あの街の素顔

オーストラリアのガラパゴス、カンガルー島で野生動物たちと出合う旅

  • 文・写真 鈴木博美
  • 2018年8月30日

野生のオーストラリア・アシカが生息するシールベイ

カンガルー島だなんて、聞いただけで行ってみたくなるネーミングだ。南オーストラリア州の州都アデレードから、定員30名ほどの双発のプロペラ機で約25分。南極海に浮かぶカンガルー島は、“オーストラリアのガラパゴス”と称される、知る人ぞ知る野生動物の宝庫。

それもそのはず、オーストラリア大陸から分裂してできたカンガルー島は、太古にあったゴンドワナ大陸時代から続く手つかずの大自然が残る。少なくとも1万6000年前にはアボリジナルピープルがいたとされるが姿を消している。1802年にイギリス人が上陸するまで、広く知られることはなく、独自の生態系が育まれてきた貴重な島なのだ。

ゴンドワナ大陸の時代から存在する大きな岩

そんなカンガルー島は、島とはいえ、総面積は東京都の約2倍。その1/3が特別保護区に指定されている。オーストラリアらしい、カンガルーやコアラ、アザラシなどの野生動物がゴロゴロ寝そべっているという話を聞き、ならばと、そんな動物たちとの出合いを求め、アデレードからカンガルー島へと足を伸ばした。

遊歩道から望むキングスコート町並み

町中を散歩するだけで出合う野生動物

島の人口は約4000人、そのほとんどが空港のあるキングスコート周辺に住んでいる。この島最大の町とはいえ、中心部は歩いて回れる程度の広さ、木よりも高い建物も皆無だ。

朝、ホテルのベランダから青く澄んだ海を眺めていると、黒い物体が浮いたり沈んだりしている。外に出て近くまで行ってみると、数頭のアシカとオットセイだった。しばらくすると桟橋に上がって寝てしまった。

街頭にはカモメではなく、ペリカンが止まって風に向かって翼を広げている。大きすぎてちょっと怖いくらいだ。海沿いに整備された遊歩道を散歩すると、赤や緑色のインコが頭上を飛び交い、コクチョウの群が波間に浮かんでいる。カンガルー島は、つかの間の散歩で動物園でしか見たことがないような生き物に出合えるすごいところだ。それもヒトの住む町の港で。

桟橋に上がってきたアシカ

翼を広げると幅が約2メートルほどにもなるコシグロペリカン

手つかずの自然が残るカンガルー島は、個人でレンタカーを借りて巡ることも可能だが、専門ガイドによるツアーに参加する方が、効率的にポイントをまわることができ、野生動物と出合える可能性も高いのでオススメ。ただし英語ガイドとなる。

カンガルー同士のケンカ。ヘッドロックでもかける気だろうか

午前9時45分、ツアーに参加するため送迎車でユーカリオイル精製所へ向かった。ここでアデレードからの日帰り組と合流するのだが、お店の裏に広がるユーカリ畑で、なんとケンカ中のカンガルーに遭遇した。幸い一段高いテラスにいたのでカンガルーのケンカに巻き込まれることはなかったが、前脚で首をつかみ、後脚で蹴り飛ばす技をくりだしていた。

待ち合わせた大型バスに乗り込み座席に腰をかけると、肩をたたかれた。振り向くと、カンガルー島を訪れる前に乗車したオーストラリア縦断列車「ザ・ガン」で親しくなったご夫婦だった。こんな偶然もあるのか。旅はやはり面白いものだ。

野生のオーストラリア・アシカを観察、「シールベイ自然保護区」

波打ち際で戯れるオーストラリア・アシカ

最初に訪れたのは島の南に位置するシールベイ自然保護区。ここは1000頭ほどの野生のオーストラリア・アシカが生息する。保護区内ということもあり、勝手に歩くことはできない。専任ガイドとともに歩き、指示に従って砂浜で戯れるアシカの姿を観察する。

オーストラリア・アシカは、通常、3日間を海で餌を取ることに費やし、次の餌探しのために海岸で3日間休息するのだそうだ。砂浜で寝転ぶ姿はなんとも愛くるしい。オーストラリア・アシカにとってここは楽園のようだが、19世紀初頭、毛皮の輸出のため乱獲され、絶滅の危機に追い込まれたこともあったという。

ガイドの話を聞きながらオーストラリア・アシカを見学する旅行客たち

ねぼけまなこでこちらを見ている姿が愛らしい

人間がコアラに観察される、「ハンソン・ベイ野生動物保護区」

ぬいぐるみのようなコアラ。じっと人間の様子を上から眺めている

ランチ休憩を挟んで訪れたのがユーカリの森が広がる「ハンソン・ベイ野生動物保護区」。ここでは野生のコアラを観察することができる。目を凝らして木の上の方を見ると、なにやら灰色の塊が……。コアラだ。野生のコアラに、はじめのうちは興奮していたが、目が慣れてくると、あちこちの木にコアラがぴったり収まって見下ろしている。まるでこちらがコアラに観察されているようだ。

