あの街の素顔

豪華寝台列車「ザ・ガン」でゆく、オーストラリア縦断3000キロの旅

  • 文・写真・動画=鈴木博美
  • 2018年8月28日

オーストラリア大陸縦断の壮大な旅の始まり

赤道直下、オーストラリア最北端に位置する街ダーウィンから、キャサリン、アリススプリングズ、クーバー・ペディを走り抜け、南極海に面した都市アデレードへ。広大なアウトバックを南北に貫く豪華寝台列車「ザ・ガン」が、オーストラリアのまだ見ぬ地へと誘う。

ダーウィンからアデレードへアウトバックを駆け抜ける「ザ・ガン」

日本列島とほぼ同じ長さとなる総走行距離2979キロを走破するザ・ガン。オーストラリアにとって南北を結ぶこの鉄道は、イギリス統治時代からの長年の夢であり、責務であった。その試みが初めて行われたのが1878年、ダーウィンまでの開通が2004年というから、実現するまでに100年以上の歳月がかかったことになる。それだけ灼熱(しゃくねつ)の赤い大地が広がる内陸部の自然を開拓するのは厳しいということだろう。そんな夢を現実としたザ・ガンは、現在4コースが設定されている。今回は3泊4日の最長泊数を誇る「ザ・ガン・エクスペディション」に乗り込んだ。

ダーウィンの駅で乗客を待つ「ザ・ガン」

1日目。まずは列車内をチェック、ニトミルク国立公園でリバークルーズ

ザ・ガン・エクスペディションの旅は、ダーウィンの町外れの小さな駅から始まる。ホームでは、最後尾が見えないほどの車両を連結するザ・ガンが待っていた。簡単なチェックインを済ませてキャビンへ入ると、車両コンシェルジュがあいさつに訪れる。

ザ・ガン・エクスペディションではプラチナクラスとゴールドクラスの二つのカテゴリーがあり、車両ごとに専用のコンシェルジュがいるので何かとありがたい。ゴールドサービスの部屋は、ラウンジシートが2段ベッドの寝台に変わる個室で電源も十分にある。シャワーやトイレ、バスアメニティーも完備。大きなピクチャーウィンドーからの眺めも良く快適だ。

またどちらのクラスも行程中の列車内での全食事にアルコールを含めたドリンク類、また停車駅ごとのオフトレイン・エクスカージョンも一部を除いて料金に含まれているので、これから3日間はお財布をしまっておけるというのもうれしい。

居心地がよく設備が整った客室。大きな窓から景色の移りゆきを楽しめる

クラシックな雰囲気の「クイーン・アデレード・レストラン」

ザ・ガンは、50人のクルーと238人のゲストを乗せ、約300キロ南のキャサリンへ向けて駅を滑り出た。「アウトバック・エクスプローラー・ラウンジ」では、知り合ったばかりとは思えないほどゲスト同士の会話が弾んでいる。これも限られた空間を共にする鉄道旅のだいご味だろう。

ほどなくランチとなった。隣のテーブルには、常連客とおぼしき初老の紳士が一人、食事をしながら分厚いペーパーバックの小説を読みふけっている。食後のデザートに3スクープのチョコレートアイスクリームとは、ずいぶんと頑丈な胃袋だと眺めていたら、ほとんどのゲストが同じものを食べていた。アイスクリームの年間消費量が常にトップ3に位置するオーストラリアの実態を見せつけられた。

ニトミルク渓谷

ランチが終わる頃、最初の停車駅となるキャサリンに到着した。ここはニトミルク国立公園の玄関口。オフトレイン・エクスカージョンのひとつ、大渓谷を流れるキャサリン川を進むクルーズ旅に出発だ。しばらくすると川岸に体長2メートルほどのワニがいた。この辺りに生息するオーストラリア・ワニという固有種だ。人間には無害のおとなしいワニゆえに乱獲され、現在は保護の対象とされているそうだ。またこのエリアにはアボリジナルピープルの文化が色濃く残り、古いもので3万年も前に描かれたロック・アート(壁画)も残っている。

