本にまみれているうちに、もうディナーの時間です。個室もありますが、オープンキッチンのカウンターは、ひとりごはんの強い味方です。シェフたちの様子を眺めたり、カウンターの中にいるスタッフの方たちとおしゃべりできたりするので、楽しく食事をすることができます。

奥の壁に見えるのはブックアート。ローマ在住の作家、エカテリーナ・パニカノーヴァさんの作品は日本初上陸、古書や古いノートなどをベースにしてその上にペイントするダイナミックなアートです。

佐々木シェフのイタリアンは近隣の有機野菜中心

佐々木祐治シェフの自然派イタリアンは、箱根のローカルガストロノミーを追求。神奈川や静岡の有機野菜やかんきつ、相模湾や駿河湾の魚介、伊豆のジビエなど、箱根を起点とした美食の晩餐(ばんさん)。

この日のアミューズは3種。箱根の森を感じさせる切り株の板、手前のナスの葉っぱの上にあるのは、野菜のタルトレット。甘くとろける揚げナスとほろ苦いパプリカ、緑トマトのジュレの酸味がアクセントです。奥のトマトの葉からのぞいているのは緑ピーマン、中にはオクラのバーニャカウダが詰まっています。奥はナスのスープ。夏のお楽しみです。

肉厚のカツオをほろ苦いハーブが引き立てる

こちらは焼津産の活け〆カツオ。ディルの花とエシャロット、若摘みのピーマンをマリネした酸味のあるトッピングが爽やか。グラスで頼めるワインは、スパークリング、白、赤がそれぞれ2種類あるので、ひとりディナーでも好みの味わいのワインがいただけて幸せです。

この日のメインは伊豆産の夏鹿ロース

キッチンで手打ちしているパスタは、天城シャモと梨のタリアテッレ。そして、魚料理はワサビ棚で育てたアマゴ(ヤマメ)。リコッタチーズとキュウリとのマリアージュが絶妙でした。肉料理は伊豆産の夏鹿ロース。夏鹿は草をたくさん食べているので軽やかな味わい。

オカヒジキのしゃきっとした食感もおいしいし、鹿肉にはルバーブのピュレや、ビーツとブルーベリーのハチミツソースをのせると、驚くほど違う味わいになって、とても楽しい美食でした。さて。今夜はどの本を読もうかな。

■「楽しいひとり温泉」ポイント
1.本を探索してあっという間に時が過ぎる
2.2種類の温泉を入り比べ
3.自然派イタリアンがとてもおいしい

箱根本箱
http://hakonehonbako.com/

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PROFILE

石井宏子(いしい・ひろこ)

いしいひろこ

温泉ビューティー研究家・トラベルジャーナリスト。日本・世界の温泉や大自然を旅して写真撮影・執筆をする旅行作家。テレビにも出演。温泉・自然・食で美しくなる旅を研究する。海外ブランドのマーケティング・広報の経験から温泉地の企画や研修もサポート。日本温泉気候物理医学会会員、日本温泉科学会会員、日本旅のペンクラブ会員、気候療法士(ドイツ)、温泉入浴指導員。著書「癒されてきれいになる おひとりさま温泉」(朝日新聞出版)「地球のチカラをチャージ! 海温泉 山温泉 花温泉 76」(マガジンハウス)ほか。公式サイトhttp://www.onsenbeauty.com

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