ところで、この島にはコアラは元々生息していなかったという。1920年代、オーストラリア・アシカ同様に毛皮が高値で取引されていて、そうした乱獲による絶滅を避けるため、人の手によってカンガルー島に持ち込まれたのだそうだ。その後、島に自生するユーカリの豊富さに加えて天敵もいない環境もあって、当初18匹だったコアラは約3万匹までその数を増やしている。しかし、数を増やし過ぎたコアラが、逆にユーカリの森を食べ過ぎ、古来より続く島の生態系に影響を与えつつあるという。皮肉な話だが、人に自然をコントロールすることは出来ない、そういうことなのだろう。

島随一の絶景ポイント、「フリンダーズ・チェイス国立公園」

約5億年も前から存在するリマーカブル・ロックス

最後の訪問先となったのが島の西側に位置するフリンダーズ・チェイス国立公園。まずリマーカブル・ロックスと呼ばれる約5億年前から浸食されてできあがった花崗岩(かこうがん)の絶景ポイント。

その昔、カンガルー島はゴンドワナ大陸の一部だったが、オーストラリア大陸が形成された時に、カンガルー島は分離された。そんな果てしなく長い年月を、この巨石は風雨にさらされながら、じっと見つめてきたのだ。その造形美は、岩に近づけば近づくほど不思議な美しさを放ち、まるでひとつの芸術作品のよう。「インスタ映え」ポイントだ。

岩を取り囲むように生えるユーカリやティーツリーの原生林が全て同じ方向に傾いているのは、南極から常時吹きつける強風がもたらしたものだ。自然の驚異を感じずにはいられない。リマーカブル・ロックスの先には、もう南極大陸しかないと思うと感慨深い。

さまざまな形の岩が点在する。岩登りは十分に注意

国立公園内に群生するティーツリー

アドミラルズ・アーチ、数千年間、波や風などにさらされアーチ状の空洞になった

リマーカブル・ロックスから6キロほど南西の岬に、ギザギザとしたアーチ型の岩、アドミラルズ・アーチがある。天井には無数の鍾乳石が垂れ下がり、まるで魚の口内から外をのぞいているみたいだ。これも南極から吹きつける風雨がもたらした造形美だ。

アドミラルズ・アーチの下の潮だまりではニュージーランド・オットセイの子どもが遊んでいる。ここはニュージーランド・オットセイの一大繁殖地となっており、シールベイ自然保護区のオーストラリア・アシカとはすみ分けがされている。動物ならではの決まり事があるのだろう。そして南極海を望むカンガルー島随一の景勝地であるアドミラルズ・アーチでツアーは終了となった。

カンガルー島滞在の拠点「キングスコート」

ノスタルジックなキングスコートの町並み

今回のカンガルー島滞在で拠点にした町、キングスコートは、インフォメーションセンターやホテル、カフェレストラン、スーパーなどひととおりが集まる。ギフトショップでは島特産のハチミツやオリーブオイル、ユーカリのスキンケアなどお土産もそろっている。中心部から2キロほど北にある「ベイ・オブ・ショールズ・ワイン 」では、エチケットにペリカンのイラストが描かれた可愛らしいワインを販売している。テイスティングもできるので、気軽に足を運んでみたい。

「オーロラ・オゾン・ホテル」のレストランでは海を眺めながら食事ができる

「ベイ・オブ・ショールズ・ワイン」でのんびり過ごすのもいい

今回は見ることができなかったが、ナイトサファリツアーに参加すればフェアリーペンギンに遭遇することもあるという。次に訪れた時には、数日間滞在して、素晴らしい自然と野生動物との関わり合いを学びながら、存分にこの島を体験したい。自然学習を兼ねた家族旅行にもぴったりだ。

■取材協力
オーストラリア政府観光局

SEALINK

PROFILE

鈴木博美

鈴木博美
旅行業界で15年間の勤務を経てフリーの旅行家に。旅を通じて食や文化、風土を執筆。日本航空機内誌のほか、新聞雑誌等に海外各地の旅の記事を寄稿。著書に一人旅に役立つ電子書籍「OL一人旅レシピ」インド編、ベトナム・カンボジア編、エジプト編、世界中のおいしい料理をおうちで作る「いつもの食材で作る世界の料理レシピ」。ブログ「空想地球旅行」で旅のあれこれを発信中。

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