ニトミルク渓谷を流れるキャサリン川でクルーズ

アボリジナルピープルのロック・アート

ディナーは前菜、メイン、デザートの3品

オフトレイン・エクスカージョンから戻り、太陽が地平線に沈む頃、ディナーの時間がやってくる。専任シェフによる3コースが用意されるが、「ザ・ガン」はヨーロッパの豪華寝台列車のように正装が求められないので肩ひじ張らなくていい。本日の注文は、ゴートチーズのスフレ、骨付き牛リブ肉の煮込み、ジンジャー&マカダミア・プディング。料理はいずれもオーストラリア産の食材にこだわり、味もプレゼンテーションも一流だ。狭く揺れる厨房(ちゅうぼう)でこれだけのものを提供するには、地上とは異なる工夫と技術が必要だろう。そんな一皿、一皿からも「ザ・ガン」のホスピタリティーがうかがえる。

ディナーの間にベッドメイキングが終わっている

ディナーを終えてキャビンに戻ると、昼間の客室とは様相が変わっていた。座り心地の良かったラウンジシートはベッドに早変わり。チョコレートと絵はがきのセットが添えられていた。これから次の停車駅となるアリススプリングズまで一晩中走り続けるザ・ガン。上質なリネンとふかふか枕のおかげで、朝までぐっすり眠ることができた。

2日目。ウェストマクドネル国立公園でデザート・ウォーク、オージーパワーに脱帽の夜

車窓から見えた朝焼け

目覚めてブラインドを上げると、空と乾いた草がひたすら続くアウトバックの大地が赤く染まっている。地平線から大きな朝日が昇ってきた。いよいよオーストラリアらしい風景になってきた。朝食を食べ終える頃には、オーストラリア大陸のど真ん中、アリススプリングズに到着する。

アリススプリングズの駅

アリススプリングズは広大なアウトバックに築かれた最初の街。ところで、「ザ・ガン」とは変わった名称だが、これはオーストラリアでよく使われている省略名だ。19世紀の後半、当時、未開であったこの地に電信中継所を設置するため、輸送力としてアフガニスタンから1万頭のラクダが調教師とともに連れてこられた。ザ・ガンの名称やロゴマークは、未開の内陸部を切り開いたこのラクダたちに敬意を表し「アフガニスタン」が「アフガン」、さらに省略され、そこに「The」をつけて「ザ・ガン」となった。

ウェストマクドネル国立公園の雄大な景色

2日目は終日オフトレイン・エクスカージョンとなる。まずは3億年という時が刻まれたウェストマクドネル国立公園内でのデザート・ウォークに参加した。公園専属のレンジャーとともに歩くアウトバックは、砂漠に根づく植生や地層などが興味深い。また浸食によって左右に割れたシンプソンズ・ギャップ(峡谷)は、6000万年の年月が創り上げた自然の造形美に圧倒される。きれいなカーブを描く赤い岩と澄んだ青空のコントラストが美しい。

この付近にはロック・ワラビーも生息しており、体色が周囲の岩と同じ色をしているのでわかりにくいが、よく見ると岩の脇でじっとたたずんでいる。時折後ろ足で頭をかいている姿が可愛らしい。

シンプソンズ・ギャップ

小ぶりなロック・ワラビー

アリススプリングズ・テレグラフ・ステーション歴史保護区でのBBQ

今宵(こよい)はアリススプリングズ・テレグラフ・ステーション歴史保護区(旧電信中継所)で、オージースタイルのBBQナイトだ。ここは大陸縦断約3000kmの電信網の中継所として、アウトバックに初めて白人が入植した場所であり、イギリスとオーストラリアをつないだ、オーストラリア史の中でも極めて重要な史跡となる。そんなテレグラフ・ステーション歴史保護地区を貸し切りBBQとはなんとぜいたく! 南十字星が輝く満天の星空の下、食べて飲んで、バンドが演奏する往年のヒット曲に合わせて無邪気に踊るオーストラリア人の姿。参加者の平均年齢が70歳を超えているとはとても思えない。オージーパワーに脱帽の夜だった。

3日目。まるで「地底都市」、映画「マッドマックス」のロケ地にもなった世界最大のオパールの産地へ

SF映画のセットのような世界が広がるクーバー・ペディ

3日目、最後の停車駅となるクーバー・ペディは、色鮮やかにも見える荒涼とした大地が続き、所々に地面を掘った穴が開いている。ここは世界最大のオパールの産地であり、一獲千金を求めて世界各地から人が集まり、その採掘で生計を立てている。夏は気温が50度、冬は零度以下にもなるという厳しい環境から、生活する住民の半分はオパール採掘跡の穴を利用したダッグアウトハウスと呼ばれる洞窟に住み、地下の坑道で働く生活を送っている「地底都市」なのだ。

クーバー・ペディでのオフトレイン・エクスカージョンは、映画「マッドマックス/サンダードーム」や「プリシラ」のロケ地ともなった、まるで異星にきてしまったようなクーバー・ペディの風景や地下都市、オパール坑道跡を一日かけて見学する。坑道跡では、今も砂岩の層と層の間にオパールの原石が輝いている。「こっそり掘って山分けしましょう」。隣のご婦人が耳元でささやいた。

坑道跡を住居にしたダッグアウトハウス

地下教会

たき火を囲んでサンセット・カクテルパーティー

列車に戻ると乗車口前でザ・ガンのスタッフがワインとオードブルを用意して待っていた。この旅の最後の晩餐(ばんさん)前にサンセット・カクテルパーティーをという趣向だ。名残惜しいが荒涼とした赤茶けた大地が広がるアウトバックの景色ともこれでお別れ。

「クイーンアデレードレストラン」で最後のディナー

最後のディナーでは、食事中に突然照明が落ちるハプニングが起きた。すぐに照明は戻ったが、その間に一人のご婦人に誕生日ケーキが歌とともに運ばれてきた。ダイニングカーに居合わせた乗客全員でバースデーソングを歌い、拍手とともに心から祝福をした。これも約3000キロをともにした「ザ・ガン」で結ばれた縁、鉄道旅のだいご味と言えるだろう。

4日目。3000キロの旅をともにした乗客同士の絆と別れ

目覚めると赤い大地から草原の風景に変わっていた

最終日となる4日目の朝、目が覚めると今まで見慣れた赤土の荒野から緑が映える牧草地帯の景色に変わっていた。朝食を済ませる頃には家並みが続く街らしい景観に変わり、ちょっとした寂しさを覚える。終着駅のアデレードはもう近いようだ。

午前10時過ぎ、アウトバックの自然と歴史に触れた「ザ・ガン・エクスペディション」の旅は終わった。乗客はスーツケースを下ろし出会った多くの人と両ほおを寄せて、これから先の旅の安全を祈り、別れを惜しむ。充実した3泊4日の豪華列車旅だった。

アデレードのセントラル・マーケット内

終着地のアデレードは、アウトバック開拓の基点となった美しい都市だ。ワインと食文化でも有名なアデレードで、真っ先に向かったのは生鮮食品やグルメスタンドがひしめくセントラル・マーケット。巨大なマーケット内を歩いていると、どこからか大きな声で呼び止められた。振り向くとそこには、ついさっき別れを惜しんだばかりの旅の同士たちが、早くもビーフサンドと赤ワインを楽しんでいるではないか。考えることはみな同じだ。早々の再会に驚き、そしてもう一度ほおを寄せ合い、またどこかで再会することを願った。

【動画】豪華寝台列車「ザ・ガン」でゆく、オーストラリア縦断3000キロの旅

■取材協力
オーストラリア政府観光局
Great Southern Rail

PROFILE

鈴木博美

鈴木博美
旅行業界で15年間の勤務を経てフリーの旅行家に。旅を通じて食や文化、風土を執筆。日本航空機内誌のほか、新聞雑誌等に海外各地の旅の記事を寄稿。著書に一人旅に役立つ電子書籍「OL一人旅レシピ」インド編、ベトナム・カンボジア編、エジプト編、世界中のおいしい料理をおうちで作る「いつもの食材で作る世界の料理レシピ」。ブログ「空想地球旅行」で旅のあれこれを発信中。

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